メジャーリーグ、来春からコーチのマウンドへの通訳帯同許可!

北村 隆司

野茂投手が、アジアからのメジャーリーグ投手として華々しく登場して以来、監督やコーチとアジアを中心とした非英語圏出身選手とコーチや監督とのコミュニケーションが問題になってきた。

この問題を、野茂英雄投手が米国メジャーリーグに登場してから19年も経った今年になってメジャーリーグが取り上げ、投手コーチや監督が試合中にマウンドに出かけて投手と協議する際に、通訳を連れて行くことを、来シーズンから認める決定を下した。

メジャーリーグの憲章には「英語がこ野球の公式用語」だと言う規定も無いのに、これまでマウンドに通訳を連れてい行く事がなかったのが不思議なくらいである。

この決定を機に、ニューヨークタイムスが愉快なエピソードを伝えているので、その幾つかを紹介したい。

ソフトバンクが2006年から導入した海外スカウト制による獲得第1号選手のクリストファー・ニコースキー投手は、2008年のある日、通訳を連れてマウンドに来た厳しい指導で有名な杉本正コーチから「パーフェクトな投球をしろ」と言われ「それが出来るくらいなら、日本には来ていない」と答えたと言う笑い話も紹介されている。

一方、英語の苦手な選手は日本や韓国などアジア出身の選手に限らないが、アジア出身の選手はコーチが何を言っても「判りました」と答える癖があり、礼儀正しいのは良いが、通訳で解決出来ないお国柄の違いもあると具体的な例を挙げている。

以前、NYメッツに席を置いていた徐 在応(ソ・ジェウン)投手が走者を二塁に置いてアトランタの強打者チッパー・ジョーンズを迎えた際、コーチのリック・ピーターソンがマウンドに駆け寄り、詳しい事をしゃべると混乱するので、誰にも判る様に「絶対にストライクをほうるな」と明快な指示をしたところ,ソ投手は何回もうなずきながら「OK」と返事をしたと言う。

処が、ピーターソンコーチがベンチに戻る間もなく、ソ投手はど真ん中にストライクを投げ込み、ジョーンズに痛打された経験や、2005年のシーズンで石井投手とのコミュニケーションにはほとほと困った経験を語っている。

日韓出身の選手の多くが失礼の無い様に理解できても出来なくても「イエス」か「OK」と言う習慣のある事は、黒田投手の通訳を務めた野村健二氏も「日常茶飯の如く起こる」と認めている。

その一方、野茂投手のドジャース時代の監督であったトミー・ラソーダ氏は「私の言った事が野茂に通じたかどうかは判らないが、私がマウンド指示した後は、野茂は大抵の場合アウトを取って呉れた」と、通訳がいなくても野茂投手とのコミュニケーションは全く問題なかったと言い、ヤンキースのコーチも「黒田の様な名投手は、コーチが言わなくとも自分のやるべきことは良く知っており、コーチや監督がマウンドに行くのは、投手に一呼吸置かせたり、相手のリズムを崩す効果の方が大きい」と語っている。

日本でも楽天やユニクロなど、特定の企業では英語の公用用語化を決めている会社も出てきたが、微妙なニュアンスと伴う高度なコミュニケーションは言葉だけで解決出来る問題では無さそうだ。

2013年1月23日
北村 隆司