円安とは円が弱くなっているわけではない --- 岡本 裕明

アゴラ

円が長期的に弱含むなら外貨預金など資産を分散化した方がよい、とする話はよく聞きます。本当にその話に乗ってもよいのでしょうか? 今日はそのあたりを大所高所から考えてみたいと思います。

香港が中国に返還される前、多くの香港人は資産を海外に分散化させました。更にはカナダやオーストラリアに移民権も取得し、いつでも国を去れる準備もしました。理由は中国への返還により一夜にして自分の資産が没収されるリスクがないとはいえなかったぐらい、政府方針の突如の発表に身構えなくてはいけなかったからです。同じことは台湾も同じで、いつか中国に併合されるという恐れは付きまとい結果として多くの海外移住者や資産の分散化が行われました。


香港や台湾の場合、自分の資産がゼロになるという恐怖心がそのような動きに繋がったのだろうと思いますが、さて、今の日本にそのような状況があるのかといえば、そんなわけはなく、資産を分散化しようというのはやや大げさのように聞こえます。為替などは上下するのが歴史であって、第一期安倍内閣の時は対ドルで120円だったわけです。今、120円をつけようならば日本は崩壊すると叫ぶ専門家がいてもおかしくないと思いますが、長い目で見ればそれは歴史の中のうねりであって70円台だった為替が仮に120円をつけたら次は150円、180円、200円になるかというとそんな訳ではないのです。上がれば下がる、という波を打ちながら落としどころを探すのが為替の特徴で、仮に一方通行で為替が弱くなるとすればそれは日本が崩壊状態でハイパーインフレにでもなった時の話です。

ちなみに最近、ハイパーインフレという言葉を人気為替コメンテーターの人も平気で使っておりますが、ハイパーの意味とそういう状況に陥るバックグラウンドを十分理解しての発言なのか、はたまたブラフなのか、はなはだ疑問に思う時があります。今、日本円が仮にハイパーになる状況とは戦争をして負ける場合ぐらいしか考えつきません。しかし、日本の社会で戦争があり、負けるという可能性を考えて将来行動にしていくというのはどうなのでしょうか?

資産が何億円もある人は資産の分散化の意味もあるのですが数百万円しかない預貯金を分散化してもそれは為替手数料を稼ぐ業者を喜ばせるだけではないでしょうか?

外貨預金の場合、相手国のことを知らなくてはいけません。しかしながら日本の人はどうも相手国のイメージだけであたかも海外旅行に行くぐらいの気持ちで外貨預金先を考えている節も無きにしも非ず、という気がいたします。オーストラリアやカナダドルは為替の流通規模が小さく弱小通貨でありますからドルやユーロの状況次第で上にも下にも動きやすい状況になるのです。極端なたとえでいえば一部上場で流通株式が多いトヨタやみずほ銀行とあまり聞かない企業や新興市場の株式のようなものと思えばよいかと思います。

結論からすれば多額の現金資産を持っている人は分散化の意味合いはあるかと思いますが、一般的な人には好きでやるのはかまいませんが、将来のリスクヘッジのためというならば何がリスクかよく考えて行動すべきかと思います。日本円は世界主要通貨のひとつです。ドル、ユーロに次いでイギリスポンドと並ぶほどの流通量があるのです。それは何を意味しているかといえば為替のシーソーゲームでは何かあればいつでも一気に円高に振れることはあるということです。シーソーの力は国の借金状態だけでなく、国力、政治力、資産、国としてのキャッシュフローである経常利益などあらゆる面を他国との比較で判断します。円が70円台をつけたときは欧州危機で円がセーフヘイブンだったという理由であってそのマネーが今、アメリカの回復も手伝い、リクスオンモードで円売りドル、ユーロ買いに転換していると見るべきで円がファンダメンタルに弱くなっているわけではないと私は考えています。

外貨預金を勧める本や記事は時々見かけますが、おいしい話がそんなに転がっているわけじゃないということではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょうか?


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年2月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。