消費者の利益か?日本版集団訴訟制度への懸念

2013年03月21日 12:11

classaction-s米国で集団訴訟(クラスアクション)という制度がある。同一案件で企業から被害を受けた場合に、少数の人が代表して企業を訴えて、被害者の回復を可能にしようというもの。日本でそれを消費者庁が導入しようとしている。これは企業活動を妨げかねない。慎重な導入のための、考える材料を以下に提供したい。
(写真は米映画「クラスアクション」(邦題:訴訟)映画は巨大自動車メーカーを相手に被害者と弁護士が制度を使い戦う。しかし実情は諸刃の剣だ。)


制度のまとめ–目的は消費者保護だが…

以前から政府・消費者庁は、日本版クラスアクション(集団的消費者被害回復に係る訴訟制度案の概要)を検討してきた。

記事を書いた3月21日時点では不明確な点があるものの、次の2点の特徴を持つ。

1・共通義務確認訴訟
(国から認定された)消費者団体が、企業が多数の消費者に及ぼした被害を回復させる(金銭を支払う)義務を負うことを確認する。

2・個別の消費者の債権確定手続き
企業が被害回復の義務を負うことが確認されたら、その旨を消費者に広く通知・公告し、それに応じて申し出た被害者の授権に基づいて消費者団体が裁判所で債権(企業の金銭支払い義務)を確定させる。

この制度は米国の制度よりも緩やかになっている。米国では少数者が、共通の被害を受けた一定範囲の人たち(クラス)を代表してその全員のために原告として訴訟を起こせる仕組みとなっているが、そこまで緩やかなものではない。

この法律の目的は、個々の消費者が訴訟で被害回復を図るのは困難な場合に、訴訟による救済を図るというものだ。この目的については、当然私は肯定する。

利益になるのは弁護士、消費者団体だけ

しかし、問題だらけだ。日本版で訴訟の中心になる「消費者団体」とは、原稿を書いている時点で明確になっていない。仮に、政治的な偏向性を持つ一部消費者団体が認定されたら、大混乱が起こるに違いない。問題を引き起こしそうな団体は、事情通ならいくらでも挙げられるだろう。

さらに経済のコストの点で懸念がある。米国では集団訴訟が濫発された。そして不当な和解を狙った濫訴や過大な損害賠償のリスクが生じる。企業にとっては訴訟準備の情報収集、訴訟への対応、保険の増加などコストアップの要因になる。

例えば、米国でレンタルDVDショップのブロックバスターがレンタルの延滞金を巡る集団訴訟を起こされた。訴訟コストが900万ドルかかったのに対して、集団訴訟に加わった消費者が得たものはDVD1本のフリーレンタルだけだったという。手数料の多くは、当事者双方の弁護士が得た。争い事では、当事者ではなくその周辺部の人が利益を得るのは、人間社会で普遍的に起こる現象であろう。

安倍政権の「アベノミクス」では、「3本の矢」として、「機動的財政出動」「積極的金融緩和」に加え「イノベーション促進のための規制改革」を行う。この制度の安易な導入は、3本目の矢と逆行し、企業に負担を与えかねない。

もちろん消費者保護は必要であり、弁護士がそれによって社会的に問題のない「正当な」報酬を得ることは当然であると私は考えている。ところが、ここ数年、弁護士業界の一部には、社会問題の解決を語りながら、自業種への利益誘導を行うという、社会的に批判を受けかねない動きがあった。

参考:「選挙前に『正義のみかた』を考える=宇都宮健児氏と視野の狭い政策論–消費者金融業界の壊滅から

おそらくこの記事で取り上げたように、この制度は今、弁護士業界が利益を得ている「福島原発事故の被害」「貸金業界への訴訟」で濫用されるだろう。

企業による損害はADR(裁判外紛争解決手続き)の改善などによる救済の方法はある。さらにクラスアクションを導入するにしても、民主党政権時代から検討されたとはいえ、いきなり法案提出とは拙速だ。

人の問題、森雅子消費者問題担当大臣とは

そして全く別の論点からの懸念がある。簡単な取材をすると、民主党政権で「お蔵入り」になった今回の法案提出は、森雅子消費者問題担当大臣・参議院議員(福島県選出)の主導で行われているらしい。

少し彼女のことを調べたら皆、評価がほぼ一致するだろう。「独善的で、自分の信じる正義に向かって走り、それが自分の野心に結びついている」という評価が多い。彼女は野心家の弁護士で、自民党の経済通の議員、そして彼女が弁護士のまま在職した金融庁での評判はよくない。国会でも激しいヤジで有名だ。

彼女は、金融庁職員、また議員就任後に、改正貸金業法の改正で弁護士業界に有利になる法改正である程度の役割を果たしたとされる。職員時代に上述の宇都宮健児弁護士を、問題を審議する政府委員に押し込んだらしい。これは自民党内部で「なんで政権内部に共産党シンパを入れるのか」と騒ぎになった。森氏は、宇都宮氏と近しい立場なのに、自民党から出馬しているのは不思議だ。

森氏は震災直後、福島で餓死者がいるとデマ流し、騒ぎを引き起こした。(ツイッターのまとめ)。「彼女の性格なら、デマと分かっても、目立つためにやるだろう」と、知る人は揃って感想を述べた。

政治家で過激なトンデモ発言をする人は、2通りある。鳩山兄弟のように「本当におかしい」人。そして自分の発言がメディアに取り上げられ、政治的な波紋を引き起こそうと計算して行う人。森議員は後者のように見える。もちろん、それが彼女の社会的な地位の向上につながっているとは言い難いけれども。ただし、これ以上は個人攻撃になるので控えよう。

おそらくこの法案が実現すれば、彼女がこれまで追求してきた「福島事故の賠償拡大」と「貸金業者への懲罰」という政治的な目的も、一段と実現しやすくなる。詳細は省略するが、彼女が改正貸金業法で動いたとき、拙速に事を進め、他者のチェックの機会を減らそうとした。今の行動とそっくりだ。成功に味をしめたのだろう。

彼女はもちろん、自分なりの正義感に基づいて行動しているのだろう。しかし自分の利益を得ることも計算に入れているであろうことは、否定できないはずだ。

野心的な頭の回る人が仕掛けを作れば、頑迷な日本の行政組織も動いてしまう場合がある。こうした興味深い事例でもある。私はその事実に警鐘を鳴らしたい。

「失われた20年」の経済失政の共通点

「日本経済の失われた20年」のさなかに記者となった私は、多くの経済問題を見てきた。特にエネルギー・原発問題、温暖化、金融・マーケット制度を担当した。いつも日本の失敗する政策は同じパターンを繰り返す。

1・「問題があった場合に」
2・「問題の一部のみ、特にメディアが騒いだ部分に、世論と政治家が過度に注目」
3・「そこで『私は正しい、こいつらは悪だ。改革だ』という、経済合理性とはまったく違う観点から世論・政治が干渉」
4・「衆議を集めず、専門家が排除され、政策が再検討」
5・「単一論点の解決のみを重視する新政策が発動」
6・「局所最適になっても、経済全体に悪影響が及び新しい問題が浮上して次の混乱が始まる」

合理性ではなく、「動機の善」などの心情が重視されがちな、日本の民主主義での意思決定の欠陥かもしれない。同じパターンが日本版クラスアクション制度でも、繰り返されそうな懸念がある。「正義」とか、「弱者保護」とか、メディアが飛びつきそうなキーワードが散りばめられているからだ。

一見すると消費者問題であるこの制度は、金融やエネルギー問題にも結びつき、波紋が広がっていく。このままでは、この問題がアベノミクスを失速させる材料にもなってしまう。拙速な導入ではなく、詳細な検討が必要だ。

(この問題は、私は企業活動重視という立場に立って書いている。また私がこの問題を調査したのは4年ほど前だ。別の視点、また新しい情報は歓迎したい。)

石井孝明 経済ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com

参考
得をするのは弁護士と消費者団体だけ?
日本版集団訴訟制度の法制化への懸念
岸博幸 慶応大学教授
ダイヤモンドオンライン

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