足るを知ることの勧め

2013年02月27日 12:02

最近の日銀の金融緩和を巡るリフレ派の人たちの発言を見ていると、リフレ派の人たちは、今の日本経済の状況は、日本の実力以下であり、金融緩和を強力に推し進めれば、経済成長を大きくできる、と考えていることが良く分かります。 

しかし、客観的に見ると、労働者一人当たりの実質GDP伸び率で見ると、最近の日本経済はアメリカに引けを取らないだけの成長をしていますしEUは、昨年に続き、今年もマイナス成長が予測されています


ですから、今の日本経済の状態は、相対的に見れば、特に不調なわけではなく、実力どおりであり、他の先進国並みか、それ以上なのですから、景気対策をする理由は全くありません。 金融緩和も財政出動も全く必要ないと言ってよいでしょう。
    
それでは、何故、こういった無理な成長志向が議論されるのでしょうか? これは、国民の間に、現在の経済状況に対する不満が鬱積しているからだ、と思われます。

不満の根源

それでは、何が不満なのでしょうか? 

競争に打ち勝つため、企業は生産性を上げる必要があります。 そのため、機械化やアウトソーシングが行われ、多くの職が奪われ、失業した人たちは、新しい就職先を探さなくてはなりません。ところが、世界のネットエネルギー産出に限界が生じ、世界経済のパイが小さくなりつつあるため、それらの失業者は、機械化やアウトソーシングのできないドメスティックな対人サービスに就かざるを得ません。 こういった職は生産性が低く、そのため、日本では、製造業の生産性は高いのに、サービス業の生産性は低いという現象が起きています。 

このようにして、グローバル化の進展で、新興国が経済発展する一方、先進国においては、「明日は今日より貧しくなる」ということが実際に続き、将来を見渡しても、今後、今より豊かになれる、という希望や確信が持てない状況です。 これは「生産性の上昇が、人を幸せにするために」に書いたとおりで、これこそが、先進国の大多数の国民の不満の根源だと思います。

悪化する人類の生息環境

このような、謂わばジリ貧の状況を打破するには、どうしたらよいのでしょうか? 

まず、問題は物理的なものである、ということを認識する必要があります。

ほんの15年ほど前、原油価格は1バレル10ドル代でした、それが、今は1バレル100ドルに迫る勢いです。しかも、これは長期的に下がる見込みは全くありません。今や、1000メートルを超える深海の下、さらに数千メートルを掘り進んで、漸く原油にたどり着く、といったことが必要になっています。 つまり、エネルギー生産は大きな労力とリスクテイク、多額の投資、費用を掛けなければ出来なくなりつつあるわけです。エネルギー資源の減耗は現実の問題です。

こうした物理的な困難は、大昔であれば、森林を伐り尽くしてしまい、薪が十分に採れなくなってきた、というような事態に相当し、正に、人類の生息環境が悪化してきた、ということです。

これを確かめるには、現存する人類が突然消滅し、今、新たに、石器時代の人が現れた、という仮想実験をすれば、分かるでしょう。
 
彼らが、化石燃料を使って、文明を新たに発展させようとしても、簡単に掘れるようなところに化石燃料は既になく、高純度の金属鉱石も見つかりません。彼らが、新たに、今日のような工業文明を築ける可能性は限りなくゼロに近いでしょう。 

人類の生息環境は、資源、環境、いずれを見ても著しく悪化しているのです。 今、我々の直面しているのは、こういった目に見えない成長の限界であり、我々を現在苦しめているのは、正に人間の原罪と言えるでしょう。

これを嘘だと思う人も多いかと、思いますが、2020年までにも、ピークオイルがやって来れば、問題の本質が、否応なくはっきりするでしょう。 
  

パラダイムの転換が必要

問題は、上に述べたように物理的なものなのですから、金融緩和で景気が良くなる、といったことは起きないはずです。 

そもそも、世界の他の国の人たちと比較して、日本人の頭脳が著しく優れている、といったことは確認されておらず、世界の人は、それぞれの能力に応じた豊かさを手に入れることができる、というのが、明らかに正義なのですから、低スキルの仕事の賃金は、世界標準に向けて下がってゆくことは、避けようがありません。 

結局、我々に出来ることは、自らのスキルを高めることしかないと、思います。 簡単に言えば、世の中にうまい話はない、ということです。

私は、数学者ですが、一度、就職担当になったとき、「先生、どうしたら儲かりますか?」と銀行の人に何度も訊かれて困ったことがあります。 私は、そういう時には、「もし、私が確実に儲かる方法を知っていたとして、それを皆が知って使ったらどうなりますか?」とやり返していました。 

このように、正当的な学問というものは、概ね「世の中にうまい話はない」とか、「世の中、よくできている」といったことを確認するためのもので、魔法の杖を与えるものではないのです(経済学について、同じようなことを一橋大学の斉藤誠先生が「経済学は無力なのか」に書いておられます。これは必見です)。

客観的に言って、今の状況において、日本全体が、物質的に豊かになれるような、即効性のある手段も方法も存在しないといえるでしょう。 

我々が、今やるべきことは、自らを磨くことで、あって、「何かうまい方法があるんじゃないか」といった無駄なことを考えないことが大事なのだ、と思います。 法科大学院の顛末を見れば分かるように、今の世の中に、確実に高い収入や、高い社会的地位を得る方法は存在しません。

徒に豊かさを追い求めるのではなく、日本の社会のもつ、高い秩序や社会規範の高さ、を大事にし、物質的に貧しくなっても過ごしやすい社会を維持することを考えるべきではないでしょうか。 

豊かさの限界を知る、足るを知る、といったパラダイムの転換が必要であり、それが結果的に、日本社会の本当に大事なものを失わないために必要なのではないか、と思いますが、如何でしょうか?

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