ネットにおけるメディア戦略はエンゲージメントを目指せ --- 藤村 厚夫

2013年02月25日 12:04

ページビューを追い求めながら、苦戦を強いられ続ける商業メディア。メディアは、量的指標からの転換を成し遂げられるのか? エンゲージメントをいかに生み出すのか、その指標化について考える。


Web を基盤とする多くの商業メディアは、2000年代、激しいページビュー(PV)競争に憑(つ)かれ、そしていま、疲れています。

最初の“異変”は、2007年に起きました(参照 → 「ネット利用増加も PV は減少、ネットレイティングス調べ」)。それまで国内のインターネット利用では、ユーザー数が増え続け、利用時間が増え続け、そして、各メディアサイトのPVは増え続けるという、つねに右肩が上がっている状態を謳歌してきました。

しかし、2007年に(「一般家庭での」)総PV数が減少に転じるという局面を迎えたのです。

当時、Web メディア企業の経営に携わっていた筆者の経験でも、この時期にいたってメディアの自然成長策では足りず、メディア買収などの増PV施策を成長施策として強く意識せざるを得なくなっていました。と同時に、PV 以外にメディアの経済的価値指標を求めようとする模索も始めていました。

たとえば、PV の視点で国内の人気サイトランキングを上位50サイトで区切ってみると、メディア企業が運営するメディアサイトが上位に食い込むケースは、「Yahoo! ニュース」と同「トピックス」を除くと稀であることが分かります(参照 → こちら)。

試しに2013年1月の国内人気サイトをPVで見ると、50位内にランキングされるメディアサイトは、上記の「Yahoo! ニュース」および「Yahoo! ニュース トピックス」以外では、「MSN 産経ニュース」に止まります。

その代わりに、ランキング上位は、検索やディレクトリを提供するポータル、動画、ソーシャルメディア、そして各種Webサービスサイトに占められています。

つまり、こと PV という観点では、Web 商業メディアは2000年代後半からつねに苦戦を強いられる状況下にあるといってよいのです。

ポータルはポータル、ソーシャルメディアはソーシャルメディア。そして、メディアはメディア、つまり、皆違うものなのですが、問題はこれで終わりません。

ソーシャルメディアなら、ユーザー間の会話(コミュニケーション)に根ざし、その“おしゃべり”の回数だけ PV を稼げます。それに対して、商業メディアでは、ユーザーの第一の関心はコンテンツの鑑賞吟味です。1回の閲覧で満たされるケースがほとんどでしょう。

最近でこそ、商業メディアのコンテンツでも、ソーシャルブックマークやソーシャルメディアに評価を反映したりと会話性を高めてきました。

しかし、元来は、コンテンツは1回玩味すればその目的が完結するものと考えれば、会話と鑑賞とは、おのずと生み出す結果が異なるのは当然です。

ところが、広告で収入を得ようとするとビジネスの構造は同じです。広告の表示回数を決めるPVという点で、商業メディアはソーシャルメディアをはじめとするもともと異なる存在とも競り合うことを迫られているのです。

そのようなわけで、Web メディアは、自らの価値を PV に代わって説明できる指標を見出す必要に迫られているのだといっていいでしょう。

それは、自らの広告価値を、広告主に説明する必要があるからなのはもちろんですが、さらに、規模を誇る“メディア似のライバル”たちに対する差別化の選択でもあるのです。

先に紹介した「ネット利用増加も PV は減少……」記事では、調査したネットレイティングス萩原雅之社長(当時)が、以下のように述べています。

Web サイトの価値を図るには PV だけでなく滞在時間も考慮することが重要。滞在時間に連動した広告の料金体系やインプレッション(表示)単価の引き上げが差し迫った課題になる。

PV に代わる経済的な価値指標には、さまざまなものが想定できます。指摘の「滞在時間」に加え、「再訪率(頻度)」、「セッション当たり(コンテンツ)閲覧数」等々です。いずれも、メディア(コンテンツ)がユーザーに価値高いものと評価されてこそ意味の生じる指標です。

つまり、単なるなにかの結果としての指標ではなく、手数をかけて生み出したコンテンツを取りそろえた商業メディアならではのポジションに対する評価を反映したものでなければなりません。

価値の高いコンテンツをそろえたメディアだから読者は長い時間滞在する、あるいは、何度も訪れる……というような理路が必要です。

このような指標は、PV など規模的な指標に代わって“エンゲージメント”指標と捉えることができるでしょう。それは、読者とメディア(とそのコンテンツ)との関係の深さを表す概念です。

メディアや広告といった特殊性を省いて、“エンゲージメント”をどう捉えるかをうまく説明した記事があります。

顧客エンゲージメントとは、企業自体や商品やブランドなどに対する消費者の深い関係性のこと。日本語で最も近い感覚の言葉に置きかえるとしたら「愛着」あたりが候補のひとつだろう。そのほか、「結び付き」とか「きずな」といった表現も見受けるが、いずれにしてもそれは「満足」や「誠実」からさらに一歩踏み込んだ感情で、消費者の積極的な関与や行動を伴う。(鶴本浩司「ユーザーの『愛着』を深める、顧客エンゲージメント」)

このような理解を、私たちのテーマであるメディア(やコンテンツ)に当てはめてみるとどうしょう?

“エンゲージされたユーザー”は、メディアやコンテンツに対し、一時的に満足したという状態を超えた愛着や信頼感を抱いており、以後にそれを反映した選択や行動を取り得る状態にあるのです。

記事が示唆することはもう一つあります。エンゲージされた状態とは一様ではなく、深さをともなっており、より深くエンゲージされることにより、ユーザーは、メディアに対してより一層積極的な行動、たとえば、応援する、他者に推薦するなどを行うというものです。

メディア経営において、上記のようなエンゲージメントされた状態を生み出すには、もう一段具体的な目標づくりが求められます。

たとえば、ボリュームのある読み応えのあるコンテンツを得意とするメディアならば、ユーザーは一度に多くのコンテンツは読み飛ばせない=PVは多くならないでしょう。

代わって、指標としてまず最初に思い浮かべるべきは、滞在時間です。

あるいは、エンゲージされた状態が高いことを目標とするなら、検索エンジン経由でなく、自らのブックマークや URL をタイプして来訪するケースを想定すべきかもしれません。来訪頻度の高さが指標になるかもしれません……。

これらを監視していくことにより、自らのメディアのエンゲージメントの度合いの改善施策を継続的に行うことができるはずです。

さて、商業メディアがユーザーとのエンゲージメントを高めていくとの目標から、ユーザーログのどの点に注目すべきかを解説した記事があります。eMediaVitals 掲載「Five ways to measure content engagement(コンテンツのエンゲージメントを測る5つの方法)」です。以下、おおづかみに紹介します。

  1. 「購読申し込み」ページへの誘導率……メディアがメールマガジンなど購読サービスを提供しているなら、あるコンテンツを読んだユーザーが、次にこの「購読申し込み」ページへと遷移したとすれば、そのコンテンツを読んだことが、ユーザーを強くエンゲージさせた理想的なコンテンツだと見なせる
  2. 平均滞在時間……PV は、往々にしてタイトルの付け方など意図的な手段によって喚起される。他方、(メディアやコンテンツ上での)滞在時間は、純粋にユーザーがコンテンツを玩味していることを表し、欺瞞が入り込みにくい指標である
  3. 直帰率……検索エンジンを主要な流入経路とすれば、一つのコンテンツ閲覧だけでサイト外へ離脱してしまう直帰率が高まる。一方、エンゲージされたメディアへの来訪であれば、ユーザー行動は直帰しにくいとみなせるだろう
  4. ソーシャルメディア経由の会話数……エンゲージの度合いは、そのコンテンツを軸に会話が広がるという点から確かめられるとする視点で、会話の数を追跡する趣旨だ。Twitter のメンション数、そして記事にコメント欄があればその数を測定する
  5. ソーシャルメディア経由のリーチ(伝播・広がり)……4.と異なり、運営するメディアやコンテンツをフォローしたり話題にするヒトがどれだけいるかを計測するもの

紹介してきた測定指標は、運営するメディア(とそのコンテンツ)が求めるユーザーとのエンゲージメントの状態や、その先のビジネス戦略に結びついている必要があります。

たとえば、“滞在時間の長さ”というメディアの特徴を追い求め、それを主要な指標とする方向性は、むろん、それだけでも「腰をすえてコンテンツの価値を味わう読者を擁している」という説明を可能とします。しかしそれだけでは足りません。エンゲージされたユーザーから、メディアはどのようなビジネス価値を最終的に引き出せるのかが問われるはずです。

たとえば、“違いのわかる”ユーザーに訴求すべく取材などの手間をかけた内容濃い記事体広告を収益事業の柱に据える、あるいは、購読制や記事の単品販売なども構想してよいかもしれません。

ユーザーとのエンゲージメントの高さやその特性は、そのメディアの広告価値を一般的に説明するだけではなく、そのメディアの事業としての発展形を整理するためにも重要な指標となるはずなのです。

(藤村)

編集部より:この記事は「BLOG ON DIGITAL MEDIA」2013年2月24日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった藤村厚夫氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はBLOG ON DIGITAL MEDIAをご覧ください。

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