規制緩和と税制改革だけが日本を蘇らせる

藤沢 数希

12月16日の衆院選は自民党の地滑り的勝利となった。自民は294議席、公明党は31議席を獲得。自公両党は計325議席となり参院で法案が否決されても、衆院で法案の再可決が可能となる3分の2の議席である320議席を上回った。民主党は、約4分の1に議席数を減らし57議席の惨敗。石原慎太郎と橋下徹が率いる日本維新の会が54議席を得て、衆院で単独で内閣不信任決議案、予算関連法案をそれぞれ提出できる議席を確保。みんなの党は議席数を増やし18議席となった。筆者は、今回の衆院選で注目すべきポイントはみっつあると考えている。エネルギー政策、マクロ経済政策、そして成長戦略である。


エネルギー政策に関しては、今回の衆院選は日本の将来にとって良い方向に進んだと考えている。日本では、原発の再稼働ができないという極めて経済損失が大きい事態となっている。追加的な化石燃料だけで年間3兆円以上の国民負担が発生し、電力不安や電力価格の上昇による産業の国外流出を考慮すればそれよりも大きな負の影響がある。原発立地自治体の選挙では、これまでことごとく反原発派の候補が敗れてきたが、今回の国政選挙で、唯一原発の削減目標を掲げなかった自民党が大勝利し、脱原発を訴える民主党が惨敗、即時の原発廃止を主張する日本未来の党が議席数を7分の1まで減らす大敗北を喫して、民意が示された。こうして原発再稼働の目処が立ったことにより、選挙後に電力株は高騰した。東電株は現在までに50%以上の値上がり、関電株は16%の値上がりとなっている。衆院選は、不毛な反原発運動に終止符を打ったのだ。原発が再稼働しないことに何のメリットもないのだから、政府は可及的速やかな原発の再稼働をするべきだ。エネルギー政策の詳細はを知りたい方は、拙著『反原発の不都合な真実』を読んでもらいたい。

マクロ経済政策に関しては筆者は間違った方向に進んでいると考えている。安倍晋三総裁が日銀に「大胆な」金融緩和を要求するとともに、自公両党は10兆円規模の大規模な補正予算を編成するように調整している。拙著『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』などにも詳細に書いたことであるが、こうした金融政策や財政政策というのは、基本的に景気のスムージング効果しかない、という当たり前の事実をまず認識する必要がある。金融緩和は、将来の景気の前借りで、基本的に短期金利がゼロになったらお終いだ。現在の日本は将来の景気の前借りを使い果たしてしまい、通常の金融緩和からはみ出した非伝統的金融政策に踏み込んでいる状況であり、その副作用も大きい。財政政策も将来の需要の前借りである。国債を発行するというのは現在の徴税を将来に先送りするということに他ならないのだから、国債を発行してばら撒けば、将来はより苦しい選択肢しか残らないのだ。仮に政治家が、景気の山と谷を正確に予測できれば、景気が悪い時にマクロ経済政策で将来分を前借りして、景気が良くなった時にそれを返す、ということで景気のスムージングができる可能性があるので、マクロ経済政策を正当化できるが、実際には政治家は景気の山と谷を正確に予測できないし、できたとしてもタイムリーにマクロ経済政策を実行することはできない。よって、恣意的なマクロ経済政策は百害あって一利なしである。

3つ目は成長戦略である。日本の潜在経済成長率を高めることが、何よりも重要であるということを筆者は度々書いてきた。経済成長率を高めるには、より高い成長が見込める産業に労働力や資金がスムースに移動する必要がある。これは政治家や官僚が成長産業を見定めるのではなく、民間が市場の中での競争で自発的に行う必要があるのだ。よって、政府がやるべきことは、労働力の移動が妨げられる不必要な雇用規制や、資金の移動が妨げられる資本市場の様々な規制を取り除くことだ。つまり、企業が自由にリストラを実行でき、株主が自由に企業買収や事業売却、経営者の交代を実行できるようにすることが必要なのだ。そして、不必要になった企業が、市場全体に悪影響を与えないように円滑に破産処理ができるように法整備が必要だ。恣意的なマクロ経済政策は、景気のスムージングができないどころか、ゾンビ企業を延命させるという点でも、罪深いのだ。こうして成長率が低い産業に貴重な労働力がロックインされ、経済全体の成長率が上がらない。

要するに、政府が何もしないのが一番の成長戦略なのである。政府がするべきことは、産業構造が市場環境に合わせて柔軟に変化することを妨げる、大小様々な規制を取り払うことだ。

さて、こうした規制緩和を進めるとともに、もうひとつ大事なことがある。税制改革である。現代はグローバル化により、ヒト・モノ・カネが自由に国境を行き交う時代だ。日本だけが重税を課していたのでは、企業も人も出ていってしまう。特に、日本はアジア諸国と租税競争が繰り広げられており、可及的速やかにアジア経済圏の中での標準的な税制にする必要がある。シンガポールや香港は所得税も法人税も10%台である。日本は、法人税は40%、所得税の最高税率は住民税と合わせて50%だ。これでは誘致どころか、優良企業も優秀な人材も日本から出ていってしまう。こうして日本の税収が減るのだから、結局のところ福祉へ回せる金が減るので、弱い物へしわ寄せが行く。

安倍政権には、以上のような経済の原理原則を理解し、標準的な経済政策でもって日本を再浮上させることを期待しよう。