技術立国と言える日は、再び来るのか?

2013年01月20日 08:05

 アゴラには、いままでも無線LANの標準化(IEEE802.11)での動向などを投稿してきたが、今回も先週カナダのバンクーバーで開催されたWireless Interimでの状況からの記事を投稿する。
 昨年の7月に世界の中心で標準化を叫ぶ中国と言う記事で、中国勢の標準化の取り込みの巧みさについて投稿したが、あれから半年の間に、さらに標準化の世界地図が変りつつある。
 シャープ、ソニー、パナソニック等の苦境が報道され、実際にアメリカの量販店の店頭はもちろん、空港やメジャーなホテルでも、もはや日本のメーカーのTVディスプレイは完全に姿を消してしまった。 未だに、一部の記事では、かつての技術立国 日本のモノ作りは、要素部品等で健在だし、チャンスはあるという、比較的お気楽な記事をネットに書かれる評論家諸氏がいるけど、標準化のような次のステップ(比較的近い将来)の事を進める舞台から、日本勢のプレゼンスが失われて行く実態は、イマイマの問題ではなく、今後かなり長期にわたり、復活の道が閉ざされることを示唆しているのだ。 (決して、日本の全ての会社が駄目なわけではないし、良い企業も沢山あるのも事実ではある。)
 また、今回私が渡米時に搭乗したB787では、日本の部品またはその利用方法の問題が指摘されているが、こういう事例をみても、一過的なビジネスの成否ではなく、技術立国たる技術の根底に流れている技術の蓄積、挑戦、研鑽に対する価値観に大きな崩壊が発生しているのではないだろうか?  こんな時だからこそ、復活を目指す経営者には、ぜひ現状認識をきちとんした上で、戦略的技術経営を期待したい。


 さて、今回からIEEE802.11では、新しい標準化プロジェクトとしてTGakとTGaqという二つのタスクグループがスタートした。 このうち、TGakは、General Link といって、IEEE802.1Qで規定されているVLANと同様なL2のリンクを無線LANで行なうものである。 このタスクグループの大きな特長は、IEEE802.1 という無線だけじゃなく有線も含めた標準化と連携することである。 これは、IEEE802 LMSC という、有線、無線を含めたLAN等の 標準化委員会でも、比較的大きな影響を持つグループ間のジョイントタスクである。

 今回行なわれた第一回の会合で、このグループのチェアには、IEEE802.11でもベテランで、TGsのチェアやIETFでもチェアを務めてたDonald Eastlakeがスタディグループに続いて選任された。 そして、セクレタリーには、 ZHUANG Yan という若い中国人の女性が選任された。 しかして、この2人のアフリエーション(所属)は、中国の華為技術/Huaweiなのだ。 また、無線LANの高速技術として、いま最も商用化が熱いIEEE802.11acが標準化の最後のステップの投票に進むことになったが、このTGacのチェアも、現在のアフリエーションは、Huaweiなので、これで9個あるIEEE802.11 配下のタスクグループのうちの2人のチェアをHuaweiが輩出していることになる。 常設委員会やワーキンググループのオフィサーも含めて、チェアを2人以上輩出しているのは、シスコ、インテル、リサーチインモーションで、彼らはそのひとつに加わったことになる。

 下の表は、私が集計した今回の会合時点ににおけるIEEE802.11の投票権保有者の多い上位25社のリストで、右側の列は昨年5月と今回の会合時点における各々の投票権保有者数を示している。

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 CESI of MIITやSEUが急遽ランク入りしているのは、世界の中心で標準化を叫ぶ中国で紹介した、中国のミリ波の標準方式を決めるTGajが発足したからである。 因みにこのTGaj は、中間会合を全てアジアで行なっているが、IEEE802の正式な活動だ。

 この表にあるように、Huaweiは、投票権者の数でいえば、昨年既に一番の勢力となっていたが、この半年でさら人数を増やしているし、このうちの数人は先に書いたように、米国のエキスパートを契約により雇い入れている。 さて、この表をみると判るけど、日本、中国、韓国、シンガポールの国立研究機関が沢山の投票権者を擁しているが、その他の民間企業では、チェア同様に欧米のチップ、セットベンダーが5人以上の投票権者をもち、これと同レベルにあるのは、サムソン、LG、ZTE、メディアテック等日本を除くアジア勢だ。

 日本の民間企業はというと、無理に分類すればルネサスモバイルとパナソニックシンガポールが3人いるくらいで、他はまったくいない。(彼らは、日本の本社との連動は、ほとんどしていないように見える) では、日本の企業はどうしてるかというと、圧倒的に2人くらいの投票権者が標準化に関わっているというレベルだ。 この人数では、残念ながら標準化をうまく戦略的に位置づけで、ビジネス創出をすることは無理で、せいぜい技術提案に幾つかの貢献の足跡を残すくらいになってしまう。 もちろん、いま参加している日本人の人は、それなりに提案もしているし、テクニカルエディタという重要な仕事に積極的に多大な貢献をしている人もいるが、それを会社が成長戦略として積極的に推進しているようには見えない。
 また、IEEE802.11が公的かつ技術的な仕様の標準化を策定しているが、これとは別にWi-Fi Alliance があり、こちらは民間ベースで、互換性のための試験方法を決めたり,認定ロゴ等により市場創出に大きな役割を果たしている。 実は、このWi-Fi Allianceにおける勢力地図は、この表から公的な研究機関を除いたようなもので、ほぼ同じだ。 そして、欧米の企業の場合は、同じチーム、人間が統合的に複数の標準化団体で活躍しているが、日系企業の場合は、IEEE に参加している人と違う人、時には違う部署の人がアサインされていたりする。 つまり、企業としの統合された戦略的展開が見られないのだ。

 標準化は、言葉は悪いが公的な談合の場所であり、各社は自社のポートフォリオとロードマップに、如何に標準化のタイミングを合わせるかを考えて行動し、新たな市場創出期において、優位的なプレゼンスを確立することを狙っている。 つまりは、マーケティング戦略そのものなので、この場に対する経営資源の当て方は、そのままその企業の市場戦略と認識を反映している。

 日本の参加者らと話をすると、得てして標準化の担当者に対する処遇は、必ずしも良くないようだ。 少なくとも二月に一度以上は海外出張になる。(無線LANだけでも関連するものをフォローすると毎月になる) また、その標準化までの道のりも長いから、短期的な目先のリターンでは評価されにくいのだろう。 ある企業の担当者の場合、何からの助成金等のある事業を受けていて、その中に位置づけられているので参加できるているが、他の案件は全て中止になったそうだ。 簡単にいえば、今は大変な時期だから、経費節減、時間がかかって、直ぐに利益が還元されることが自明ではない標準化なんて、後回しで良いということだろう。

 一方で、国内に目を向けると、無線LANの最新動向みたいな有料セミナーは、結構人気があって多くの企業が参加している。 また、国内の業界団体や監督官庁が主催する研究会等も、そこそこに盛んで、厳しいと言われてる企業が、それなりにリソースを割いている。 これらは、いわゆる柵とかお付き合いというやつで、中には標準化ではまったくお目にかかった事のない大学の先生が、標準化の最新動向を講演したりするものに、沢山の社員が参加していたりするわけだ。 
 こういうところをみると、今苦境にあるメーカーが行なっている再建策は、残念ながら適材適所、経営リソースの最適な配分とは、程遠いのかもしれないと感じる。これは、企業文化が内向的で、グランドデザインが無く、現場では目先あるいは説明の易い選択が優先されている状況なのではと推察される。 極端な話、海外というだけで、優先順位が低くなったりしているかもしれない。

 先々週のCESでは、まだまだ日本メーカーは、大きなブースを出していたそうだが、こういう体力のあるうちに、根本的な体質改良に挑み、真のグローバル市場での成長戦略とそれに適したリソースの再配分をするギリギリのところにあるのではないだろうか?
 日本の成長について話をする時に、結局のところ米百俵のような人材教育の話に行き着くが、これは経営者やマネージメントが、如何に忍耐強く、持続的に自分の信じる戦略、方針を貫けるかだろう。 深慮遠謀に富んだ戦略の立案には、まず現状の認識が不可欠なので、表層的な評論家先生とのお付き合いをしている時間があったら、現場の実態把握に目を向ける事が重要ではないだろうか。

 

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