デフレ脱却の目指す均衡は存在するか?

2012年12月22日 11:21

現象には、いくつかのパラメータがあり、それが、力学的に動いており、通常は、一定の状態(定常状態=均衡)へと引き寄せられるように力が働きます。 日本経済について言えば、現在、我々が観測している、経済成長率、人口動態、金利、インフレ率といったパラメータは、勝手に誰かが決めているわけではありません。この辺は「均衡という常識」で述べた通りです。 

しかし、池田先生が「景気対策の有効性と複数均衡」で、分かり易い図を使って示されているように、複数均衡があれば、より良い均衡へと経済を動かすことは意味があります。  


ところが、90年代の巨額の財政出動でも、新たな均衡へと移ることは出来ず。 日銀がGDP比で世界一の資産を持つような量的緩和をしても、新たな均衡には移りませんでした。

これは、均衡状態でない状態に経済を動かしても、景気対策、金融政策を止めれば、すぐに元の状態に戻ってしまうということで、これは複数均衡があるにしても、それは現在の均衡から近いところにはない、ということを示唆します。 

従って、過去の景気対策のレッスンから、それでは、何かのパラメーターを過激に動かして、別の均衡に移ろうという話になり、「過去の対策とは次元の違う」景気対策を行うという話になっているわけです

安倍政権が想定する、もう一つの均衡はどのようなものか?

さて、間もなく発足する安部政権では、日銀との政策協定を結び、インフレ目標2%を設定して、デフレを脱却し、名目3%成長を目指すようです。 デフレを脱却し、緩やかなインフレになると、経済は上向くということのようです。

均衡という考え方をすると、この政策を正当化するには。デフレ脱却をして、どのような均衡状態を目指しているのか、少なくとも大まかな描像を持っていることが必要ですが、それはどのようなものでしょうか。

下のグラフを見て分かるように、現在のデフレ状態は、バブル崩壊から、約20年に渡って続いています。  

インフレ率(年平均値)の推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

この間、低成長が続いているわけです(実質成長率の推移):

4400

「社会実情データ図録」から転載)

これを見ると、バブル崩壊前の状況に、経済のパラメータをバブル崩壊前に全て戻せば、かつての高成長が取り戻せそうに思えます。 

そこで、インフレ率をバブル崩壊前に戻し、経済成長率もバブル崩壊前(何と6%以上)に戻ったとしましょう。 素晴らしい。 これは実現可能なのでしょうか? 

財政赤字が緩やかなインフレ達成の障害に

ところが、これは困ったことになるのです。 なぜなら、現在の政府債務1000兆円超に掛かる金利がどうなるかを見るとそれは、分かります。バブル崩壊前の長期金利は、6%以上ですが、こんな高い長期金利になったら、1000兆円超の政府債務には年に60兆円以上もの金利が掛かってきます。勿論、これは一気にではありませんが、年間の国債発行は、借換債を含め150兆円規模になっていますので、単純計算すると1%の金利上昇で、毎年1.5兆円の追加負担が生じ、これが借り換えが終わるまで続くことになります(さらに10%の円安で、2.5兆円程度の化石燃料の増加も生じます)。 

そうでなくても、長期金利は名目成長率を上回ると考えるのが自然で、実際、そのようになっています。
kinri530

http://www.garbagenews.net/archives/1060924.html
「長期金利の推移」から転載 

gn-20091012-16

(「日本の経済成長率をグラフ化してみる」)から転載)

長期金利 > 名目成長率は、ドイツ、アメリカなどの先進国での長期に渡る観測でも、ほとんど成り立っており、長期金利ー名目成長率 は1.5%-2.5%ほどのようです。

以前、長期金利 < 名目成長率に出来るか、という与謝野-竹中論争がありましたが、結論は出なかったものの、長期金利 < 名目成長率 を実現する確実な方法や、その理論的根拠も存在しないので、過去の観測を尊重し、長期金利 > 名目成長率 となることを想定すべきでしょう(三菱総研のレポートでも長期金利 > 名目成長率 を仮定して予測しています)。 

こうやって考えると、2%のインフレ率、3%の名目成長を実現するという安倍政権の方針は、長期金利が3%を超えることを想定して行わなければなりません(インフレ率を下回る長期金利はさらに考えにくいので、少なくとも長期金利は2%を上回るでしょう)。1000兆円を超える政府債務に3%以上の金利が掛かっても、税収が何十兆円も増えることが起きれば、何とかなるのかも知れませんが、そんなことが起きるとは考えられません。
2%のインフレが続くような均衡は、存在しないように思われます。 

何れにしても、安部政権は、目指す均衡状態がどのようなものか、国民に説明してほしいものです。 経済のパラメータはお互いに関連し合っており、独立に勝手に動かすことはできないのです。 

私は長年、数学の研究をしていますが、数学の世界を探求していて感じることは、世の中よくできているということです。  

現象には全て理由があり、我々が日頃目にしているものは、均衡状態です。 昆虫の足が6本だというのにも、体を支えるのに最低3つの支点が必要であり、体を動かすには、3つの支点を交互に動かせばよい、というように全ての現象には理由があるのです。 

今のデフレは、多くの日本人にとって困ったことであり、不快であることは確かですが、だからといって、それを一朝一夕に解消する方法は、存在しない。 つまり、今の状態は、現在の日本経済の実力を正確に反映したものだということではないかと思うべきでしょう。 今、我々が見ているものは均衡そのものなのですから。 

経済を上向かせるには、過激な政策ではなく、構造改革などの地道な努力を重ねるしかありません。
 

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