イラク戦争から10年、エネルギー資源争奪戦の行方

2013年03月21日 02:09

イラク戦争が開始されて、今年で10年になる。 ここではイラク戦争を通して見えてくるエネルギー資源を巡る、正義より力の国際政治の現状、今後の展開について考えたい。 


イラク戦争は石油のための戦争だった

イラク戦争が何のための戦争だったかは、イラクの民主化といった表向きがどうであれ、戦争前にイラクに国有化されていた石油資源が、海外資本に開放された現在のイラクの状況を見れば、石油のための戦争だったことは明らかだ。 

しかし、Top REPUBLICAN Leaders Say Iraq War Was Really about Oilを見ると、共和党の指導者たちも、

「イラク戦争が何のための戦争かって?、決まってるじゃないですか、石油のためですよ」

と言わんばかりに、戦争の目的が石油であったことを、あっさりと認めているのには驚かされる。 

たとえば、国防長官を務め、 12年に渡り共和党議員を務めたChuck Hagelは2007年に:

People say we’re not fighting for oil. Of course we are. They talk about America’s national interest. What the hell do you think they’re talking about? We’re not there for figs.

と述べ(fig:つまらないこと)、イラク戦争に従事したJohn Abizaid将軍は

Of course it’s about oil, it’s very much about oil, and we can’t really deny that.

と述べている。前FRB総裁のAlan Greenspanは2007年に:

I am saddened that it is politically inconvenient to acknowledge what everyone knows: the Iraq war is largely about oil

と正直に述べている。 Sarah Palinは2008年:

Better to start that drilling [for oil within the U.S.] today than wait and continue relying on foreign sources of energy. We are a nation at war and in many [ways] the reasons for war are fights over energy sources, which is nonsensical when you consider that domestically we have the supplies ready to go.

と戦争の目的はエネルギー獲得だと正直に述べている。 こんなに明け透けに言われてしまうと笑うしかない。

要するに、アメリカは、エネルギーを安く、大量に使い続けたいという国民の欲求に応えるべく、エネルギー価格の高騰をずっと以前から(9.11テロより前から)憂慮し、そのために戦争を起こすことを想定して行動していたのである。 21世紀には、アメリカがエネルギー危機に見舞われることを想定して行動していたのだ。 

イラク戦争終結直後に、ブッシュ前大統領が、執務室の机の下を覗き込んで「WMD(大量破壊兵器)はあるかな」とおどけてみせていたが、アメリカにとっては、WMDといった戦争の口実など、どうでもよいことだったということだろう。 

こうしてみると、国際政治に正義など全くなく、国際法などあってなきが如しであることが痛感される。 予防的先制攻撃を正当化するブッシュドクトリンなど身勝手としか言いようがないのだが、そんなことはお構いなしなのだ。  

日本のエネルギー外交の弱さ

アメリカの、こういった強引さと比較して、日本の資源外交は、国際政治に翻弄されている。その象徴が、イランのアザデガン油田の権益喪失である。  

2004年に国際石油開発帝石(INPEX)が75%の権益を獲得したイランのアザデガン油田だが、イランの核開発疑惑に対する、制裁に協力する形で権益を放棄し完全に撤退してしまった(「日の丸油田の蹉跌」参照)。

これは、尖閣問題で日米同盟をアピールしてもらった代償にアザデガン油田からの撤退を余儀なくされたという事情もあるようだ。 

アザデガン油田の権益の70%は中国に渡っており、日本の資源外交の無力さを思い知らされた形だ。 

今のところは、尖閣問題ではアメリカは、日本を支持して動いているように見えるが、これとて、非常に危うい話だ。日中が尖閣で衝突した場合に、アメリカが派兵してくれるかというと、恐らく派兵しないだろうというのが、私の考えだ。 何故なら、アメリカの国益になるとは思えないからだ。 国際政治では、国益だけが判断基準と考えてよい。 

アメリカは中東に関心を示さなくなるのか?

中東依存度の高い、日本にとって、アメリカとイランの衝突は、死活問題だ。 シェール革命でアメリカのエネルギー自給率が上がり、アメリカは中東には関心を示さなくなるのでは、と言われていたが、本当だろうか?

実はアメリカの中東依存度は増加している。 つまり中東からの原油輸入は増加しており、イランとアメリカの衝突の危険性は減っていないのだ。 

日本では何故かシェール革命が楽観的に語られているが、シェールガス、シェールオイル、どちらにしても、世界の天然ガス市場、原油市場を変えるほどにはならない。シェールオイル生産が伸びたといっても、シェールオイル生産の中心地ノースダコタの原油生産量は、アメリカ1位の原油生産量のテキサス(これは従来型油田)の3分の1ほどだ。 The myth of Saudi America(サウジアメリカ(サウジアラビアを捩ったもの)という幻想)に:

At the high end of the estimates, predicted production from Bakken and Eagle Ford together amounts to perhaps a two-year oil supply for the United States at 2011 consumption rates. That’s significant but not a game-changer.

と書かれているようにシェールオイルは資源量が十分でなく、そもそも大したことにはならない。 またシェールガスについても、過剰生産のために、現在の価格が生産コストを大幅に下回っており、シェールガス井戸の数は減少している:

Figure_21

Update on Coalから転載) 

ノースダコダではシェールガスの40%がその場で燃やされている状況だという(日本が期待を寄せるアメリカからのシェールガス輸入だが、現在の価格は持続可能とは言えない上に、量的にも十分な量が供給されるとは思えない)。今後もシェールガス生産が増加し続けるかは極めて不透明だ。 シェールガスが安いのは、天然ガスが貯めて置けないローカリティに起因しているのだ。

アメリカが自国内でエネルギー自給を可能にしたとは到底言えない。 

エネルギー資源獲得競争激化の必然性

実は、世界的にみると、エネルギー資源の獲得が熾烈になるのには、明確な理由がある。 下のグラフは、一人当たりのエネルギー使用量(赤線)と一人当たりの化石燃料エネルギー供給量(青線)を示している。

Figure_24

Update on Coalから転載) 

このグラフを見ても化石燃料エネルギーの不足は今後、益々深刻になることは確実だ。 その中で、大国がエネルギー資源を独占したいという誘惑に駆られることは確実だろう。 事実、中国は世界中のエネルギー資源に手を出しており、日中の尖閣諸島を巡る争いも、同じ文脈の出来事だ。 

しかし、資源を分捕ったからといって、問題が解決するのか、というと、実はそうでもない。 現在、原油価格が高騰しているが、石油メジャーや生産国がそれほど潤っているわけではない。 現実に北海油田を持つイギリスは深刻な景気停滞に陥っている。 生産コストが上昇しているのだ。 OECDが最近、2020年の原油価格が現在価値で1バレル200ドルになるという予測値(最高270ドル、最低150ドル)を発表したが、今後もエネルギー生産コストの上昇が見込まれるため、じりじりと価格は上がることになるだろう。  

エネルギー資源を分捕っても、安い資源が手に入るわけではない上に、高くつくので、今は、仕方なく、シェール資源を掘削して、資源国に揺さぶりを掛けているのが、現在のアメリカの姿なのだろう。 

外交カードの少ない、日本にとって、これから辛い時期が続きそうだ。 

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑