エネルギー価格と財政の持続可能性

2013年02月02日 14:58

前記事で述べたように、2000年以降、化石燃料費の急激な高騰が起きており、実質賃金の低下を招いています。 つまり、エネルギーを消費する機械の労働コストが増加するために、労働者の実質賃金が低下するのです。

このようにエネルギー価格の上昇は、経済を疲弊させ、経済成長を阻害しており、先進国は一様に低成長に陥っています。

一方、日本は巨額の政府債務を抱えており、財政運営が行き詰まることが懸念されています。 

ここでは、エネルギー価格が、財政の持続可能性にどのような影響を与えるのか、考えてみたいと思います。


問題は物理的なもの

まず、私たちの直面している問題は、インフレ、デフレ、円安、円高といった貨幣的なものでも、経済のシステム上の問題でもなく物理的なものだということを認識することが大事です。 

世界の一人当たりの液体燃料によるネットエネルギー産出を見ると次のグラフのように2005年以降、大きく低下しています。 

NetBtuPerCapita

(The net energy per capita from liquid fuels is dropping…から転載)

石油、石炭、天然ガス、いずれも埋蔵量は豊富にあるように見えながら、どうしてネットエネルギー産出が減少するのでしょうか。 これは、次の図で説明されます:

netener4t

The End Of Oilから転載)

つまり、化石燃料は、産出を始めた当初は、非常に効率的で、グロスのエネルギー産出と、ネットのエネルギー産出は、ほとんど変わらないのに、時間の経過とともに、採掘に要するエネルギー(Energy subsidy)が増加し、やがて、多くの資源を地下に残したまま、エネルギー産出は停止するということになるのです。

またシェールオイル、シェールガスといった新顔のエネルギー資源は、この図では、産出不能資源(unrecoverble resource)の一部が、エネルギー価格の高騰により、多大なエネルギーを投入して漸く産出できるようになったもので、シェールガスは100万Btuあたり8ドル以上の生産コスト、シェールオイルも1バレル90ドル以上の生産コストが掛かるため、安い石油、安いガスは最早地球上には存在しないと言えます。 

要するに、もう簡単に豊富なエネルギーを供給することは困難になっており、今後もその困難は増大し続けると考えられます。

実際、2022年には原油は1バレル180ドル程度になるというIMFの研究論文による予測や、今後2020年までにピークオイルがやってくるという予測があるように、我々の直面する問題は正に地球の有限性であると言えます。

エネルギー消費とGDPには強い相関があり、エネルギー消費を減らすということは、経済が縮小するということに直結します。つまり、エネルギー制約が、経済規模の目に見えない天井を形成しているのです。 

エネルギー価格の高騰が財政破綻を引き起こす可能性 

エネルギー価格は、今後も高騰を続けることは、多くの予測が示す通りなので、これからエネルギーコストが経済を蝕んでゆくことは確実です。 つまり、これから少なくとも世界全体で実質賃金は下がり続けることが確実で、これは物理的な原因なので止めようがないわけです(これを止めるのは、新エネルギーの開発といった、科学であり、経済学上の問題ではありません)。  

一方、日本は、GDPの2倍を超える政府債務を抱えています。エネルギーコストの上昇は政府債務問題にどのような影響があるのでしょうか。

この問題を考える場合、真っ先に問題になるのは、経常収支がいつ赤字に転落するか、だと思います。 

現在の経常収支黒字額はかなり小さくなっています。 

       経常収支 = 貯蓄 - 民間投資 - 政府投資  

ですから、経常収支が赤字になるということは、貯蓄が投資を賄い切れず、海外からの投資により経済が回っている状態ということです。 

勿論これは可能で、経常赤字の国も多くあります。 また、今まで続いてきた経常収支黒字は、民間投資が活発でなかったために続いていたと見ることも可能で、民間投資が活発になることで、経常赤字になるとすれば、それは良いことである、と見ることも出来るでしょうし、海外からの投資を呼び込み、経済を回すことは可能でしょうし、海外資産を取り崩しても、民間投資は可能です。
 
しかしながら、エネルギーコストの高騰が原因で、経常収支が赤字になるという場合は、話は全く異なります。 この場合は、国内産業が疲弊する上に、巨額の政府債務を抱える日本の場合、長期金利が上昇し、国債の消化が困難になる可能性があります。

つまり、巨額の国債を海外投資家に売る必要が生じた場合、格付けの低い日本国債は、高い金利でなくては売れない可能性が高いと考えられるわけです。  

それでは、どの程度のエネルギーコストの高騰で、経常収支は赤字化するのでしょうか。 まず、経常収支の推移は以下のようになっています。

経常収支の推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

経常収支の黒字額は低下傾向にあることが分かります。 昨年の貿易収支が6兆9273億円の赤字となっていることからも分かるように、貿易赤字が定着し巨額になりつつあるのは懸念材料で、経常収支の黒字は、所得収支の黒字で支えられています。

日本の原油輸入額の推移は以下のようになっています:

原油輸入額の推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

このように原油高騰の影響で、原油輸入額は急激に上昇しており、昨年の原油輸入額は2000億ドル強で、ドルー円レートを1ドル80円として、凡そ16兆円です。従って、為替が1ドル80円とした場合、単純に考えると、原油が1バレル120ドル程度になれば、それだけで経常収支が赤字になる可能性が出てくるでしょう。

原油価格が現在の価格(1バレル90ドル前後)なのは、世界経済が減速しているからですが、世界経済が回復すると原油価格は上昇するでしょう。  

これと2022年には原油が1バレル180ドルになるという予測を見比べると、数年以内にも、原油の高騰という要因だけによっても、経常赤字が定着し、長期金利が上昇し、財政運営が行き詰まる可能性が高いわけです。

一方、原油価格が現在レベルのままであるとすれば、これは、世界経済の停滞ないし、縮小が続くということを意味し、やはり財政運営は行き詰まります。

結局、非常に大きな増税と、非常に大きな社会保障の削減をする以外に、財政破綻を防ぐ方法は存在しないように思います。 

最後に現在起きている円安の影響について考えてみましょう。 釣先生の記事にあるように、エネルギー価格は速やかに上がっても、価格転嫁は遅れるため、現在は、問題が表面化していない状態ですが、タイムラグをおいて、やがて表面化します。 1ドル90円の水準が仮に定着したとすると、燃料費は年間2兆円以上も上昇することになります。 

円安は、エネルギーコストの上昇として顕在化し、輸出の伸びが余程大きくならない限り日本の財政に深刻な影響をもたらすと、考えられます。

このような状況で、原子力規制委員会が暴走し、原発の再稼働を困難にしていることは理解できません。天文学的な確率で起きる原発の重大事故を懸念するより、非常に大きな確率になりつつある財政破綻の回避を優先すべきなのは論を待たないでしょう。 

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑