財政出動でも建設業は盛り上がらない --- 岡本 裕明

アゴラ

アベノミクス三本矢のひとつ、財政出動はそのお金の出費を通じて公共投資にお金が回る部分も大きく、更に金融緩和で金利は超低金利が当面維持されることで個人の住宅取得への動きも活発化しています。その上、消費税の引き上げをにらみ、住宅のいわゆる駆け込み需要も高まってきており、日本の建設業界は「活況」であるはずです。勿論、震災復興も引き続き継続されるわけです。


これだけ並べれば建設業はさぞかし忙しく、儲けているだろうと思われるでしょうけど、極論すると「貧乏暇なし」の状態になりつつあるのではないでしょうか? つまり、仕事はたくさんあれども一向に儲からないのであります。

理由は材料高と人件費高。

まず、材料ですが、日本に輸入木材が入りにくくなっているという話を聞きました。理由はアメリカの需要が活発で日本にまで回らない、と。このブログで何度も指摘しているとおり、アメリカの住宅市況は底打ちしており、明白な回復ラインを辿っております。そのため、アメリカの住宅業界での木材などの需要は高まっているため、市況は高騰している上に材料を日本に回す余裕がないというのです。

これはカナダとアメリカの関係なのですが、理由は域内の税金がないこと。つまり、二国間自由貿易協定やTPPに加盟していないといざという時、ものが回ってこない、というリスクがあることを示しています。これが材料費高騰の理由。

次に建設業従事者。ピークには700万人とも言われた従事者は今、500万人を越える程度でしょうか? しかもいわゆる専門職とされる鉄筋工や型枠大工などが不足しているとされています。理由は簡単でバブルの時はいくらでも稼げた専門職の職人さんもそのあと、政府方針で公共投資をばっさり切ったものですから当時日本最大の雇用を確保していた建設業はその生き方を完全に変える必要があったわけです。

更にもともと高齢者が多かった業界ではバブル崩壊後の20年でその従事者の年齢構成上、自然減が生じ、新規参入者は少なかったのです。また、若者は3Kの仕事よりコンピューター、ITといった業界に飛びつきました。つまり、日本が建設業をまったく育てなかったのであります。この極みは民主党政権時代に「コンクリートから人へ」のキャッチでわかるように公共投資を目の敵にしたことにあります。

ですが、震災で建設業の需要がにわかに回復したものの職人を東北に取られて東京を始め日本各地で職人不足が顕在化しました。その上、今度は消費税駆け込み需要があることがわかっているにもかかわらず財政出動なのです。

これが何を意味するかお分かりだと思いますが、ボトルネックが生じてしまうのです。これはせっかくのアベノミクスの三本柱の効果が最大限に発揮できないばかりか、将来的には手抜き工事などの品質問題にも発展しやすい状況になります。

職人の人件費は上がってきますが、元請け側は施主から追加の工事代金を貰うことは難しいでしょう。施工会社は通常、設計変更は増額対象になりますが、コスト増分に対するリスクは建設会社で吸収する仕組みにあるからです。つまり、受注段階で価格競争で勝ち抜いて安値で確保した仕事でも蓋を開ければコスト増で結果として苦労ばかりで儲けは少ない、という結果に陥りやすい状況になってしまうのです。

建設業は売り上げは上がるが、利益は上がらないだろうとアナリストあたりに見込まれているのはそういう意味が大きいはずです。

ならば厳しい財政状況を押してなぜ、今、公共工事なのか、という疑問もあってもおかしくないでしょう。日本は長いデフレ期間を通じて経済のシステムが非常にゆがんでしまっています。更に政権が揺らぎ続け、日本がどこに向かっているかわからない状態の中で国民は右往左往したのであります。ですから、今、三本矢が日本を救うといっても国民全般にそのメリットが行き着くかどうかそこをもっと重視しなくてはいけないはずでしょう。壊れたシステムを直さずにして経済が回るわけがない、という点については政治家からは「即効性がない」ので好かれないのでしょうか。

今日はこのぐらいにしておきましょうか?


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年2月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。