幸せな老後のためには1億円の蓄えが必要だ--増やす投資の勧め

2013年03月14日 06:30

喜ばしい長生き、実はお金がリスク

フリー、お札

日本人は世界最高の長寿を謳歌している。およそ男性は80歳、女性は85歳の寿命だ。ところが、その幸せな長寿が大きなリスクになってしまう。


私はかつて金融雑誌の経営・編集にかかわっていた。読者アンケートで、希望支出を聞いたことがある。東京で40万円程度の世帯の月額支出がしたいという人が多かった。実際のところ総務省の家計調査では、月額支出は全国、全世帯の平均月28万円程度で、それよりもやや多い。現実的な夢であろう。

65歳で引退して、夫婦2人が20年間生きるとしよう。希望通り月40万円使うとすれば、インフレを考えずに単純にかけ算すれば9600万円の支出となる。仮に公的年金の月額最大値一人7万円を勘定に入れ(多分今後は減らされる)、40万円を夫婦二人分の年金で減額して26万円としても6240万円となる。

約1億円とは、めまいがするような巨額の数字だ。しかし、これは特別の人向けの問題ではなく、全国民にあてはまる問題だ。今の60歳前後の人で一部上場企業の会社勤めをした人なら、退職金制度もあり何とか数千万円の蓄えを持てたかもしれない。この世代の人は「勝ち逃げ」できる人もいるだろう。

しかし50歳代以下の世代は深刻だ。20歳代の非正規雇用の比率は3割強。しかも、正社員も賃金は日本で伸び悩んでいる。人生の「アガリ」で、1億円を用意できる人はどの程度いるだろうか。

前回のコラムで生活保護を受け取る人々を批判した。(「生活保護「減らす」という単純な解決策を」)その受給者の3割強が60歳以上の人で、無収入ゆえにその状況に陥ったという。老後の見通しが甘かったと批判をされるべきだが、誰でも陥りかねない問題でもあろう。今後はあらゆる世代で老いのリスクが拡大していく。

自分の代わりに世界でお金に働いてもらう

もちろん資産形成の中心は日常の仕事からの収入だ。仕事で自分の価値を上げ、そこから得られる収入こそ、得られる確実性が高い。投資だけで食べていけるのは、よほど幸運な人だろう。素人が株や為替のデイトレードで収益を上げ続けられるとは思えない。しかし、どうしても足りない場合は資産運用でそれを増やすのは合理的、かつ必要なことだ。

私もささやかながら投資をしている。少額の積み立てで、いくつかの投信を分散して買っている。ただし経済記者として、インサイダー事件に巻き込まれかねないため、個別株は買いたくても買わない。ただしリーマンショックで私も損を出し、精神的ショックを受けた。しかしアベノミクスで、少し損は持ち直した。

投資は儲かっている限りにおいては楽しい。そして経済を予想し、当たれば報酬が戻る知的ゲームとして面白い。そして私は、投資が自分の可能性を広がることに気づいた。私たちは、生きる場の影響から逃れられない。日本人なら日本という国に影響を受けてしまうし、社会の中で、家族の中で、また組織、顧客との関係の中で、人生の役割を持ち、その制約を受けてしまう。

ところが私のお金は違う。私の束縛から脱して自由に動ける。普通の日本人が就職できない国際優良企業の株にも、なかなか行けない外国の債券でも、また土地にも、貴金属にも投資で関わる事ができる。「自分の代わりにお金に海外で働いてもらう」と、最近は考えている。

長期投資はたいてい「勝つ」

そして私は大損をそれほど心配していない。ゆっくり、確実に、複利効果を使いながら、長期投資で、多少資産を増やせると信じている。簡単な経済学と、確率の知識があるからだ。

株式は1年から2年程度の保有期間では、大幅なプラスやマイナスなど収益率は大きく散らばっている。しかし30年を超えると、年間収益率10-15%のところに集中する。こういった現象のことを平均回帰という。

日本証券経済研究所のつくった有名な図がある。1953年から04年の東証一部の株価の収益率だ。40年以降は、年12%前後に年率の収益率が収斂する。

収益図

興味深い事に、世界のすべての株式市場で、収益率と保有期間の関係のグラフは日本と同じ形状を示している。インフレ率で割り引いても、どの国でも収益率はプラスになる。企業は利益を拡大する宿命を負い働き続けるという、資本主義の構造に埋め込まれた役割のためだろう。


この知識を知っているために、一時的な株価の変動に一喜一憂することなく、自分の良いと思った会社の株を買いそれを何十年と持ち続けることが、一番良い投資法と私は考えている。

不思議な事に、株式市場や投資を敵視する感情が、日本には残っている。投資の偏見がある人は、自分の老後を資金の面から、冷静に考えて見るとよい。投資を活用しない限り、その老後はお金の面から、大変なリスクを背負うはずだ。

私はアベノミクスには懸念と批判を持っている。インフレと財政破綻のリスクを高めるためだ。しかし株、為替、土地取引が活況になり、リーマンショックで痛んだ私のささやかな資産を回復した。安倍首相と自民党だけがこの活況をもたらしたとは思えないが、状況を変えたことには感謝している。

阿波踊りのお囃子に「踊るあほうに見るあほう。同じほうなら踊らにゃ損損」というものがある。この投資環境の好転は短いだろうが、来た好機を利用し、また投資を気合いを入れてやってみるつもりだ。自分の未来のため、また面白さのために。そして自己責任で、失敗しても、誰も恨むつもりはない。

(参考文献)『投資戦略の発想法』(木村剛、講談社)。図表はそこから。私は資産運用本を大量に読み、大量に記事を書いたが、その中でも優れた本の一つ。実は木村氏は私の雑誌時代の上司だった。著者は逮捕されたが、その好悪は置いておいて、一読を勧めたい。

石井孝明 経済ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com ツイッター:@ishiitakaaki

(追伸)4月のアゴラ連続金融セミナーで、司会を務めさせていただく事になった。私はたいした人間ではないが、為替で酒匂隆夫氏(元ディーラー、元USB銀行支店長)、資産運用・海外投資で内藤忍氏(元ファンドマネージャー)、保険で不動産で出口治明氏(ライフネット生命社長)、不動産で中嶋よしふみ氏(フィナンシャルプランナー)という、その道の一流の方に講師として出席いただく。資産運用にご関心あれば、ぜひご参加ください。

(追伸その2)経済社会で、余剰資金があれば利率を求めるのは当たり前。そしてリターンはリスクを内包する。現金で持ち続けるということさえ、投資の一種なのだ。資産を運用することは、例えるならば、「ごはんを食べる」ような経済活動の基本常識と私は思う。

そして、上に記述した長期投資は確率上有利という話は、まともな資産運用の本や分析なら、どれも言及されている話。資産運用の話を学校教育に例えて言うなら、小学校3年生レベルの話と思う。

ところが反響を見ると、株式投資はいけないとか、資本主義は崩壊するとか、長期投資はおかしいとか、上述の前提にかみあわない意見が多いことに驚いた。例えて言うならば、「ごはんを食べよう」という当たり前の話をしているのに、「生きる事は難しい」とか、「お前のごはんの食べ方はおかしい」とか、別の話を持ち出されたようなとまどいだ。私は原子力の話でリスクとリターンを認識できない人の多さに驚いたが、投資をめぐる議論でも同じ状況があるようだ。

2007年の村上ファンド事件で、「安く買って高く売る利益至上主義に慄然(注・おそれおののくこと)とする」と判決を出した東京地裁の裁判官がいて、世界中が驚いた。安く買って高く売ることは、経済社会で当たり前のことだからだ。裁判官でこの有様だから、日本の投資に関する知識の貧困さは、深刻なものなのかもしれない。だからこそ、学ばなければならないし、学べば他人を出し抜けるだろう。

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