何を考えているのか不気味な北朝鮮 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

金正恩総書記はいったい何を目指しているのか、このところの北朝鮮の動きを見ていると理解に苦しむところがあります。が、13日の朝鮮日報の記事が正しいとすればこれは案外別のところに帰着するかもしれません。

その記事とは

北朝鮮消息筋の話として、平壌で昨年、金正恩第1書記を排除しようとする動きがあったと報じた。このほか、北朝鮮内部の勢力争いから銃撃戦も発生。こういった混乱から体制固めの必要性が高まり、ここ数カ月の強硬姿勢につながっていると韓国の情報当局はみているという。

ということで、これは肥大化した軍部と金総書記との関係がうまく行っていないという見方が出来るかと思います。30歳の正恩総書記は着任前よりその若さ、経験不足を指摘され、その結果、国家運営、軍部の指導、ついては金家のカリスマ性を維持し、その実力を見せることが絶対必要条件となっていましたが、少なくとも昨年4月のロケット打ち上げ失敗を含め、あとがない状態になっていたとも言われています。一方で金正恩の父の金正日の妹、金歌姫は現在朝鮮人民軍大将のはずですが、彼女が正恩氏を後ろで支えているということも耳にしました。

つまり、朝鮮日報の情報をそのまま鵜呑みにすればこれは北朝鮮の内部問題が主であり、金家と軍部の確執のようにも思えます。そこで正恩氏は韓国国境近くの最前線まで行き直接指導し、国内で緊張感を煽っているともいえます。

しかし、不気味なのは1953年の韓国と北朝鮮の戦争の「休戦状態の一方的破棄」ではないかと思います。これは案外知られていないのですが、いわゆる1950年の朝鮮戦争の終結の際、終戦をしたのではなく、休戦状態のまま今日まで至っているのです。つまり、ビデオの一時停止ボタンを押しただけと同じでそのボタンをもう一度押せば「停戦」ほどではないにせよ戦争状態に戻りやすい状況になります。(ちなみに第一次世界大戦も休戦のままでした。)そのボタンを北朝鮮は押してしまいました。つまり、もはや休戦状態ではないわけでいつ何があってもおかしくないともいえるのです。

とすれば、金正恩氏の威信をかけたゲームとは銃の引き金をも引くという意味なのでしょうか?今週から始まったアメリカと韓国の合同演習がそのトリガーになっているとしても今の段階では交戦はないと思っています。それは3月はじめに訪朝した元アメリカプロバスケットのスター選手のデニスロッドマンと金正恩氏が会った際にオバマ大統領との直接交渉を望んでいると託したところに意味がありそうです。

金家の威信をかけるのならアメリカから何かを引き出すことで彼のカリスマ性がより高められると考えられます。そのためにはオバマ大統領との直接駆け引きがもっとも望ましいわけです。ただ、それが実現するかどうかはわかりませんし、それ以前に金家が軍部の圧力を抑えきれるかという問題もあります。つまり、クーデター的な動きがあってもおかしくないともいえるのです。

国民経済は疲弊しており、仮に指導者との温度差が生じ始めているとしたならば金正恩氏が外向きの力を見せ付ける行動に出るのか、内部の統制に動くのか、このあたりが最大の注目ポイントになりそうです。その際、中国と習近平国家主席が対北朝鮮外交をどう進めたいのかという意図も大きな影響力になると思います。ただ、習主席も14日の全国人民代表大会でようやく習体制として動き出すところで、問題山積のなか、北朝鮮外交がどの程度プライオリティが高いのか、という点でもやや、疑問符が残ります。また今のところ北朝鮮には厳しい態度を提示しそうな状況です。

いずれにせよ、韓国は厳戒態勢を敷いていますし、次は絶対に負けないという気持ちを持って望んでいるはずです。北朝鮮の自由度はさほど残っていないように思えるのは私だけでしょうか?今の状態がそう長く続くことはなさそうだと見るのがいずれにせよ正解のようです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月14日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。