グローバル化の中で、どのような社会を目指すべきか

2013年01月16日 12:00

グローバル化は、世界の全ての人々が、その能力に応じて豊かになれる可能性をもたらした。世界が機会均等に向けて動くことは、素晴らしいことであり、正義といえるだろう。

ここでは、グローバル化の中で、日本はどのような経済政策を行い、どのような社会の実現を目指すべきか考えたい。


グローバル化のもたらすもの

まず、先進国の生活水準は、これから低下してゆく。 これは次の3つの動かしようのない事実から導かれる。

(1)グローバル化は、国際分業により、経済の効率化をもたらす(グローバル化の恩恵)。 しかし、グローバル化によって、エネルギー、食糧、水といった我々の生活を支える基礎の部分は拡大しない。

(2)ところがエネルギー、食糧、水の供給には制約があり、拡大は限界に近い
「地球の有限性の顕在化と資本主義の機能不全」「水資源の危機-渇く地球」参照)。

(3)我々の物質的豊かさは、エネルギー供給(食糧、資源、水もエネルギーに換算する)とエネルギー効率で決定される。即ち 

 物質的豊かさ = 一人当たりのエネルギー供給 ×エネルギー効率

が成り立つ(例えば、冷暖房、交通、食糧生産、製造、輸送などエネルギーを使わない場面は、ほとんどない)。そして、エネルギー効率の上昇には熱力学的限界がある。

以上の3つを組み合わせると、現状の世界経済は、ほぼゼロサム、即ち、誰かが豊かになれば、誰かが貧しくなるという状況にある。 

従って、新興国の人口が、先進国の人口より圧倒的に大きいことを考えると、次の定理が成り立つ。

定理 先進国が全体として物質的に豊かになる、あるいは豊かさを維持しようとするためには、新興国の物質的豊かさへの希求を否定するしかない。

これから次の系が得られる。

系 新興国の国民の豊かさへの希求を否定できない以上、先進国が国全体として、豊かになろうとすることは、最早、正義ではあり得ないし、それは実現可能なことではない。

これは現実に先進国経済の低成長、財政危機として表面化している。つまり、新興国での需要の高まりからエネルギーなどの資源価格は急騰し、単純労働は、新興国にアウトソーシングされ、国内の製造業は空洞化し、低スキルの労働賃金は、新興国のそれに収斂してゆく。さらに、IT化による、労働の代替により、ホワイトカラーの仕事も合理化され、一握りの高スキルの労働の価値が高まる一方で、低スキルの労働は価値を失ってゆく。その結果、格差が拡大する。 これが、今、我々の目の前で起きている現象である。

ドイツにみる労働規制の緩和、社会保障の削減の教訓

この危機的な状況を回避するために先進国はさまざまな手段を講じてきた。

ドイツの講じた対策を「低賃金労働者が10年で約2割増―「雇用の奇跡」の陰で」から引用すると:

ドイツは2000年代に入り、雇用と労働時間の柔軟化を進めてきた。90年代の高失業率を是正するためには硬直した労働市場の改革が必要と判断したためだ。2008年の金融危機の際には、それが功を奏し、大量の失業者を出すことなく雇用を回復させ、他国から「雇用の奇跡」と呼ばれた。

と対策に成功したかのようにみえるが、文章は次のように続く:

しかし、その陰で、低賃金労働者(2010年の場合、時給9.15ユーロ未満が低賃金労働者)の数が拡大しており、過去10年で約2割も増えている。

低賃金労働者の平均時給をみると、旧東独地域で6.52ユーロ、旧西独地域で6.68ユーロと、基準額の9.15ユーロを大きく下回っていた。さらに時給6ユーロ未満で働く労働者は250万人強にのぼり、うち80万人はフルタイム労働者だった。月給に換算すると約1000ユーロにしかならず、低賃金労働者の約3分の1弱が劣悪な労働条件で働いていたことになる。

ドイツの低賃金労働者数の推移(上記記事から転載)german_01

ドイツは、上のような労働規制緩和だけでなく。  2005年ドイツのシュレーダー首相は、600万人にも達した失業者を減少させることを政策の第一目標にした。このため、労働コストを減らすために、社会保障サービスを大幅に削減する改革に踏み切った。 企業が雇用を増やすように仕向けるためである。 

年金の支給開始を65歳から67歳に引き上げ、物価スライドもなくした。 さらに、年金を支える人口の減少に合わせて、年金額の伸びを抑制するシステムを導入した。

失業保険も、生活保護と同じ水準とした。 日本円で3-4万円ほどである(他に家賃補助も出る。 ドイツ製造業の平均時給は約20ユーロである)。

このような対策を講じたお蔭で、ドイツ経済はヨーロッパ域内では比較的好調を維持している。 経済成長は、格差の拡大、社会保障の削減とのトレードオフで実現されているのである。

機会平等の実現こそ、やるべきこと

今、日本が目指すべきことは、何か? それは、国全体が高い経済成長を追求する、といったことではあり得ない。それは端から不可能なことだ。 現在、安倍政権が行おうとしている経済政策は、日本全体が豊かになろうという戦略のように見えるが、これは、上の考察から実現不可能だと断定される。 

これから次第に、先進国にいても、新興国にいても、同じ能力の人は同じ水準の生活ができるようになってゆく。これが正義であることは疑いようがないことだ。

必然的に、先進国の生活水準と新興国の生活水準は同じレベルに収斂してゆく。 
これと、エネルギー制約を組み合わせると、その収斂する水準は現在の先進国の生活水準よりかなり低いものにならざるを得ない。  こう考えると

(1)将来の日本の生活水準は、一人当たりエネルギー消費量換算で、現在の3分の1程度にする必要がある。

(2) 格差が拡大し、貧しい層が拡大する。

ということになる。 

これから日本の政治が目指すべきことは、ドイツのように労働規制を緩和し、社会保障を削減すること、そして何より財政再建である。 政府のやるべきことは、国の基盤をきちんとすることと、機会の平等を保証することである。 それ以上は求めてはいけない。 日本経済を政府が成長させることなど、不可能であると言うしかない。 財政ファイナンスや、円安誘導で、皆が豊かになれるわけがない。 なぜなら、問題は、グローバルなものであり、物理的なリアルなものであるからだ。 日本だけのバーチャルな操作でグローバルかつリアルな問題は解決しない。 

夢のない話ではあるが、これが現実であることは疑いようがない。我々の向かっている先はGlobal Equilibriumであることは間違いないのだから。 これから、我々は少しずつ物質的豊かさを諦め、精神的豊かさを求めるようにしないといけないだろう。

補足 これから先進国は貧しくなってゆきますが、その過程で、不満が高まり、戦争に発展することが、一番懸念されるところです。すでに日中韓で緊張が高まっていますが、戦争は資源の浪費であり、阻止しなくてはなりません。 実際、ドイツでもネオナチズムが勢力を伸ばしています。 破壊的な方向で問題を解決することは、あってはならないことです。 日本は、島国なので、国の経済政策で、問題が解決するかのように錯覚しがちな傾向にありますが、これは大変に危険なことです。 

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