日本と米仏の原子力規制当局との悲しい力量差-- 活断層騒ぎに思う行政の「継続性」と「透明性」の必要

2012年12月28日 13:30

正当性が疑われる判断が重なる

日本の原子力規制委員会が、2つの原発が活断層上にあると認定をして、その原発を再稼動させずに事実上廃炉にしようとしている。その問題は、アゴラで各論客が指摘している。(藤沢和希氏「「活断層」という不毛な議論で日本が滅びる」など)


もちろん電力会社はこの問題で批判されなければならない。厳格な地層の検証を経ずに、原子炉を建設した可能性があるからだ。しかし慎重な対応をしなければならない廃炉判断を、急いで、批判の中で進める規制委員会の姿勢は、適切なのか疑問がある。

特に専門家検討チームで「活断層」と叫んでいる人の中には、政治的に偏向している人がいる。メンバーの東洋大学の渡辺満久教授は、反原発活動家の小出裕章氏、また11年夏に山下福島医科大学の副学長らを刑事告発すると騒ぎ(実際はしなかったようだが)問題のある行動をした活動家の明石昇二郎氏とともに、「「最悪」の核施設六ヶ所再処理工場」(集英社)という本を出している。ちなみに刑事告発騒ぎで、多くの学者が萎縮して正しい情報が流れなくなってしまった。

名前から推察できるように原子力への恐怖を煽る低劣な本であり、全文通読する価値がなかった。冒頭に「シミュレーション」という名の「妄想」が書いてあった。この施設が津波と地震に襲われ、核燃料容器が壊れ、東日本が壊滅するという内容だ。

私は現地を取材したが、海抜50メートルにこの施設があり、地盤は特殊でどの地震でも振動幅が小さいというデータ、さらにコンクリートの何重もの容器に封印された核物質を見た。地震と津波が襲い施設が全壊して核物質が四散するというロジックが、福島の事故の経緯を知った後でも私は想像できなかった。呆れて時間の無駄なので、この本を読み込まなかった。執筆者は現地を見ていないのだろうか。

渡辺氏はこの本でこの場所に、活断層があるとの文章を延々と書いていた。まず結論ありきの人らしい。上述の「妄想」は渡辺氏の担当ではなかったが、このレベルの本に名前を連ねることは渡辺氏にとって、学者としての評判を下げる自殺行為であろう。それは自己責任の問題だが、このような立場の人が日本の原発の未来に関わる。世界に知られたら笑い話だ。行政が「冗談」で行われているのだろうか。

「曖昧さだらけ」の日本の行政

同委員会に聞いたり、文献を読んだりして、私は活断層をめぐる行政の権限を調べた。日本の行政法を読んだことがある人はご承知だろうが、部外者の素人が霞ヶ関のルールを調べると「文章ジャングル」をさまようことになる。他の問題と同じだが、規定がとても分かりにくく権限が曖昧なのだ。その結果、法治ではなく人治が行われてしまう。

原子炉建屋の耐震構造については「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」という文章が2006年に現在の原子力規制庁の前身の原子力・安全保安院によって出ている。これに 「建物・構築物は、十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない」として、活断層については「敷地周辺の活断層の性質、過去及び現在の地震発生状況等を考慮」という表現がある。

これらが今回の規制委員会の活動の根拠になっているようだが「行政が事後的に判断して次々と原発をつぶせる」ことを想定しているとは、どうしても読めない。しかもこれは国会の定めた法律ではなく、行政ガイドラインにすぎない。もちろん私は調べている途中なので、別の規定があるかもしれず、あれば読者の方にご教示いただきたい。

まとめれば、原子力規制委員会、規制庁の手法はとても稚拙だ。どんな人や組織の行動も「目標の達成」のために行われるはずだ。同委員会の場合に、それは「原発の安全な稼動を行い、国民福利を向上させる」ことであろう。その際には「手続きの公正性と権限の明示」「規制と効果の配慮」「速やかに手続きを行い、納税者である事業者、またそのサービスの受益者である国民に行政が迷惑をかけない」という考えが、行政活動に貫かれていなければならないだろう。

ところが今回の原子力規制委員会の行動は真逆だ。「権限が曖昧」「判断の正当性が法律上も判断上も疑問」「事業者のビジネスと国民福利に役立たない」「行き当たりばったりで法律の遡及適用を軽々しく行う」「一貫性の欠如」という姿がある。

「使いやすさ」「継続性」を追及する米仏の規制庁

このほどIAEA(国際原子力機関)の職員を講師とする勉強会を聴講した。非公開なのでその情報の全部ではなく、私たち一般人でも入手できる情報をここで示すが、米仏の原子力規制当局と日本のそれとの力量の差に悲しくなった。米仏は根本の考えが明確で行動の公正性を確保しようと努力を重ねている。

余談ながら、福島への朗報をこの方から聞いた。この方はチェルノブイリを12年11月に訪問したそうだ。ここでは被災者の医療が無料で、2万6000人分の受診者の記録がある。そこでは普通の生活での低線量被曝による健康被害は確認されていない。事故による死亡者は事故処理者、そして汚染ミルクを飲んで甲状腺がんになった子供たちを含め49人しか確認されていないという。活動家の上杉隆氏は「ウクライナに子供はいない。死んでしまった」とデマを拡散した。ちなみに、これは私がIAEAの報告書などを読み、アゴラのコラムで提供した情報と同じだ。

福島事故後の日本の原子力行政は、事故後2年近く経過しても、原発の再稼動の基準を示していない。一方で米仏は、福島の教訓に基づいて、規制当局と業界団体、学会双方が既に指針をすでに発表し、安全対策を進めている。

各国関係者の日本の原子力規制当局、安全対策への評価はかなり低かったようだ。今年2月に専門家の会議が行われたという。欧州某国の原子力規制当局の高官は「事故は『ありえない』とするのではなく、『ありえる』と考え、対策をするべきだった。フランスは重大事故を想定した訓練を日頃から行い、そこが日本と違う」と指摘した。「99年の臨界事故、04年の死者を出した配管破裂事故など、日本には5年に一度事故を起こしていおり、事故はありえると思っていた」と述べたという。結果は福島事故を見れば明らかだろう。

そして各国とも、福島事故後の対応を急いでいる。米国原子力規制庁(USNRC)は「21世紀の原子炉の安全性を目指した勧告」(Recommendations for Enhancing Reactor Safety in the 21th Century)を出している。この本では福島事故の分析を示し、米国の原発が何をすればよいかが文章で示されている。

米国らしく対策は合理的で、12項目を明確化。各電力会社の体力に応じて、その実施の優先順位を定めている。その上位は地震、過酷事故対策だ。電力会社に突如「あなたの原発はアウト」という日本の原子力規制委員会には、「規制を使いやすくして安全性を高め、事業者と社会に役立てる」という配慮がまったくない。

フランス原子力安全庁(ASN)も同様の指針を発表している。そのトップが今年51歳のジュペ新長官に変ったが、その公表された就任談話が行政官としてとても適切だ。

「長官が交代するから改革が行われるわけではない。政策に切れ目があってはならない。それが長期性を持つ原子力という問題に取っての基本事項である。原子力施設の認可は60年から100年に及ぶ約束である」

朝令暮改を絵に書いたような規制庁の行動には、こうした「長期性」「継続性」の配慮がまったくない。そして以前の規定をすべて作り替えようとする無駄なことにエネルギーを割いている。

世界最高水準の安全を「どのような形」で実現するべきか

私は「外国がすごいのに日本はダメだ」という、よくある単純な比較をしたくない。米仏の規制当局にも私が知らない問題はあるだろうし、日本の行政官も誠実で優秀な人は多いだろう。しかし少し調べただけでも日本の当局との間に、力量の差があるようだ。

私は「渋々原発を使おう派」だが、こうしたいい加減な行政の下では、後から何をされるか分からないので、怖くてビジネスとして原発を運営できないだろう。また安全対策も心配だ。残念ながら、米、仏、スウェーデン、フィンランドなどの、適正な規制をしていると評価される諸国の指導をあおいだ方がいいと思う。

しかし規制委員会、規制庁の委員や職員の力量を追及するだけでは酷だ。菅直人元首相と民主党政権が原発事故後に組織や委員会を乱立させ、法手続きを無視して要請を連発して生じた混乱の後遺症が今でも残っているのだ。ひどい政治が事態をめちゃくちゃにして、今でも日本のエネルギーに悪影響を与えている。

最後にこの問題で私の思い出した一つの言葉を示してみたい。ローマの紀元1世紀に生きた歴史家タキトゥスはその著書「ゲルマニア」でローマ軍の反乱鎮圧の情景をこう記したという。(私は原典未読)

「彼らはすべてを破壊し、その静寂を平和と呼んだ」

原子力規制委員会の田中委員長は、「世界最高水準の安全性を追求」と述べている。早急な脱原発を唱える政党が、軒並み総選挙で議席を減らしたのに、懲りない菅直人元首相は「脱原発」と今でも騒ぎ続けている。その人々は原発をつぶそうとしているらしい。そうしたら日本は「安全で平和な国」になるだろう。ただし、それは日本の電力業界と経済が壊滅した「静寂」の上であるだろうが。

冗談ではなく、その方向に行政が進もうとしている。世界最高水準までは遠い道のりなので、「少しでも国際水準に近づく」規制を行うように、新政権は原子力規制委員会に働きかけてほしい。

石井孝明 経済・環境ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com
ツイッター @ishiitakaaki

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