不毛な「インフレ目標論争」はもうやめよう

池田 信夫

今夜ひらかれた経済財政諮問会議で、安倍首相が「衆院選を通じて求めてきた2%の物価上昇率目標を日銀は十分踏まえて金融政策をお願いしたい」と述べたそうだ。首相がインフレ率を決める国なんてない。安倍氏は2%のインフレが実現可能だというマクロ経済的な根拠を示せるのか。


こういう下らないインフレ目標をめぐる論争は、もうやめるべきだ。昨年2月に日銀が目途という変な言葉を使ったときも書いたことだが、目標という言葉をきらうために日銀が責任逃れをしていると見られ、その政治的な立場を弱くしている。日銀は明確に「目標」という言葉を使い、それを何%に設定して誰が責任をもつのかを内閣と議論すべきだ。

ただインフレ目標がよくないのは、日銀だけの力で達成できるように見えることだ。Woodfordもいうように、ゼロ金利のもとでは中央銀行がインフレ率を上げることは不可能である。できるのは、中銀以外の要因でインフレが起こったとき、それをコントロールすることだけだ。意図的にインフレを起こす方法は、広義の財政政策しかない。

だから「達成するのは政府の責任だ」という但し書きつきでインフレ目標を設定すればいいのだが、それだとまた「責任逃れだ」と騒ぐ手合いがいるので、Woodfordもいうように名目GDP目標を設定するのが賢明だろう。これだと、さすがにGDPが日銀の目的だと思う政治家はいないだろうから、NGDP目標を実現するのは政府で、日銀はその目標が達成されるまでゼロ金利を続けるという分担を明記すればいい。

「日銀が公開市場操作によって国債を買うべきだ」という竹中平蔵氏も理解していないのは、ゼロ金利状況についてのここ10年の研究で確立された次のような結論である。

  • 銀行の中銀口座に準備預金を積み増す狭義の量的緩和はまったく効果がない。

  • 中銀が長期国債などを買う大規模資産購入もほとんど効果がない。
  • 中銀がインフレを宣言しても、その実行手段がない限り予想は変化しない。
  • GDPを引き上げる手段は、財政赤字を増やす財政政策しかない。

したがって日銀に雇用責任まで負わせようという安倍首相のリフレ論はまったくナンセンスであり、景気をよくするには財政支出しかないという麻生財務相の判断が正しい。やるなら政府の責任でやるべきだ。

これはバラマキをやれという意味ではない。目標とするGDPは自然水準でないと、それを維持するために際限なく財政支出が必要になってしまう。自民党が選挙で公約した「名目3%成長」は、1990年代以降の実質成長率が平均0.9%であることを考えると高すぎる。昨年10月の政府・日銀の共同文書では「1%の物価上昇率」を約束しており、これに現実的な実質成長率を加えると、名目成長率2%ぐらいの目標が現実的ではないか。