なぜ日本は誤解されるのか

池田 信夫

今週のニューズウィーク日本版の特集は、海外のメディアが日本の「右傾化」を騒ぎ立てている原因を論じている。先日のNYタイムズもそうだし、Economistも「安倍晋三首相が指名した恐ろしいまでに右傾的な内閣は、この地域にとって悪い兆しだ」という。

私もきのうNoah Smithに「なんでこういう変な噂が流れているのか」と質問したら、彼は「渋谷の街宣車が原因じゃないの」と言っていたが、ニューズウィークの答は「中韓が激しく反日宣伝をしているのに、日本の外務省が誤解を解く努力をしないから」。


私もそう思う。欧米人はアジアの細かい事情は知らないが、日本軍がアジアを侵略したことぐらいは知っているから、中韓が「日本は右傾化した」と騒ぐと、それを信じてしまう。これはカーネマンのいう利用可能性バイアスだ。

そういう誤解の典型が、この特集号にも出ている冷泉彰彦氏のコラムだ。彼は「私は池田信夫氏が様々な史料を参照しながら丹念に調査を続けて来た結論、つまり『軍による強制連行はなかった』という立場を取ります」といいながら、「軍による強制連行はなかったという訂正に成功したとしても、全く日本の名誉回復にはならない」というが、これは事実誤認である。

彼の提唱する「人身売買の反道徳性を批判する」というのは、すでに日本政府のやったことだ。河野談話で日本軍を自己批判し、「アジア女性基金」で非人道的な行動の賠償をしたことが、かえって「日本は罪を認めた」という証拠として中韓に利用されているのだ。この問題が混乱している原因はそういう見解の相違ではなく、韓国政府の嘘である。

日韓で争点になっているのは、日本軍が慰安婦を強制連行したかどうかという公権力の行使の有無である。慰安所を日本軍が管理していたことは自明であり、日本政府も20年前から認めている。韓国政府が証拠もないのに「強制連行」を認めろといっているから、問題がいつまでも紛糾しているのだ。

ところが韓国政府は、欧米に対しては「女性の人権」を訴えている。欧米人は強制連行かどうかには興味をもたないので、「日本政府は性奴隷を認めない」という人権問題にすり替えているのだ。性奴隷という言葉は売春婦のことなのか人身売買のことなのか軍による拉致のことなのかわからないので、NYTの社説でさえ「強制連行の有無を論じるのは無意味だ」といいながら「日本軍が性奴隷を強姦した」と書いている。

ここまで話がこじれるのを放置してきたのは、外務省の責任である。彼らは上品だから、セックスの問題に深入りするのをきらう。黙っていても良識ある欧米人はわかってくれると思っているのだろうが、米国務省でさえ事実を理解していない。国連にでも提訴して「それは嘘だ」といわなければ、韓国の主張を認めていると思われてもしょうがないが、外務省はクマラスワミ委員会の荒唐無稽な報告書にも抗議しなかった。

もう一つの誤解の原因は、日本人の中にそういう嘘を広める人々がいることだ。普通は「自分が悪かったという嘘はつかないだろう」と思うから、朝日新聞がそういう嘘をつくと欧米人は信じてしまう。特に悪質なのは、慰安婦に嘘を教え込んだ福島瑞穂氏である。

1991年に金学順はNHKで「キーセンに売られた」と証言したのに、翌年から「軍に強制連行された」と証言するようになった。これは明らかに福島氏が教え込んだ嘘だから、彼女を国会に証人喚問して「私が慰安婦に嘘をつかせた」と認めさせれば、国際世論も動く可能性がある。しかしそれは政治的には不可能だろう。

海外に誤解されるのがいやなら、「それは嘘だ」と言い続けるしかない。攻撃しないと攻撃されるのが、世界の喧嘩のルールである。そういう下品なことはしたくないというなら、黙って誤解されるにまかせるしかない。外務省の能力を考えると「今さら何をいっても無駄なので放置したほうがいい」という冷泉氏の結論には、残念ながら同意せざるをえない。