モリタクと考えるアベノミクスの行く末 --- 城 繁幸

2013年03月12日 22:49

アベノミクスは正しい。
だから、その実現のため、政府は日銀人事をアベノミクスに理解のある人間で固め「大胆な金融緩和」を実施すべきだ。
そうすれば日本は2年以内にデフレ脱却でき、日本経済は再生できる。
なんなら私が日銀総裁をやってもいい。

「大胆な金融緩和」をやると国債の金利負担が急増し、国債価格の下落で銀行がバタバタ倒産する。
だから安倍政権は大した金融緩和なんてやる気がない。
そもそも無制限の金融緩和も現実には不可能だ。
アベノミクスは参院選までの政治的パフォーマンスにすぎない。

この2つの文章を同じ人物が書いたと聞けば、みんな驚くのではないか。
その男の名は森永卓郎センセイである。


ちなみにオリジナル文章はともに朝日新聞社のweb論座で、一か月スパンで寄稿されている。せめて媒体変えろよとか、もうちょっと間をおけよとか野暮なツッコミはやめよう。きっと、モリタクなりに方針変更せねばならない“大人の事情”があったのだろう。

というわけで、彼の“大人の事情”を推測してみよう。

まず、最初のオリジナル文。

「不況の原因はデフレであり、日銀はそれを正すパワーを秘めている」
という内容で、いわゆるリフレ派の典型的なスタンスだ。
ここではそれ自体をどうこう言うつもりはない。

ただ、以前も述べたように、著者はどうも腹の底からそれを信じているわけではないようで、最近はいろいろと軌道修正を図っている。
にも関わらず、なぜ今回は断言したのか。
たぶん、そんなもん絶対に実現するかよとふんでいたのだろう。

世の中には「自分は痛い思いはしたくないけど、誰かにもっと豊かにしてほしい」
と願う他力本願な人間がいっぱいいて、そういう人が喜ぶような処方箋を示して小銭を巻き上げることをビジネスモデルにする一群のセンセイがたがいる。

何を隠そう、モリタクはそのパイオニア的存在である。だから氏としては、どうせ実現しないだろうから、庶民の耳に響くような派手な処方箋をぶち上げたのだろう。
「自分が総裁になってもいい」と付けくわえて、他の候補者とさりげなく同格アピールするテクなどは、さすがとしか言いようがない。

だが、幸か不幸か、彼の書いた処方箋に近い方向で、日銀人事は実現してしまった。
普通に考えれば、100点満点ではないにせよ、それはそれで評価すればいいはず。
その上で(結果が不安なら)あいつは財務省上がりだから気合いが足りない、俺ならもっと上手くやれるはずとかなんとか、予防線を張っておけば済む話。

だが、彼は自らが書いた処方箋を破り捨ててみせた。
国債の金利負担が急増するとか銀行がバタバタ倒産するとか、そもそも無制限の金融緩和なんて実現不可能だとまで認めてしまう。

やっぱり、彼自身はそれをまったく信じちゃいないのだ。
予防線を張ったところで、もうこの方向で大衆を引っ張るのは限界だろうと踏んだのだろう。

普通の識者なら、自らが書いた処方箋に固執し、先鋭化することで社会との接点を失っていく。そういう“孤立した識者”はネットでいくらでも見ることが出来る。
でも、終わりが見えた以上、彼が自説にこだわることはない。
「リフレ政策の終わりの始まり」というサブタイトルは、きっとそういう深い意味なのだろう。

アベノミクスへの追い風に乗ろうという電波芸人が多い中、淡々と逆張りしてみせるモリタクに、筆者は電波芸人としての凄みを見たように思う。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年3月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。

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