円安でインフレになるか?問題は実質所得の低下

2013年01月31日 17:38

インフレになるでしょうか。円が調整され株価も上がって景気が回復するかもしれません。けれども,(総合指数ではインフレになっても)コアコアでのデフレは簡単には解消されないと考えます。

背景に実質所得(賃金)の低下圧力があるからです。辻先生の記事では,エネルギーの視点から実質賃金の低下を説明しています。その通りだと思います。

円安でデフレかインフレかは,エネルギーコストが誰に転嫁されるかという問題です。本質は実質所得の低下なので,インフレにならずに賃金が低下するか,インフレになって実質所得が低下するかのどちらかです。


円安の影響により,ガソリン価格が上昇(参考:時事ドットコム:ガソリン、8週連続値上がり )しています。ガソリンは海外の原油価格や為替レートにすばやく反応します。

一方で,ガソリン価格が上昇しても,例えば,タクシーやバスなどの交通料金はすぐには上がりません。ガソリン価格が高止まりすれば,会社の利益が低下したままになります。利益を回復するためには,料金を引き上げるか,コスト(賃金)を引き下げるかなどが必要になります。

日本がこれまでなぜデフレ傾向にあったかというと,企業が賃金引き下げにより料金・価格を据え置いたからです。

(一般物価が(据え置き以上に)低下するデフレは,(時期により異なりますが)電気製品などの価格低下のためです。しかしこれは世界共通で,日本だけがデフレになるのは他のサービス価格等が上昇しないためです。)

その要因の1つは需要の低下でしょう。さらに,吉川洋『デフレーション-”日本の慢性病”の全貌を解明する』でも指摘する「合成の誤謬」がカギだと思います。

現状に当てはめて考えると,もし,みんなが料金を一斉に引き上げればインフレになり,労働者の賃金も下がらないのに,そうできない状況です。例えば,もし自社のみ料金を上げてしまえば,その会社は一人負けになってしまいます。それを避けて価格を据え置いたり,さらに安値競争したりしてきたのがデフレ要因の1つです。

消費者の需要減や低価格志向に対して,安値競争をしているためプロダクト・イノベーションも生じず,コスト問題があるため新規投資も停滞するというデフレの悪循環です。海外要因もあります。一方,会社の利益が赤字化しているのを理解し,労働者も賃金低下を「仕方がない」(p.183)と考え,受け入れます。

このようなデフレ体質が長く続いたのです。

実際,日本では消費者物価指数のうちすべての消費財・ザービスについての総合指数に対して,コアコアと呼ばれる食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数では長くデフレです。その理由は上記で理解できます。

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さて,今後,円安になってインフレにもなるイメージがありますが,そうとは限りません。エネルギーコスト(価格上昇,円安,(マクロでは)数量増加)が価格に転嫁されるならインフレになり,それが十分でなければ給与が下がってデフレ圧力につながります。

ただし,インフレであればコストは広く消費者が負担することになります。一方で,デフレであれば働く人に負担が偏ります。そのため,私は企業活動の活性化や公正な配分の視点から,コスト由来の分についてはデフレよりもインフレの方が望ましいと感じます。

合成の誤謬が要因であれば,もしみんながインフレを一斉に受け入れればデフレを抜け出せます。インフレ目標の意義はそこにもあると思います。しかし,準財政政策となってしまうのを避けながら,それが可能かという難しさがあり,国債買入の増大に頼るだけでは財政的に非常に危険です。

ところで,今,問題は隠れています。一時の景気回復で,ますます隠れそうです。前回の記事でみたような実質所得の海外への流出は,エネルギー関連輸入が増大したため,円高となった昨年でも増えています。(図の交易利得のマイナス拡大。)円安調整となったので,このような交易損失はさらに拡大するでしょう。

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エネルギーに関しては,電力会社がまずは損失の多くを負担していて(参考:電力3社、原発停止響き大幅赤字 12年4~12月期 :日本経済新聞 ),今後は,料金引き上げに伴い広く国民に負担されていきます。これは単純にはインフレ要因です。しかし,電気料金は企業の生産活動にも関わるためデフレ圧力にもなります。

また,労働では建設業の動向が重要です。総務省・労働力調査を眺めると,建設業の就業者増加などによって完全失業率は低下傾向にありました。公共事業が関係しています。建設業は円高からの影響を受けないか,資材の海外からの調達ではむしろメリットがありました。平均給与はある程度維持されていたはずです。

景気はしばらく回復が続くかもしれません。けれどもつかの間で,負担は先延ばしされているだけです。交易損失拡大は継続し,また社会保障要因の財政赤字は持続可能には思えません。経済対策が途切れたり,財政的に厳しくなったり,金利が上昇したりすれば問題が表面化します。

それまでの限られた期間のうちに,何ができるでしょうか。法人税減税,社会保障の事業主負担軽減,各種規制緩和など,様々な方法で企業活動をしやすくすることが必要だと思います。

岡山大学経済学部・准教授
釣雅雄(つりまさお)
@tsuri_masao

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