実態と矛盾する米国雇用統計結果と低調な世界経済 --- 岡本 裕明

アゴラ

まずは恒例の雇用統計。結果はサプライズに近いプラス14万6000人で事前予想の85000人を大きく上回りました。また、失業率は一部では悪化するのではないかとされていましたがこちらも0.2%ベーシスポイント下がり7.7%となりました。

解説はいろいろあります。というより後付の講釈としたほうがよいでしょう。失業率の低下の説明はハリケーンにより、労働参加率が低下した(63.6% 前月比マイナス0.2%ベーシスポイント)ことが計算上の失業率低下となったことのようです。当初はこの労働参加率の低下を勘案していなかったため、ハリケーンによる労働状況悪化が失業率悪化に繋がると見ていたのだろうと思います。


では雇用のネット増。これは小売部門が5万3000人増となり最大の貢献で建設のマイナス2万などが足を引っ張りましたが全体的にまちまちといったところです。小売の雇用増はクリスマスセールを一週間前倒しで行うことで雇用も早めに増やしたというのが説明です。

個人的には今回のこの雇用統計の結果はやや、不思議な感がしています。私がアナリストなら私も雇用悪化を見込んでいたと思います。私はアメリカが長期的な雇用回復に繋がっているとは微塵も思っていません。雇用者数も失業率も特殊な要因によるところであってアメリカ全体の景気回復に結びつく状況ではありません。

ましてや議論されている財政の崖問題は一定の妥協策が出てくる可能性もありますが、根本的な改善案にはならない政治家の折衷の産物になると見ています。また、来年からの歳出削減がじわりと重荷になってくるかもしれませんからアメリカの景気は今後数ヶ月が勝負どころになってくるはずです。

ところでクリスマス商戦、どうも言うほど芳しくない気がしています。消費者の懐は厳しく、財布の紐は固い、というのが小売業などから聞こえてくる声です。企業のクリスマスパーティーもスケールダウンがあちらこちらで見られますので年明けには企業の嘆き節が聞こえてくるかもしれません。

話は変わりますが、バンクーバーの不動産。これも思った以上に悪化しています。11月の売買件数は昨年同月比29%ダウンの1686件。価格は今年のピークの5月から4.5%ダウンの596900ドルとなっています。

昨日、あるところで話をしていたところ、私の友人が進めている、「当人曰く『楽勝で売れるはず』」の新規開発物件が激しい競争で苦戦しているとのこと。バンクーバー地区の住宅はごく一部の物件を除いて着工前契約件数は5割-6割程度ではないかといわれており、少なくともこの20年来でもっとも不調な感じがしてきています。私が投資している低層住宅開発案件も開発が6ヶ月遅延しておりやや懸念しています。

バンクーバーの不動産は完全なる買い手マーケットとなっている上に新規物件がこの先、数千ユニット単位で出てくるため、市場で吸収しきれなくなることはほぼ間違えないとみています。そうなれば需給調整に最低でも数年は要するとみたほうがよいでしょう。中国経済の回復具合、カナダ移民局の移民受け入れ方針の再構築などを踏まえ、大局的で地球儀ベースの流れを想像する限りでは個人的には3~5年ぐらいは市場は低迷し、その後はゆっくりした回復になると見ています。目先の不動産価格の値上がり期待はまず無理とみてよいかと思います。

ところで不動産値上がりは不動産に対する需要が高まる過程において生じるものですが、いったん成熟すると値上がりは止まり投資家は不動産マーケットからの退散をすることで市場からの資金がマイナスに転じることになります。中国など新興国では中流層の住宅取得ブーム、カナダではライフスタイルのチェンジから集合住宅ブームが生まれたわけですが、需要のポケットは既に充足していますから今後はブームになることはないというのが私の持論です。

この先も景気がよい話は当面聞こえてこないという気がします。こういうときは背伸びをせずにしっかり大地に足をつけてどっぶり構えるのがベストだと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年12月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。