貨幣発行益(シニョレッジ)の枯渇

2013年01月11日 10:48

ロイターのインタビューの際に、東大の福田慎一さんが「最近日銀は、長期国債を実勢価格よりやや高めの価格で買い入れるなど、ヘリコプターマネーの色彩にやや染まっているとの見方を示した」ということである。これは、前の記事に[補足]として追加した次の記述

買いオペに応じさせるためには、民間銀行からみて有利な(日銀からみて不利な)条件を提示する必要があります。このようにバランスシートの規模を維持しようとすると、日銀は不利な条件を甘受する必要があるというのが、「日銀のバランスシートに圧縮圧力がかかることになる」ということの意味です。
がすでに現実化していることにほかならない話である。


昨年の8月以降、日本銀行の保有する長期国債の残高は日本銀行券の流通残高を上回るようになっている(すなわち、いわゆる「銀行券ルール」に実質的に違反する状態になっている)。例年12月は、年末年始の支出に備えて日銀券の発行額が増加するので、昨年12月の日銀券流通残高は86兆6533億円なっているが、日銀の長期国債保有残高は89兆1786億円で、それをも上回っている。要するに、日銀は長期国債を保有する資金を日銀券の発行だけではまかないきれなくなっているのである。

現金需要という概念は、一般の人には分かりにくいと思われるので、以前にも述べたことを繰り返し解説しておきたい。誰でも、いくらでも現金は欲しいものである。それゆえ、日銀券の受け取りを拒む人はいない(法制上も、日銀券には強制通用力が付与されており、受け取りを拒むことはできない)。しかし、受け取った日銀券をそのままいつまでも持ち続けるかというと、そうではない。手元には必要な額の日銀券しか置かず、余分な分は銀行に預けたり、何らかの支出に充当したりするはずである。

この手元に置いて日銀券のままで持ち続けようとする額を、経済学では「現金需要」と呼んでいる。現金需要を上回る額の日銀券はいずれ日銀に還流してきてしまう。言い換えると、市中に流通残高として留まる日銀券の額は、現金需要に見合うもの以上ではあり得ない。この意味で、日銀は日銀券を好きなだけ一方的に発行できるわけではない。その発行額は現金需要によって制約されることになる。需要を無視して供給だけを増やせないのは、通常の財サービスの場合も、日銀券の場合も同じである

年末に出回った日銀券も、その一部は年初には還流してきて、たぶん今月の日銀券発行残高は81~82兆円程度に留まることになろう。ゼロ金利状況が続いていて、現金を手元に置いておいてもほとんど損がない(逆にいうと、銀行に預けたからといって利子が稼げるわけではない)ので、現状では現金需要はきわめて膨張した状態になっているとみられる。それでも、経済活動規模が現状のままだと、現金需要は80兆円強で飽和した状況に達しているとみられる。

したがって、もうこれ以上、日銀券を見合いに国債を購入するということは、日銀にはできなくなっているのである。したがって、追加の国債購入資金は、準備預金のかたちで集めるしかない。現状、準備預金には若干の金利が付いているが、その金利水準を大幅に引き上げるというのでない限り、民間金融機関が保有したいと思う準備預金の残高にも限度がある。それゆえ、先の記事の[補足]で述べたような話に既になっているのである。

現金需要が飽和してしまったら、それ以上は貨幣発行益(シニョレッジ)を得ることはできない。すなわち、無から有を産むことはできない。中央銀行といっても、その先は金利を支払うことなしに資金を調達することはできなくなる。国債を買い上げて準備預金を提供する際に、準備預金の金利を引き上げるのと、国債の買い上げ価格を高めにするのは、実質的には同じことである。無コストで、日銀がどこまでもバランスシート規模を膨らませられるかのように思うのは、間違いである。

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池尾 和人@kazikeo

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