低下する経済成長、行き詰まる資本主義

2012年12月19日 12:39

衆議院議員選挙は、自民党の圧勝で終わり、間もなく発足する安倍政権の経済政策が注目を集めている。 安倍政権の経済政策は、報道を見る限り、日銀に圧力を掛け、インフレターゲットを2%とし、大規模な公共事業を行うもののようだ。 大規模な公共事業の財源として、国債発行以外の方法は存在しないが、これは予算の半分程度を国債発行で賄っている財政危機状況を、さらに悪化させるだろう。 

安倍政権の経済政策は、現在の低い経済成長では満足せず、高い経済成長を目指すものだ。 しかし、高い経済成長は、そもそも可能なものなのだろうか。 


日本の経済成長は低いのか? 

まず、そもそも、日本の景気は、国際的に見て悪いのだろうか。 

OECDのエコノミックアウトルックによる先進国の実質経済成長率の予測を見る限り、先進国経済の中では日本の実質成長率は2012年では上位であり、2014年まで見ても、決して低いパフォーマンスとは言えない。 アメリカと比較して、実質成長率が低いという見方もあるだろうが、小黒先生の記事のように一人当たりの実質成長率で見ると、日本経済のパフォーマンスは悪くない。 アメリカは人口が毎年1%前後も増加しているので、日本と比較する場合は、その分下駄を履いた形になるのである。 また、ユーロ圏で最も良いドイツ経済でも実質成長率は、現在0%台であり、今後も大きく加速するという兆候はない。 先進国全体が低成長に陥っている。

資本主義の行き詰まり

端的に言って、今、我々が直面しているのは、資本主義の行き詰まりである。 

資本主義には、経済を拡大し続けなければならないという宿命がある。そのためには、常に拡大再生産を行わなくてはならず、常に新しい市場、労働力といったフロンティアを探さなくてはならない。 

しかし、これは、主に次の3つの理由で不可能になりつつある:

(1) フロンティア(新たな有望な投資先)がなくなりつつある。 
(2) エントロピーの増大により、エネルギー資源、水資源の枯渇が顕在化している。
(3) 技術革新が世界経済のパイの拡大に寄与しにくくなっている。
 

これらについて一つ一つ検討してみよう。 

フロンティアの枯渇

ベルリンの壁崩壊後、社会主義国が次々と資本主義に組み込まれてゆき、安い労働力や、新しい市場、資源を提供し、世界経済はグローバル化の果実を得た。グローバル化は国際分業を通じて、世界を豊かにした。 社会主義の崩壊は、新たなフロンティアを提供した。 しかし、今、新たなフロンティアは、枯渇してきている。

実際、フロンティア不足を象徴する出来事には事欠かない。

リーマンショック前までは、複雑な金融工学を用いて、様々な金融商品が作られ、新たな投資対象として大きなブームをもたらしたが、その結果は悲惨なものだった。 金融市場は、常にブームを探し回るが、持続的な成長には繋がっていない。アメリカの住宅バブルと、その崩壊は、その象徴だ。無理な投資先の創造は、今も続いている。アメリカのシェールガスブームは、確かに、アメリカのガスを安くしたが、現在の価格は、採算ラインの半分以下だ。ブームに踊らされた投資家は、巨額の損失を出した。フェースブックの上場は、多くの投資家の期待を集めたが、その後の株価は低迷している。 

日本でも企業の手元資金は200兆円を超えているが、これらの資金は、国内に投資されない。 なぜなら国内には有望な投資先がないからだ。

先進国全体を見渡しても、有望な成長産業は、ほとんど見当たらない。 アメリカのオバマ政権のグリーンエコノミーといった新機軸も、ドイツの再生可能エネルギーの育成策も、経済成長という意味では、実を結んでいない。

エネルギー制約

エネルギー制約の顕在化は深刻だ。「世界経済のマイナス成長とその影響」で述べたように、エネルギー資源は高騰し、原油の生産は、既にほぼ限界だ。やがて全てのエネルギー産出の総量がピークアウトし、我々が使用できるエネルギーは劇的に減少するだろう。

今のエネルギー生産は、油田の老朽化、新規油田の発見の低迷、加圧や海水注入が必要になるといった原油産出のエネルギー効率EROI(産出エネルギー/投入エネルギー)の低下(産出に要するエネルギーの増大)が見られ、1930年代のEROIが100以上であったものが、現在は、20程度にまで低下している。Hall教授らの研究(参考文献参照)によれば、エネルギー全体のEROIが10以上ないと文明は維持できないとされる。シェールオイル、シェールガスなどのEROIは正確な計算はされていないものの10を下回っている可能性は高い。オイルサンドのEROIは1.5程度とされる。 

我々の直面しているのは、文明の持続可能性なのである。   

技術革新が世界経済のパイを拡大しない理由

技術革新は、現在でも続いているし、そのスピードは維持されているように思われる。 

しかしながら、世界経済のパイの拡大のスピードは、技術革新にも関わらず、第二次産業革命時(1865-1900)と比較して遥かに小さい。 

この最大の原因は、我々の生活の豊かさは使用可能エネルギーと、そのエネルギー効率によって決定されるのに対し、現在の技術革新の殆どは、エネルギー革命でないからである。
 

第二次産業革命時、木炭から石炭、石炭から石油へといった、エネルギー革命によって、一人当たりの使用可能エネルギーが飛躍的に増大したのに比較して、今日の技術革新の大部分は、使用可能エネルギーの増大を伴わない。

エネルギー消費の効率化を行うことによって我々の生活は改善できる。しかし、省エネルギーといったエネルギー使用の効率化は、熱力学的な限界があり、そのスピードは逓減せざるを得ない宿命がある。 

例えば、液晶の発明は、使用電力の大幅な低減を実現した重要な技術だが、現在の有機EL液晶の実用化といった発明は、低電力化に資するとはいえ、ブラウン管から液晶に移行した時に比べエネルギー使用の絶対量の低減効果は格段に小さい。 

 大きくならないパイの奪い合い

このように、我々が直面している問題は、フロンティアの喪失、エネルギー産出の限界であり、それは既に、エネルギー価格の高騰という形で、顕在化している。エネルギー使用の効率化を大きくするのは困難なので、今後、世界経済のパイは非常にゆっくりしか大きくならず、石油ピークを過ぎれば、エネルギー産出の減少と共に、小さくなってゆく。

こうした中で、成長の大きい新興国と、先進国が、大きくならないパイを奪い合うという構図は不変であると考えられる。 少なくとも先進国の経済成長は維持可能ではない。 

このように資本主義は近い将来、持続できなくなる。これは成長が永遠に続くことはない、という自明な事実、またエントロピーの増大という物理法則から導出できることで、驚くべきことではない。我々が直面しているのは、豊かなエネルギーの時代の終焉なのだ。 

我々は、低成長あるいはマイナス成長を受け入れ、その中で、どうやって生き残るのかを考えるべきだ。 

間もなく、安倍政権が発足するが、政府が無理に経済成長を押し上げることは不可能だ。 巨額の財政出動を行って、経済を押し上げようとしても、経常収支が悪化し、国債を買い支える資金が細くなれば、長期金利は上昇する。 今、不足しているのは金ではなく、新たなフロンティアや安くて豊富なエネルギーなのだ。 

参考文献

Charles A. S. Hall, Stephen Balogh and David J. R. Murphy, What is the Minimum EROI that a Sustainable Society Must Have?, Energies 2009, 2, 25-47; doi:10.3390/en20100025

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