私たちは危機のサインを見逃してきた

2013年02月11日 17:39

「経済成長しても実質賃金が下がるのは何故か?」で書いたように、デフレの原因は、エネルギーコストの上昇と考えられる。

しかし、こうした資源の枯渇の影響は、1972年に出版された「成長の限界」以来、散々、指摘されてきたことであり、目新しいことではないにも関わらず、多くの国民は、デフレが不況の原因であると誤った考えに支配されがちのようだ。 

ここでは、我々の直面する問題は、物理的なものであることを、確認し、危機の到来を予測し、行動できなかった反省を述べておきたい。


脱化石燃料なくして繁栄は得られない

化石燃料に依存した経済が最早持続可能でないことは、たとえば、James Murrayと David KingによるNature論文:Oil’s tipping point has passedを見れば分かる。この論文の内容を簡単にまとめると次のようになる。

(1) 私たちが手に入れることができる化石燃料の今後の生産量は、多くの人が信じているほど多くはない。2005年以降の原油市場は、産油量が増加する需要に応じられない非弾性(inelastic)な状態にシフトしてしまい、原油価格の乱高下を引き起こしている。石油以外の化石燃料についても、石油と違った状況になるとは考えられない。

(2) 原油価格の高騰が景気後退や経済危機を引き起こしている。1999年にイタリアはユーロを導入したが、その時の年間の貿易黒字は220億ドルだった。それ以来イタリアの貿易収支は劇的に悪化し、今では360億ドルの貿易赤字になっている。もちろん、この変化の原因には中国からの輸入の増加などがあるが、石油価格の上昇がもっとも重要な因子である。1999年に較べて、イタリアの石油輸入量は一日当たりで388,000バレルも減っているのに、現在のイタリアは年間550億ドルを石油の輸入に費やしている。これは1999年の120億ドルより430億ドルも増えている。この差は現在のイタリアの貿易赤字に近い。石油価格の高騰は、輸入石油に依存している南ヨーロッパ諸国のユーロ危機の大きな原因になり続けている可能性が高い。

(3)英国のピークオイルとエネルギーセキュリティーに関する産業界のタスクフォース(The UK Industry Taskforce on Peak Oil and Energy Security)と英国政府のエネルギー気候変動省(The UK Government’s Department of Energy and Climate Change)は、十分にこれらのリスクについて認識しており、英国とその経済を原油高騰から守るために共同して活動する取り決めを締結した。そのタスクフォースは2008年に組織され、突然の石油逼迫(オイルクランチ)で、英国を経済破綻させらてはならないと警告し、「ピークオイル」問題に本気で取り組む政策を優先的に決めるべきだと主張してきた。英国政府は、2050年までに二酸化炭素の排出量を1990年レベルと比較して80%減にすることを公約し、それに拘束されることになった。

(4) 石油価格が急騰すると、時間的余裕がほとんどないうちに、回避しがたい経済危機が間違いなく訪れる。そのことを強調することは、各国政府に今すぐ化石燃料使用の効率化を促すアクションをとらせるに十分である。

つまり、化石燃料にしがみついていては、経済の衰退は避けられず、まず化石燃料使用の効率化、ついで、脱化石燃料が必要だと説いている。 北海油田の生産減退に90年台に直面した英国では、エネルギー危機、特にピークオイル問題については、かなり考えられてきたのだろう。 

もう間に合わない 

しかしながら IMF予測が、2022年には、原油価格は1バレル180ドルになると予測していること、また、原油の生産コストが2012年時点で平均1バレル92ドルとされ、過去の生産コストを見ても以下のように急上昇していることから考えて

p1-3-23

Finding Cost

p1-3-25

2009年度エネルギー白書から転載)

原油価格は今後とも急上昇を続けると考えざるを得ない。 非常にラフな予測だが、Gail Tverbergは、原油の平均生産コストは1バレルあたり現在92ドルだが2020年には169ドル2030年には469ドルになると予測している。 実際、現在、原油高にも拘らず石油大手は儲かっていない。 

楽観的な予測で知られるIEAのWorld Energy Outlook 2012のように2035年に1バレル150ドル未満で原油が手に入るなどということは、考えられない(IEAの予測は毎年のように原油生産予測を下方修正しており、信頼性が薄いと私は考えている。 IEA内部で情報が捻じ曲げられたとする内部告発があったことも明るみに出ている)。

結局、原油の生産コストの急上昇という物理的な理由と、エネルギー転換の困難さを考え合わせると、化石燃料に大きく依存した日米欧の多くの国は、今後とも不況を抜け出すことは不可能という陰鬱な結論が得られる。

何故、脱化石燃料が遅れたのか? 

これは主に次の理由によると思われる:

(1) 現在のところ、十分な規模とコスト優位性、利便性を持つ代替エネルギーが見つかっていない。 

(2) 従って、代替エネルギーへの転換には、非効率、多額のコストといった犠牲を払わなくてはならない。 グローバル化による国際競争が激化している状況では、一国だけでのアクションは採り難い。

(3) 結局、これは日本に於ける財政再建問題、あるいは、地球温暖化問題のように、民主主義的に解決することが困難な問題のように思われる。世界政府のようなものが出来ない限り、こういった長期的利益を優先する政策は実現しないものなのだろう。 

まとめ 

我々は、これだけ優れた科学技術、文明を持ちながら、人類全体としては、長期的展望を持たず、地球温暖化といった、危機のサインを軽視し、何千万年、何億年といった時間を掛けて蓄積された、化石燃料を100年単位の時間で、消費し尽くしつつあり、物理的な理由で、繁栄を閉じようとしているように思われる。 

これから、非常に大きな困難が予測されるが、何とか乗り切れるよう、皆で知恵を出してゆきたい。

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