失業と貧困は、なぜ生み出されるのか?

2013年01月23日 08:00

マルサスは、1798年に「人口論」を著し、この中で「幾何級数的に増加する人口と算術級数的に増加する食糧の差により人口過剰、すなわち貧困が発生する。これは必然であり、社会制度の改良では回避され得ない」とする見方を提唱した(Wikipediaより)。

マルサスの予言は、20世紀末までは、石炭の使用、そして石油へといったエネルギー革命と20世紀初頭のハーバーボッシュ法による空中窒素固定法の発明による飛躍的な食糧増産により、実現することはなかった。 

しかし、現在、世界の先進国で起きている、失業と貧困は、正にマルサスの予言を現実のものにしつつある。


この現象は簡単に

   経済成長の限界 + 生産性上昇の必要性 = 格差の拡大  

という式にまとめることができる。 ここでは、なぜ経済成長に限界が生じ、失業や貧困がなぜ生み出されるのか、そのメカニズムについて考察したい。  
 

エネルギー制約と成長の限界

世界全体の経済成長は、エネルギー供給と強い相関関係がある。 Xをエネルギー供給増加率、YをGDP成長率とすると、回帰分析により近似的に

Y = 0.9674X + 0.0059

という関係が近似的に成り立つ (Gail Tverberg: An Energy/GDP Forecast to 2050)。

world-energy-vs-world-gdp-ex-1980-to-2000-e1343319314967

(Gail Tverberg: An Energy/GDP Forecast to 2050から転載)

これは、

GDP = エネルギー供給 × エネルギー効率

という式と整合的で、定数項0.0059はエネルギー効率の改善に相当すると考えてよい。

ところがエネルギー供給は頭打ちになりつつある。 特に石油は
The one chart about oil’s future everyone should see
を見れば分かるように、今後、急激に産出を減らすだろう。

EIA World Supply

一方、エネルギー効率の改善は熱力学的限界から逓減せざるを得ない。 従って、何か画期的な代替エネルギーが出現しない限り、世界経済は縮小へと向かうことになる。

その兆候は既に表れている。原油の平均生産コストは既に1バレル90ドルを超えており、天然ガスの生産コストも高騰している。 最早、地球上に安い石油、ガスは存在しない。

一部でもてはやされているシェール革命も、安い石油、ガスの供給を意味するものではない(下記(注)参照)。 

グローバル化と生産性の上昇の必要性 

一方、グローバル化により、多くの企業は常に国際競争に晒されているので、生産性の上昇は避けられない。たとえ経済成長を諦めたとしても、グローバル化は競争から降りることを許さない。

国際競争の他に、機械との競争も起きている。 フォックスコンが従業員50万人をロボット100万台で置き換えるというように、人間の労働力は機械で代替されてゆく。 工場労働だけでなく。ホワイトカラーの仕事も情報化により機械で置き換えられてゆく。 この変化は止めようがない。 例えば、電子書籍が普及してゆけば、多くの書店の従業員やその配送にあたっていた人たちの職は失われるだろう。

このように低スキルの仕事は機械や、海外へのアウトソーシングで置き換えられてゆく一方で、高スキルの仕事の価値が高まっている。 実際、アメリカでは、単純労働の需要が減る一方、ソフトウエアエンジニアは人材難だという。 このようなメカニズムで高スキルの仕事の賃金が上昇する一方、その他の大部分の低スキルの仕事の賃金が低下し、貧富の格差が拡大する。

失業と貧困を生むメカニズム

このように、経済成長が頭打ちになる中で、生産性の向上を行わざるを得ない状況は、結果的に大量の失業を生むことになる。

そして、多くの失業者は、介護や飲食業などの国際競争に晒されない低生産性のサービス業に就かなくてはならず、このため低賃金に甘んじなくてはならないのである。

エネルギー制約により、世界経済のパイが大きくならない状況では、高生産性産業が出現しても、全体の生産量は、大きくできない。 従って、失業した人たちの多くは、必然的に、低生産性の職に就くか、失業を続けなくてはいけないことになる。 これが格差、即ち貧富の差の拡大を生むことになるのである。 

藤沢数希氏は「10人の村で経済成長と失業を考える」の中で、

長期でみれば失業も倒産も社会にとって悪いことではない。ちょっとした成長痛に過ぎないのだ。

と書いたが、現在、先進国で起きていることは、もっとずっと深刻な問題である。 多くの経済学者、経済評論家の方々は、エネルギー制約、環境制約といった制約条件を見逃していないだろうか? 

政府債務問題の深刻化 

成長が頭打ちになるということは、政府債務に掛かる金利が正であることから、政府債務を削減しない限り、政府債務の対GDP比は雪だるま式に大きくなることを意味する。 従って、必然的に早急にプライマリーバランスを黒字化する必要性が生じることになると同時に、小さな政府を選択せざるを得ない。即ち、社会保障を削減し、増税を行う必要が生じる。

実際、先進国の債務問題は深刻であることは論を待たない。

つまり、格差が拡大し、弱者救済の必要性が増加する一方で、富の再配分を行うべき政府は力を失ってゆくという非常に困難な状況にあるのだ。 

まとめ

マルサスの予言は正しかったのである。 我々は、化石燃料の使用によって、マルサスの予言を遠くに押しやったかに見えたが、現在、その限界に直面しているのである。 この状況を救うには、安くて豊富な新エネルギーを手に入れるしかない、と思われる。 

(注)IEAはWorld Energy Outlook 2012で、シェール革命によりアメリカが近い将来エネルギーを他国に依存しないようになると楽観的な予測を述べたが、多くの疑義が出されている(例えばAleklett’s Energy Mixの記事に詳しい)

IEAやBPなどからエネルギー供給に関する楽観的な予測が喧伝される政治的背景については、Political transformation in the age of energy scarcityが参考になるだろう。

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