均衡という常識

2012年12月10日 11:35

物理現象、社会現象は、いくつかのパラメータの均衡点(固定点)が存在することが多く、その均衡点がアトラクター(安定固定点)であれば、そこに向かって現象は動いてゆくのが普通である。ゲーム理論で有名なナッシュ均衡も、均衡の一例であるし、もっと簡単な例を挙げると、価格は需要と供給の均衡点に収斂してゆく。  

さて現在行われている衆議院議員選挙では、自民党を始め多くの政党が、日銀による大胆な金融緩和により、デフレを脱却し、円安にすることで、景気回復を行うと主張している。

しかし、こういった考え方は、均衡という考え方から見ると、非常に奇異に感じられる。


為替は何で決まるのか?

多くの人が、現在は円高だと言い、円高を是正すべきだと言う。しかし、円高是正を主張している人たちも、何故、円高なのか、いうことには、きちんとした回答を聞いたことがない。

現在、多くの国では、為替は変動相場制を採用している。これは、変動相場制が不均衡を是正するのに必要だからである。それでは、変動する為替が是正する不均衡とは何か、というと、それは、経常収支である。

国のネットのお金のやり取りを表すのが、経常収支である。  

    経常収支= 貿易収支 + 所得収支

と表され、貿易収支は、モノやサービスのやり取りにより引き起こされるお金のやり取り、所得収支は、株の配当や海外で上げた利益の還流など所得のやり取りに対応している。
定義から分かるように、経常収支は世界全体で足し合わせるとゼロなる。 だから世界には経常収支がプラスの国もマイナスの国も存在する。 世界全体の経常収支の均衡点は、全ての国が経常収支がゼロの状態である。  

為替が、経常収支の不均衡を是正するメカニズムは、次のとおり。 経常収支が赤字の国は、自国の通貨が安くなり、輸入を減らし、輸出が増加することになり、経常収支が黒字の国は、自国の通貨が高くなり、輸出が減り、輸入が増加して各国の経常収支は均衡点ゼロに向かって調整圧力が掛かる。

勿論、これは単純化した話で、為替を決定する大きな要因は、金利といった他の主要な要因も存在する。金利を低くすれば、通貨は安くなり、高くすれば、通貨は高くなる。しかし金利も不均衡の是正のための道具であることには変わりない。

為替のこういった調節機能は、一見、大きくは見えないけれども、それを人工的に操作すると経済は歪められる。

その典型例がユーロ危機である。 経済政策を統合しないまま、通貨統合を行ったために、南欧の信用力が人為的に高まった。 そのため、ドイツなどから南欧への輸出が急増し、不均衡が拡大したが、通貨統合のために為替や金利といった調整力が働かず、不均衡が拡大し続けた。 このため起きたのがユーロ危機である。

さて、日本の経常収支を見ると、現在まで長期に渡り、経常黒字を続けている。

経常収支

(「経常収支の推移」から転載、青線が経常収支、黄線が所得収支、赤線が貿易収支)

一方アメリカは、現在まで長期に渡り、経常赤字を続けている。 こういった状態は、幾ら基軸通貨国とはいえ、今後も長期間続けられるとは、とても考えられないから、ドルは安くなり、アメリカ人は身の丈に合った消費活動に戻らないといけないし、今までアメリカへの輸出で潤ってきた日本経済も、円が高くなることで、輸出が難しくなり、輸出が減り、海外への工場移転など産業空洞化圧力が掛かるのである。

つまり、為替は各国の思惑で操作されているものではなく、また操作してよいものでもない。短期的にオーバーシュートすることはあっても、為替の調整機能は、尊重されるべきだろう。

もう一つの不均衡、財政赤字 

今まで長きにわたり経常黒字を続けてきた日本であるが、、2011年度は、輸出総額(確定値) 65兆5465億円、輸入総額(確定値) 68兆1112億円であり、貿易赤字に転じているが、所得収支がプラスのために、経常収支は今のところプラスになっている。 しかし、上のグラフのように、貿易収支の赤字基調から、経常収支の黒字幅は減少傾向である。今年9月には一時的に経常赤字になっており、近い将来、経常赤字に転じると予測されている。実際、経常赤字は、25年度には、16.7兆円の赤字になると日本経済研究センターが予測している。

経常赤字になること自体は、それほど驚くことではないが

     国民貯蓄 = (投資 – 固定資本減耗) + 経常収支

であるから、経常赤字は、海外からの投資なしには、経済が縮小することを意味する。

さて、これは何を意味するのだろうか。 次のような影響が考えられる

(1) 日本国債の格付けが低下する。
(2) 海外の投資家に大量の国債を売らなくてはならなくなり、金利が上昇する。
(3) 金利の上昇により、経済が低迷する。
(4) 日本企業の海外からの資金調達がしにくくなる。
(5) 円安になり、輸入物価が上昇する一方で、輸出はし易くなる。

特に、国債金利の上昇は、現在のように国債発行残高がGDPの2倍を超える水準の場合、利払い費の増加となり、財政を圧迫する。 国債の国内消化の可能性を詳細に分析した優れたレポート:「東日本大震災で懸念される国債の国内消化構造の綻び」によれば、2017年度以降、新規発行国債の中、国内で消化できる割合は50%を割り込むと試算されている。 

海外の投資家が、現在のような低い金利で、日本国債を買ってくれるとは、とても思えない。

さらに重大なことは、財政危機が深化し、国民の貯蓄のかなりの部分が国債に化けており、これが増大し続ければ、経済が好転し企業の投資活動を活発化させようとすれば、長期金利が上昇するメカニズムが働いて、景気が冷やされることになる。現在、国債の消化に支障がないのは、資金需要がないためであり、正常な状態でなない。

つまり財政赤字の拡大が、景気回復を困難にしている「限界に近づく日本財政 国民貯蓄減で生産縮小も」参照)

以上のように、経常収支をバランスさせようとすると、もう一つの不均衡、財政赤字の問題が顕在化するというのが、現在の日本経済の現状である。

均衡を促す政策を

大胆な(つまり非日常的な)金融緩和による円安政策(もしくは財政ファイナンス)や消費税増税先送りといった政策は、不均衡を拡大する政策であって、率直に言って、不合理で荒唐無稽である。   不均衡を拡大する政策は、必ず揺り戻しがあり、上手くゆかない、というのが鉄則だろう。 これは家電エコポイントやエコカー減税の結果を見れば明らかだ。

「国土強靭化計画」「国力倍増計画」といったクレージーな主張は、正に現代の錬金術であり、荒唐無稽としか言いようがないし、少なくとも正常な主張とは言えない。

日本経済の問題点は前記事:「景気は何故悪いのか?」「日本経済の実力と冷静に向き合おう」で書いた通りである。 

それでは、どういう政策が日本経済を改善するのか、というと、


(1) 増税と歳出削減によるプライマリーバランスの黒字化、
(2) 均衡を実現するのを妨げている障壁を取り除くこと、
(3) 人材開国をして、海外から優秀な人材を獲得すること、
(4) 人材の質を改善する教育

だと言えるだろう。 (2)については、無理に延命してきた低生産性企業から、高生産性企業に労働力を移動すること、人材の有効利用を妨げてきた様々な障壁を取り除くことが必要だろう。何れにしろ、日本には人材以外の資源はないので、その充実や有効活用を図らないといけない。 

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