世界経済のマイナス成長とその影響

2012年12月14日 17:45

最近、「UBSもマイナス金利導入へ 」というニュースがあった。 また、ヨーロッパでは、金利が低下し、運用に掛かるコストや投資家に払う分配金の確保が困難になり、ユーロ建てMMFの償還が相次いでいる。 先進国の経済成長が鈍化し、運用難で金融システムが動揺している。経済成長の鈍化が、金融システムを蝕んでいる。

このように、既に先進国経済では金融システムが正常に働かなくなるほどの低成長であるが、これは、変化の前触れに過ぎず、今後、世界経済、特に先進国経済は、持続的なマイナス成長に陥る可能性が高いと思われる。 


低下する潜在成長率

日本の過去20年間の平均の実質経済成長率は、年0.9%である。これから日本の潜在成長率は0.9%程度と推定される。これは、20年間テストを受け続けた平均点が0.9%なので、実力は大体その位だろう、ということである。しかし、現在は20年前と比較して、高齢化が進み、製造業の国際競争力も低下していることから、日本の現在の潜在成長率(日本経済の実力)は0.9%未満と考えられ、この状態が続けば、近い将来ゼロまたはマイナスになると考えられる。

潜在成長率(=実力)以上の成長は、原理的に維持不可能なので、実質年率0.9%の経済成長は、現在の日本経済の実力から考えて、極めて高い成長率であると言える。

こういった潜在成長率の低下は、日本だけのことではなく、アメリカ、ヨーロッパとも共通であり、2006-2010の平均の実質経済成長率は、日米欧とも年率1%未満である。少なくとも、日米欧を比較して、日本だけが低成長なわけではない。先進国のほとんどが低成長に陥っているのである。少なくとも、日本の現状は、南ヨーロッパより、ましなのではないか、と思われる。

こういった先進国経済の低迷の主な原因は

(1)新興国へのアウトソーシングによる空洞化、賃金の低下。
(2)機械化、情報化による労働の二極化。
(3)地球の有限性の顕在化:(有限の資源を先進国と新興国で奪い合うことによる資源、食糧価格の高騰)

に求められるだろう。

ところが、ここにきて、新興国経済にも成長の鈍化傾向が見える。中国は7%台、インドは5%台、韓国は2%台、台湾は1%台の成長に低下している。これは一義的には、先進国への輸出で潤っていた新興国も、先進国経済の成長鈍化に引き摺られる形で、成長率が下がったということだが、内需中心の成長に移行することもできそうである。何故、世界経済は成長を鈍化させているのだろうか。

エネルギー消費と経済成長 

我々の生活において、あらゆる場面で、エネルギーが使われている。 例えば、我々の食卓に並ぶ、肉は、アメリカなどから輸入されたものであるか、国産であっても、トウモロコシなどからなる輸入飼料によって作られたもので、飼料用穀物の栽培には、石油エネルギーを変換した肥料、トラクターなどの燃料、輸送、流通といった様々な場面で、膨大なエネルギーが使われている。このように我々の命を維持する源、食物を作り、食卓に並ぶまでに、そのカロリー数の約10倍のエネルギーが使われていると言われる。  

我々が通勤、通学に使う交通機関、冷暖房、便利な家電製品、こういったもの全てがエネルギーがないと動かない。 

我々の生活を支えるものは、エネルギーと水といってよく、これらを如何に潤沢に供給するか、あるいは如何に効率的に使うか、で我々の物質的豊かさは決定される。  

実際、次のグラフのようにエネルギー使用量と、経済成長には、極めて強い相関がある。この相関関係の一次式の定数項は、エネルギー使用の効率化によるものと考えてよい。
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Gail Tverberg: An Energy/GDP Forecast to 2050から転載)

我々人類のエネルギー使用量は、産業革命後に飛躍的なスピードで増大してきた。

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Gail Tverberg: An Energy/GDP Forecast to 2050から転載)

しかし、このような急激な使用量の増大は、持続可能だろうか?

減耗するエネルギーが成長を困難に

これは、現実に限界を迎えている。 日本ではアメリカのシェールオイル、シェールガス開発がシェール革命と報じられ、将来もエネルギーが潤沢に供給されるかのような幻想を抱く人も多いが、これは誤りである。 

実際、シェールオイルの産出コストは、1バレルあたり90ドルを超え、これは、将来、次第に上昇するものと考えられている。開発は産出が容易な場所から始まり、次第に産出が困難な場所を採掘するようになること、採掘に要するエネルギーコストが上昇すると考えられるからだ。シェールガスも現在100万Btu当たり4ドル弱だが、これは生産コストの半分以下で、維持可能な価格ではない。 

原油に限って言えば、今後、2010年代の半ばにもピークアウトするものと考えられている。

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また、エネルギー全体としても2050年には絶対量で、現在の3分の2程度、一人当たりだと約2分の1程度まで落ち込む: 

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上で述べたように、エネルギー産出量と、経済成長には明瞭な強い相関関係があるので、エネルギーの絶対量が減少すれば、世界経済は縮小せざるを得ないだろう。
エネルギーの絶対量以前に、エネルギー価格の高騰が、経済成長を阻害している。 イギリスのシンクタンクnefのレポート にもあるように、石油に大きく依存しているアメリカ、イギリス、日本といった国では、1バレル90ドルを超える原油価格では、景気後退が常態化する可能性が高い。現在の日本の化石燃料費は24兆円前後で、今後、これが例えば2倍になったと仮定すると、GDPの10%を超える。これは国民一人当たり年間40万円強程度で、経済成長をマイナスにするのに十分な大きさである。

結論としては、少なくとも中長期的には、経済成長は、ゼロまたはマイナスという状態が恒常化するものと思われる。 

マイナス成長の弊害

このように、エネルギーの減耗が進めば、世界経済全体が、マイナス成長を余儀なくされる。このこと自身は、当たり前の話で、受け入れざるを得ない。省エネや、新エネルギーの開発、再生可能エネルギーの活用など、様々な方法が考えられるが、エネルギー減耗のスピードの方が速いのが、現実だろう。 我々の直面している現実は、マネーといったバーチャルなものではなく、物理的な現実である。 

単純に考えれば、エネルギーの減耗は、20世紀初めの一人当たりエネルギー消費に戻せば、クリアできるだろう。ところが、これは、実際には現実的でない。 これは何故かというと、現在70億という世界人口を現在の半分程度のエネルギーで、支えるのは難しいからだ。 世界は混乱するだろう。 しかし、これは長期的な話だ。 

短期的には、マイナス成長は、「貸した金は、満額返ってこない」という状態になるということに対応するので、金融システムが真っ先にダメージを受ける。差し当たり、経済成長がマイナスを続けた場合の、金融システムの動揺を如何に防ぐか、そのスキーム作りが、世界の喫緊の大きな政治課題になるだろう。 インフレにすれば、「貸した金は、満額返ってこない」という事態は避けられるが、大事なのは名目金利ではなく、実質金利だから、インフレにしたところで、事態は本質的に改善しない。 

「ゼロサム社会のゆくえ」に書いたように、これからの世界は、誰かが豊かになれば、誰かが貧しくなるという世界に移行してゆく。 世界経済が縮小してゆく中で、どのように混乱を鎮め、平和を保つのか、人類の知恵が試されているといえるだろう。

正直なところ、景気を回復させ、皆が豊かになる時代は、完全に過ぎ去ったと言えると思う。 これからはサバイバルの時代だ。 

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