コンクラーヴェ(ローマ教皇選出会議)の行方

2013年03月11日 21:18

ローマ教皇を選出する秘密会議、いわゆるコンクラーヴェが2013年3月12日から開かれることになった。会議はサンピエトロ大聖堂に隣接するバチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂で行なわれ、世界各地から集まったカトリック教会の枢機卿115人の互選によって新教皇が決定される。


今回のコンクラーヴェは、終身制だと考えられていた教皇職を、ベネディクト16世が生前辞任する、という驚きの行為を受けて召集された。教皇の生前辞任、しかも自発的意志による引退は、1294年のケレスティヌス5世の辞任以来、719年振りの出来事である。

その椿事を踏まえて召集される極めて珍しい選挙集会、という事実もさることながら、多くの難問を抱えているバチカンにとっては今年のコンクラーヴェは、長い歴史を持つ教皇選出儀式の中でも極めて重要なものになると見られている。

世界中に12億人前後の信者がいるとされるカトリック教会は現在、存続の危機と形容しても過言ではない深刻な状況に陥っている。その最たるものが、聖職者による幼児への性的虐待とそれを隠蔽しようとする旧態依然とした体質であり、女性や同性愛者への偏見差別問題であり、さらにバチカン銀行による金融不正事件、マネーロンダリング疑惑など、など、である。

中世がそのまま生きているような、バチカン及びローマ・カトリック教会のそうした現状は、抜き差しならない泥沼に嵌まった重大な問題になっている。コンクラーヴェで新しく選出される教皇は、それらの難問を解決するべく厳しい責務を負うことになる。バチカンには大きな変革が求められているのである。

バチカンの病的な保守性は、極端なヨーロッパ偏重主義に原因の一つがある。世界中に12億人前後いると見られるカトリック教徒のうち、約76%が南米を筆頭に北米やアフリカやオセアニアなど、ヨーロッパ以外の地域に住んでいる。

ところが聖ペドロ以来265人いるローマ教皇の中で、ヨーロッパ人以外の人間がその地位に就いたことはない。内訳は254人がヨーロッパ人、残る11人が古代ローマ帝国の版図内にいた地中海域人だが、彼らも白人なのであり、現在の感覚で言えば全てヨーロッパ人と見なして構わないだろう。ローマ・カトリック教会においては、世界で最も信者数の多い南米出身者はもちろん、北米出身の教皇さえ歴史上存在しないのである。

12日から始まるコンクラーヴェの選挙では、本命候補はいないというのが世界のメディアの論調である。しかし、本命はいなくても有力と考えられている候補者はいる。しかも下馬評では、ヨーロッパ人以外の候補者が多く名を連ねているのが特徴である。

主な候補者は、イタリア・ミラノ大司教のアンジェロ・スコラ、米国ボストンのショーン・オマリー枢機卿、ブラジル・サンパオロ大司教のペドロ・シェレル、カナダのマルク・ウエレット枢機卿、ガーナのピーター・タークソン枢機卿、フィリピン・マニラのルイス・アントニオ・タグレ大司教、また大穴として米国ニューヨークのティモシー・ドラン大司教らの名が挙がっている。

ここで注目されるのは、有力候補と見られるそれらの人々が、イタリア人のアンジェロ・スコラ大司教を除いて、全て非ヨーロッパ人である点である。米国や南米の候補者は、全員がヨーロッパからの移民の流れを汲んではいるが、フィリピンのルイス・アントニオ・タグレ大司教とガーナのピーター・タークソン枢機卿は、100パーセント「非白人」の候補者である。

南北アメリカ出身の教皇が誕生すれば、それはそれで既に「歴史的な事件」だが、フィリピンとガーナ、特にガーナのピーター・タークソン枢機卿が選出された場合は、ほぼ「革命」と形容しても過言ではない歴史の巨大な転換点になるだろう。

人種差別主義の巣窟と見なされ続けてきた米国には、初の黒人大統領バラック・オバマが誕生して、負の歴史の厚い壁に風穴を開けた。もしも黒人のローマ教皇が生まれるならば、それはオバマ大統領の出現よりも遥かに大きなインパクトを持つ、歴史的な事件になるだろう。

なぜならバラック・オバマはアメリカ一国の大統領に過ぎないが、ローマ教皇は、ほぼ2000年の長きに渡って存在の優越を謳歌してきた欧米の白人を含む、世界12億人のカトリック教徒の精神的支柱となる存在だから。

僕は非白人の教皇、できれば黒人教皇の誕生を熱く願っている。もしも実現するなら、彼は世界中の抑圧された民の救世主とも目される存在になり、同時に進歩発展から取り残されたローマ教会の改革も目指すだろう。

そうなれば理想的ではある。が、実は彼は何もしなくても良い。と言うのも、黒人の教皇の存在自体が既に、歴史上例のない宗教的かつ社会的な大改革になるからである。それはわれわれの住むこの世界が、差別や偏見の克服へ向けてまた一歩前進したことを意味する。

そこに至る道は平坦ではない。むしろ厳しいと見るべきである。コンクラーヴェが近づくにつれて、イタリア人を中心とするローマ在の枢機卿や聖職者のグループが暗躍して、ヨーロッパ系の特定の候補者への票の収斂を画策しているという情報もある。

またそれが叶わないなら、せめて、真摯な改革推進派であるボストンのショーン・オマリー枢機卿を排除して、保守穏健派の白人系候補者を推す動きがあるとも見られている。

ローマ・カトリック教会の地元であるイタリアの、同国人が率いるグループは、最も数が多くコンクラーヴェでは常に強い影響力を持つと言われる。彼らの中にはもちろん改革推進派も数多くいる。が、長い歴史に寄り掛かった守旧派もまた少なくない。

12日に開始されるコンクラーヴェでは、ここに紹介した候補者以外の人間が教皇に選出される可能性も高く、まったく予断を許さない。

ただ一つ確かなことは、もしも守旧派が主導権を握った場合、ローマ教会が改革路線を取ることは困難になり、特に2005年に亡くなった第264代教皇・ヨハネ・パウロ2世が目指した、世界宗教の融和への道も閉ざされて、バチカンは再び停滞するだろう。

それはカトリック教徒はもちろん、世界中のあらゆる宗派の人々にとっても、極めて遺憾な事態だと言わなければならない。

仲宗根雅則
テレビ屋
イタリア在住

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