エネルギー問題の本質:原発か再生可能エネルギーか、は意味がない

2013年02月19日 09:03

先週2月16日土曜の、NHK番組「シリーズ日本新生、どうするエネルギー政策」を視聴した。 

しかし、討論は、原発政策と再生可能エネルギーの問題に終始し、化石燃料の減耗という本質的な問題には殆ど触れられなかった。  

番組の冒頭で経団連副会長の坂根正弘氏(コマツ会長)が、「我々の子供の世代で石油がなくなる、我々の孫の世代で化石燃料がなくなる」と述べていたが、こちらの方が本質的な問題であり、討論が深まらなかったのは残念でならない。

ここでは、問題の本質は、化石燃料の減耗であり、原発か再生可能エネルギーか、といった議論は不毛であることを指摘し、化石燃料の減耗状況について纏めておきたい。   


問題の本質は化石燃料の価格高騰

問題の本質は、化石燃料が枯渇するかではなく、化石燃料の需要と供給がどうなるか、そして価格がどうなるかである。埋蔵量とは無関係に、掘り出すのが大変になれば、十分な供給ができなくなり生産がピークアウトし価格が暴騰したり、ネットエネルギー産出が減少したりする。それとは別に新興国のエネルギー需要の高まりもある。 

実際、多くの研究が2020年までにピークオイルが訪れると予測しており、化石燃料は、今後10年で、大きく減耗し、価格が高騰することが確実視される。 そのため、化石燃料に大きく依存した社会は、維持できないのである。

化石燃料の高騰が経済に与えるインパクトについては、既に[1]で書いたが、少しだけシミュレーションしてみよう。

化石燃料費は現在、年間約25兆円で、これは1998年の5兆円と比較して5倍の水準である。10年あまりで5倍に増加したことになる。 そこで、例えば、現在の為替水準で、化石燃料価格が単純に2倍になった場合(後述するように、これは十分にあり得るシナリオである)、年間50兆円、一人当たり、年間40万円以上もの化石燃料費を払う計算になり、経済に壊滅的な影響が生じることは容易に想像できる。   

従って、我々には、次の2つの道しか残されていない:

(1) 化石燃料の使用を減らし、代替エネルギーで置き換える。

(2) 効率化などによりエネルギー消費そのものを減らす。

再生可能エネルギーは主力エネルギーになり得ない

まず、代替エネルギーの可能性を検証してみよう。

代替エネルギーとしては、原子力と再生可能エネルギーに大別されるが、ここでは再生可能エネルギーについて考えよう。

再生可能エネルギーを見ると、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどがあるが、そもそもどの程度のエネルギー量を確保することが可能なのだろうか。  

太陽光はエネルギー量の確保という点で見ると。現在の試算では、日本の総発電量の10%程度を賄う可能性があるとされているようである。 

風力発電の場合は、日本風力発電協会は2050年までに5000万kW導入(需要電力量の10%以上を供給)することを目標にしているようだ。  

ただし太陽光、風力は不安定電源であることがネックになる。従って、理論上電力の30%以上を賄うことはできないし、バックアップ電源や蓄電設備も必要になる。太陽光、風力は、現状では現在の発電量の10-20%を賄うのがやっとだろう。

地熱は量的に全く足りない。 地熱発電ルネサンスによると、地熱発電は、いくら推進しても、 425万kW にしかならない。現状の 10倍弱だが、それでも、日本の総発電量22607万kW の、2%程度にしかならない。

バイオマスも同様に量的に足りない。 バイオマスで必要エネルギーを賄うには、森林の炭素固定量の測定結果から、一人当たり一平方キロ以上の森林が必要であり、人口密度を考えれば、ほとんど有意なエネルギー量を確保することはできない。

今後10年というスパンでは、再生可能エネルギーでは、電力だけに限っても、10%の供給さえ、非常に難しい。

日本の一次エネルギー(石油、石炭、天然ガスなど)の電力化率は2007年時点で42.7%、消費段階での電気エネルギーの比率は約25%なので、再生可能エネルギーの供給できるエネルギーは、最大でも全エネルギー消費の2.5%未満にしかならない。 

一方、原子力は電力の30%を賄う力があるが、現在、ほとんどが停止しており、増設も困難であることから、エネルギー全体でみると、大きな割合にはなり得ない。

結局、再生エネルギーは量的に全く足りず、原子力まで含めても、とても十分な量は供給できないと結論付けられる。

化石燃料の減耗

以上のように、代替エネルギーは、量的に全く足りない。それでは、化石燃料は今後、どの程度供給可能なのだろうか。

化石燃料は、石油、石炭、天然ガスに大別されるが、これらは有限であり、今のペースで使えば、非常に近い将来、供給が需要を満たすことが出来なくなる。

石油 :エネルギークランチは既に石油では起こっている([2]参照)。即ち、原油価格が上昇しても、生産が増やせない状態が既に起きている。 [3]によると、2022年には原油価格は1バレル180ドル前後になると予測されている。深海油田、シェールオイルなどの新資源は、生産コストが非常に高く、前者は1バレル100ドルを上回っており、後者も1バレル90ドルを上回る。さらに、原油の生産コストは、今後、物理的な理由により、どんどん高くなると思われる。なぜなら、油田、炭田、ガス田は、条件の良い場所から採掘され、時間と共に発見も採掘も加速度的に困難になるからである。

今後、原油価格はIMF予測程度には上昇してゆくと考えるのが合理的だろう。  

石炭: Nature論文:[4](全文を読むのは有料だが、解説が[5]にある)の示唆するように、安い石炭が好きなだけ手に入る時代は、終わりつつある。 [6]を見れば分かるように、既にアメリカの石炭産出は減退期に入り、石炭の質が低下している(含有熱量が既にピーク時の4分の3)。 また世界1位の産出、埋蔵量世界2位の中国でも2020年には、ピークコールを迎えると思われる([7])。 石炭価格は上がっており、今後、生産はピークアウトすると予測されている。

peak coal

天然ガス: 在来型天然ガスは2025年頃にピークに達すると見られている。

シェールガスに期待を掛ける向きもあるだろうが、[8]を見れば分かるように、シェールガス開発が進むアメリカでも、2年程度でピークガスに達すると見られる。これは実際に稼動リグ数が既に頭打ちになっていることから裏付けられている。 

シェールガスの生産コストは高く、現在の価格は採算割れの水準であり、シェールガスが安い資源であるというのは幻想に過ぎない([9])。 資源量も過大評価されている(たとえば、最近の再評価でポーランドの埋蔵量は従来の10分の1に修正された)。

アメリカの地質学者Berman氏は、[9]で、アメリカのシェールガスの可採埋蔵量はアメリカ国内消費の23年分で、それでも多すぎる可能性があるとし、シェールガス井戸は、生産減退が激しく、生産性は高くない、と結論付けている。 また[10]は、資源量は当初考えられていたような規模ではないことから、アメリカのLNG輸出に反対する姿勢を示している。

今月の日米首脳会談で、安倍首相は、オバマ大統領にシェールガスのアメリカから日本への輸出許可を要請するようだが、アメリカは天然ガス輸入国であり、既に昨年、野田首相(当時)がオバマ大統領に要請して断られた経緯もあり、日本がアメリカからシェールガスをLNGとして輸入することは難しく、輸入できたとしても量は限られるだろう。 アメリカは自国農業のためにリン鉱石の輸出を禁止しており、シェールガスでも同じ対応をとると考えるのが自然なように思われる。

巨額の投資負担

一方、IEAはWorld Energy Outlook 2012 (exective summary)の中で、原油、ガスの生産が2035年まで伸び続け、2035年の原油価格が1バレル150ドル弱になるシナリオを提示しているが、その前提条件として

The net increase in global oil production is driven entirely by unconventional oil, including a contribution from light tight oil that exceeds 4 mb/d for much of the 2020s, and by natural gas liquids. Of the $15 trillion in upstream oil and gas investment that is required over the period to 2035, almost 30% is in North America. 

と述べている。つまり、在来型油田は減退し、非在来型資源開発を推進する必要があり、IEAのシナリオを達成するには2035年までに石油、ガス開発に現在価値で総額15兆ドルの投資(そのうち約3割が北米向け)が必要としている。これは普通に考えると達成不可能な数字である。 これは北米に毎年20兆円程度のシェール開発投資をしなくてはならない、という驚異的なものだ。GDP比で投資額を割り振ると、日本の場合、年間4-5兆円の石油、ガス開発への投資をしなくてはならない。非現実的と言わざるを得ないだろう。

石油、ガス開発は現在、非常に高コストになっている。 

化石燃料の減耗が意味するもの

以上のように、化石燃料を代替エネルギーで置き換えることは短期的には極めて難しい。 
1バレルの原油の持つエネルギーは、12人の人間の1年間の労働力に匹敵するとされる。これが90ドル程度で手に入るわけであり、化石燃料、特に石油のお蔭で、人類は70億人まで増えたのである。

これから10年ほどで、石油を始めとする化石燃料は非常に高価になり、資源の枯渇を心配するエネルギー産出国が、輸出を制限し始めるなど資源の囲い込みが始まる可能性もある。実際、現在最大の産油国サウジアラビアが2030年までに石油輸入国になるという予測さえある。 

こうした状況を考えると、

     エネルギークランチ⇒食糧生産の減退⇒飢餓による混乱 

というシナリオも20年先まで見渡すと視野に入ってくる。日本として何ができるのか、今の中から考えておくべきではないだろうか。 まず、省エネルギー、特に石油の使用を減らすことを考えなくてはならない。 炭素税の導入を国際的に行うことへの働きかけや、自家用車に高い税を掛け、公共交通機関や自転車の使用を促すなど、将来の危機の到来に向けた備えを着々と進めるべきだろう。このままの状態で、化石燃料エネルギーが手に入らなければ、日本の国土は1000万人程度の人口しか支えられないと思われる 

エネルギー問題は、原発を止めても、再生可能エネルギーで賄えばよい、とか、石油がなくなれば天然ガスを輸入すればよい、石炭はまだ沢山ある、といった簡単な解決がある問題ではないのだ。 

参考文献

[1] 「経済成長しても実質賃金が下がるのはなぜか?」

[2] Oil’s tipping point has passed

[3]Oil and the World Economy:Some Possible Futures: Michael Kumhof and Dirk Muir

[4]The end of cheap coal

[5]The end of chap coal

[6] Coal future, China and the World

[7] Peak Coal in China

[8] Peak Natural Gas

[9]After The Gold Rush: A Perspective on Future U.S. Natural Gas Supply and Price

[10]Lessons From Past Natural Gas Import Fiascos Suggest A Cautious Approach to Natural Gas Exports

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑