生産性の上昇が、人を幸せにするために

2013年02月23日 12:57

西和彦氏の記事:「4Kテレビは安くなる、そして売れる」を拝読し、今の時代は、安くて良いものでなければ売れない、という感を強くしました。

確かに、安くて質の良い衣料品を提供しているユニクロ、配送料無料で、しかも安く、様々なものが手に入るアマゾンなどを見ると、最近のトレンドは、安くて良いもの、安くて良いサービスということでしょう。 

ここでは、安くて良いもの、安くて良いサービス、また、その根底にある生産性の上昇が、我々を幸せにするのか、そのために何が必要なのかを考えてみたいと思います。


生産性の向上

安くて良いもの、安くて良いサービスを提供するには、生産性を上げることが必要です。

歴史を振り返ると、生産性の向上が人類の生活を改善してきました。

大昔は労働力の大部分は食糧生産に費やす必要がありましたが、食糧生産に牛や馬といった動物の労働力の導入が進み、次いで農業機械の導入が進むと、少しの人員で食糧生産が出来るようになり、人類は食糧生産から解放され、工業化が起こり、第二次産業が発達するようになり、人類の生活は飛躍的に向上しました。 特に化石燃料の利用は、人間の労働力の数十倍、数百倍の仕事を機械に行わせることを可能にし、20世紀初頭には、空中窒素固定法の発明による、食糧生産の飛躍的向上が起き、その結果、人口爆発により、世界人口は現在70億に達しています。

機械との競争、アウトソーシング

生産性の向上は、現在でも続いています。 今日、経済はグローバル化しており、企業の国際競争は激しくなっており、企業が競争に打ち勝つには、生産性の向上が必要です。 

生産性の向上のために、機械化、IT化が進んでいます([1],[2])。 機械を動かすには、エネルギーの投入が必要ですが、エネルギーコストが上昇したとはいえ、依然として、人間の労働を機械で置き換えることができれば、大幅なコスト削減や生産性の向上が図れるからです。  

また、生産性の向上の別の手段として、アウトソーシングがあります。自前の工場を持たず、世界中の企業を手足のように使って、生産を行う、アップルのような企業が出現しています。ユニクロもアウトソーシングを上手く使って発展した会社です。   

しかし、生産性の向上の結果、雇用が奪われることになります。例えば、アマゾンの出現で、小さな書店やCDショップは、消滅しつつありますし、国外へのアウトソーシングが進めば、国内の工場は姿を消してゆくことになり、やはり雇用は失われます。 、  

こういった変化は、競争の結果として必然的に起きていることで、このルールを変えることはできません。 

需要の大きさを決めるもの

さて、歴史を振り返ると、こうした生産性の向上が起きた結果、生まれた失業者が、新たな仕事を始めることで、社会は豊かになれるはずです。つまり雇用の移動により、社会は豊かになってきたのです。 現在、果たして、そうなっているでしょうか?

少なくとも、欧米、日本などの先進国を見ると、どうも、そうはなっていないように思われます。アメリカ、欧州、日本とも最近は低い成長しかしていません。  

これは、何故でしょうか? 

これは、[3]で述べたように、化石燃料費の増加が大きな要因だと思われます。

これは、次のように説明されます。新しい仕事を生み出すのには、新たな需要を見つけるか生み出さなくではなりません。 そのためには、その新たな需要に振り向けるだけの、余裕が必要です。 つまり、実質賃金が十分にあり、生活に必要な支出を除いた残りの自由に使える部分が十分にあるか、出来れば拡大していることが望ましい、ということになります。 

ところが、実際には、[3]で見たように(調べたのは、日米だけですが、恐らく多くの先進国で)実質賃金は減少しているのです。 

wage-base-divided-by-gdp

(アメリカの賃金総額の対GDP比の推移:How high oil prices lead to recessionから転載)

これは、化石燃料の高騰により、機械の労働コスト(=エネルギーコスト)が上がり、これが労働者の実質賃金を下げた、つまり機械の取り分が増えた分、労働者の賃金が下がった、と見ることができるわけです。 

そして化石燃料の高騰の原因は、化石燃料資源を発見したり採掘したりするコストが著しく上昇している(例えば[4]参照)ことにあり、そのコストは誰かが負担せざるを得ず、その分だけ、世界全体は貧しくなるのは、避けられないということです。

これは言い換えれば

      物質的豊かさ = エネルギー産出量 × エネルギー効率 

が成り立っており、一人当たりのエネルギー供給が減少したり、エネルギー産出が困難になったり、高コストになると、エネルギー効率を上げなければ、豊かにはなれないのです。

このように整理すると、新たな成長産業が見つかるとしても、それは、世界全体の物質的豊かさを拡大するものではなく、縮小するパイの奪い合いに勝つ、というやや不満足なものなのかも知れません。 

例えば、モバイルゲームは成長産業なのかも知れませんが、エネルギー効率の改善を伴わないため、富の平行移動に過ぎないと、見ることも可能でしょう。

つまり新たな成長産業も、ゼロサム、マイナスサムの中でのパイの奪い合いに過ぎない可能性もあるのです。

安くて良いもの、安くて良いサービスは人を幸せにするのか?

このように見てゆくと、安くて良いもの、安くて良いサービスを提供することは、エネルギー効率の上昇を伴わない限り、社会を豊かにしない、という意外な結論が導かれます。

つまり、競争に勝つためには、安くて良いもの、安くて良いサービスを提供する必要がありますが、そのために、機械化、IT化、アウトソーシングといった形で、雇用が奪われ、失業した人たちが、新しい仕事に就いたり、新しい仕事を始めようとしても、エネルギー供給の天井が下がって来る現在の状況では、ありつけるパイの大きさが小さいのです。 

その結果、生産性上昇ではじき出された人たちは、機械、ITで置き換えられない、ドメスティックな対人サービス、たとえば、介護、小売、飲食業といった低賃金のサービス業に再就職するしかないのが現状ではないでしょうか。 

私は、デフレの本質は、こういった現象の総体であり、貨幣現象とは別の問題のように思います。 

つまり、生産性の上昇により安くて良いもの、安くて良いサービスが提供される一方、実質賃金は低下し続け、生活は苦しくなってゆく、という現象をデフレと言っているように思うのです。 これはインフレを起こしても解消するものではありません。 

このまま進むと、高いスキルを持った人材以外、労働力が評価されず、多くの人が失業し、ベーシックインカムで生活したり、大多数の人が低賃金に甘んじるような社会が出現するのかも、知れません。 私には、生活保護の受給者が増加し続けていることは、その前兆のような気がしてなりません。

そして、合成の誤謬の結果、需要が減少し、世界経済がさらに落ち込むことになりかねないように思います。  

節約社会の実現を

以上のように、現在の状況は、生産性の向上が、必ずしも社会全体の豊かさの向上に結びつかない状況になっているのではないか、と思います。 

これを解決するには、エネルギー革命を起こしエネルギー産出を増加させ、世界全体の物質的豊かさのパイを大きくするか、エネルギー効率を上げるしかないと思われます。 

そのために我々に何が出来るのでしょうか。 私は、長期的にはエネルギー構造の転換、短期的には、少子高齢化で余った住宅や店舗の活用や、稼働率の低い、自家用車の稼働率を上げるカーシェアリングといった地道な効率化の努力ではないかと思います。  

追伸

ここで述べた意見は標準的な経済学の議論とは異なるものかも知れません。 またここでの議論は [3].[5], [6]をベースにしたものです。

参考文献 

[1]「アマゾンの快進撃が意味するもの」

[2] フォックスコンが、従業員50万人をロボット100万台で置き換える

[3] 「経済成長しても実質賃金が下がるのはなぜか?」

[4] The cost of new oil supply

[5] エネルギー価格と日本経済

[6] 失業と貧困はなぜ生み出されるのか

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