「知財戦略」過去10年を問い直し未来10年を探る --- 中村 伊知哉

アゴラ

2013年1月25日、「知的財産政策ビジョン検討ワーキンググループ」が発足しました。
知財本部設置から10年。これまでの10年の政策を点検し、今後10年の方向を打ち出そうというものです。知財本部にはぼくが座長を務めるコンテンツ部門と、競争力強化・国際標準化部門とがありまして、それらを束ねる役割です。
委員は角川歴彦さん川上量生さん久多良木健さんら、コンテンツ調査会でご一緒しているかたがたのほか、凸版印刷足立会長、野間口産総研理事長、山口味の素会長、渡辺トヨタ相談役など重いメンバー。大学関係者は村井純、國領二郎、ぼくの慶應トリオです。このワーキングでは、妹尾堅一郎先生と共同座長を努めることになりました。


冒頭、過去10年の検証ということで、下記を骨子とする政策レビューがありました。
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コンテンツ関連
 1. デジタル化・ネットワーク化の基盤整備
 2. クールジャパンの推進
 3. 模倣品・海賊版対策の推進
 4. コンテンツ人財育成
競争力・国際標準化
 1. 知的財産の創造
 2. 知的財産の保護
 3. 知的財産の活用
 4. 中小・ベンチャー企業の知的活動支援
 5. 国際標準化戦略の推進
 6. 知財人財育成
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これに対するぼくのコメントをメモしておきます。

10年前にはスマホもタブレットもなかった。地デジもブロードバンドも整備中だった。ソーシャルサービスもなかった。
今やデバイスも、ネットワークも、サービスも様変わり。しかもビジネスが全てボーダレスに移行した。
コンテンツ政策はこの数年で変化はしてきたが、もはや断層的な転換が必要となっている。
ビジョンを作り直すにはギリギリのタイミング。
10年前、コンテンツ分野には成長産業という期待もあったが、今や悲壮感をもって立ち向かう必要がある。

コンテンツ政策はこの3年で変換した。
 1 著作権制度で守るスタンス以上に、プロジェクトを開発して攻めるスタンスに移行した。
 2 エンタメより基盤整備:インフラや人材育成に力を入れるようになった。
 3 国内だけでなく海外展開に注力するようになった。
 2013年の計画も、デジタルネット対応(基盤整備)とCJ(海外展開)の2本柱で進める計画だ。

このWGで扱う長期的な観点では3点ある。
 1 基盤整備  
   重点コンテンツをエンタメから拡大すべき。
   ネット選挙解禁、医薬品ネット販売解禁もコンテンツ政策とも捉えるべき。
   デジタル教科書の完全普及、オープンデータ:政府保有情報のオープン化と利用フリーなど骨太の施策が必要。
 2 海外展開  
   こちらも骨太の施策が求められる。
   海外メディア枠の買収、輸入規制緩和など。
 3 政府の一体化
   8省庁が一つのテーブルで施策をぶつけ合うようになったが、これを前進させる。
   特に、ハードソフト一体の政策が重要。
   オープンデータも、デジタル教科書も、コンテンツ政策とIT政策の複合がポイント。
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委員からは鋭い意見が噴出しました。

○ドワンゴ川上さん:「自主規制」が日本企業のウィークポイントになっている。強い規律のせいでガラケーはiPhoneに競争力を失い、同様のことがソーシャルゲームでも起きる。「NDA」も問題。プラットフォーマーとコンテンツとの取り決めが開示されないため、コンテンツ企業がネットユーザに叩かれる構図となっている。

○中山信弘さん:アメリカではできるビジネスが日本では不可能という事例がある。政府規制だけでなく、自主規制や業界慣行を見直す必要がある。

○久多良木健さん:10年間の最大の変化は、消費者がユーザとなり、コンテンツの生産と共有の主体になったことだ。UGCに着目する必要がある。

○國領二郎さん:10年間で知財はどれだけ増えたのか、ビジネスはどれだけ拡大したのか。そうした基本的視点が重要。
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ううむ、大変です。
まず、「自主規制、契約がネックになっている」との指摘。
10年前は、官から民へという動きのもと、公的規制を撤廃・緩和することに力を注ぎました。
それで民間に舞台が移管し、10年たったら、今度は民民の規制が問題だというわけです。
私もソーシャルゲームの自主規制に汗をかいているところですが、指摘のような問題は既に表面化しています。
日本の業界は自分で自分を縛るのに、外国企業はフリーハンドでビジネスを続ける、という構図。
さあどうしよう。

そして、「知財は増えたのか」という根本的な視点。
ストックではなくフローのデータですが、世界のコンテンツ市場が年6%で拡大する一方、日本市場は縮小傾向にあります。
しかし、ぼくの計算では、過去10年間で、日本の情報発信量は30倍に増大しています。久多良木さんのいうUGCですね。 
M2Mやビッグデータの活発化により、今後数年で300倍になるという声もあります。
他方、マッキンゼーによれば、この10年に蓄積された情報は、北米3500ペタバイト、欧米2000ペタバイトに対し、日本は400ペタバイト、つまりアメリカの11%にすぎないといいます。
従来は産業規模の拡大を国の目標に据えていたのですが、情報量や情報流通行動などに目を向けることが重要になっています。
戦略をゼロベースで見直さなければならない、ということです。

ううむ、これをどうとりまとめていくか。
あたまいてー
みなさん、知恵をください。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年1月28日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。