「007」復活に学ぶ日本の再生---新田哲史

2012年12月20日 11:18

●「スカイフォール」が驚異的なヒット
総選挙が終わった。投票率は戦後最低。結果に否定はしないがビミョーな気分なのは、筆者も無党派の有権者の皆さんと同じか。こういう時はついつい現実逃避の手段で映画でも行きたくなるものだが、「007」の最新作「スカイフォール」、公開から半月余り経つが絶好調でしたね。


数字が驚異的なヒットぶりを物語る。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの発表によると、日本公開の最初の週末(12月1~2日)は約4億5,000万円。これは前2作の「カジノ・ロワイヤル」(約2億6,000万円)、「慰めの報酬」(約3億1,000万円)を上回る。最新作は公開9日で10億円を突破。総合興収も「カジノ―」の22億円、「慰め―」の20億円を更新するのは確実だ。おひざ元の英国に至っては同国の歴代興行収入1位記録を公開40日目で塗り替えたそうだ(従来は「アバター」)。

ソニー側も分析しているように、破竹の勢いをもたらしたのは、「従来の007ファンに加え、久しぶりに007映画を観るオールドファン、今まで観たことがないという若い層が押し寄せた」からだ。出来栄えに否定的な意見もあるようだが、歴代23作でランキングを作っても五指に入る傑作だと思う。初期3部作を「殿堂」扱いにすればトップ級だ。アゴラでの私のデビュー記事でも触れたとおり、ロンドン五輪開会式、大掛かりかつ巧妙なプロモーションで公開前から注目を集め、肝心の中身も良いのだから妥当なヒットだ。口コミ(SNSも含め)、リピーターも呼び込む好循環に乗っているといえる。私も2度観たが、切なく、熱いものを終盤に感じさせる作品は、歴代でも数少ない。初心者でも十分に楽しめる。

●リノベーションの成功
最新作の特長をキーワードで表すとしたら、読売新聞文化部の近藤孝記者が映画評で書かれたように「伝統と革新」の融合だ。「革新」の象徴的存在は秘密兵器の開発担当でおなじみの「Q」。ダニエル・クレイグ主演作では初登場だが、故デズモンド・リューウェリンが演じた好々爺的存在から一変、ボンドより一回り年下と若い。兵器開発に加え、ビッグデータ解析などITスキルの強さもある。敵も極めて優れたハッキング能力を備え、昔のソ連のように明確な姿もない。一方、ボンドカーはあのアストンマーチンDB5が復活して長年のファンの心をくすぐる。終盤のヤマ場はイアン・フレミングの原作の世界観を体現した舞台で印象深い。伝統と革新を融合した「リノベーション」に成功し、固定ファンに加え、新規の観客開拓に成功した。

ボンドの役柄もリノベーションの試行錯誤だった。私なりにポジショニングを作成してみたが=下記参照=、俳優によって持ち味を出そうとしている。
「007」画像1

強烈な存在感を放った初代ショーン・コネリーの後継者は、各々が独自のボンド像確立との格闘だった。初代~5代目と共演したQ役のリューウリンは生前、「俳優は他人の真似をしたがらない」と語っている(「究極の007大全集」より)。2代目ジョージ・レイゼンビーは豪出身のモデルで演技経験なし。当時はコネリーの幻影が色濃く残り、制作者側の意向で前任者のカーボンコピーを目指したが、失敗した。だからこそ3代目のロジャー・ムーアは「知性」「エンタメ」路線にグイッと踏み込む対極にポジショニング。これは正解だった。シェークスピア劇の舞台出身・ティモシー・ダルトンは「シリアス」路線にシフトして差別化。そして「コネリーとムーアの中間」と評すファンが多いピアース・ブロスナンは、やはりこの位置。本人は「コネリーのみを意識した」と語っているが、甘いマスクで飛ばすユーモアはムーアを彷彿とさせる。そして現役のクレイグは歴代で最も鍛え上げた肉体の持ち主だ。

作品もリノベーションの連続だ。映画界の時流を意欲的に取り込む。かつてシリーズは次回作のタイトルをエンドロールで予告していたが、11作目「ムーンレイカー」(79年)を予定を変えてまで制作したのは典型だ。プロデューサーのアルバート・ブロッコリが当時ヒットした「スターウォーズ」に刺激されためで、ボンドを宇宙に送り出した。ド派手なスタントで90年代のアクション映画の基準になった「ダイ・ハード」(88年)はブロスナンの作品にも一定の影響を与えたように見えるし、00年代を代表するスパイ映画のライバル「ボーン」シリーズからも、現実の諜報世界を意識したそのシリアスな作風は、クレイグ作品でも意識されているのではないか。実際、役者のポジショニングと照らし合わせると=下記参照=、大体近い。「ムーンレイカー」はやっぱりムーアらしさが必要だったのだ。
「007」画像2

●「007」から日本が学ぶもの
半世紀を振り返って抱いたのは、浮き沈みの激しい映画の世界で作品を出し続け、なおも世界を魅了してやまない魅力がどこにあるかという疑問だ。一度確立した伝統のブランドに陰りが見えるや、創意工夫を重ね、革新的な要素を貪欲に取り入れていく。冒頭に選挙の話を持ってきたのは決して気まぐれではない。日本人としては、この作品を楽しむに終わらず、政治、経済、ビジネス、社会の錆びつきを取っ払って再生することへの示唆と位置付けられないだろうか。ちなみに、この作品、日本人が学べる要素がまだまだ多いと思う。あ、一冊の書籍にできそうだな(笑)。出版社の方、もし良ければお声掛けください!

新田 哲史(にった てつじ)
メディアストラテジスト

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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