「信長のバリスタ」!? 新たな町興しの妙味

2013年03月23日 07:00

早いもので最終回からもう1週間が経ってしまった。
1~3月期のテレビドラマで面白かったのが「信長のシェフ」(テレビ朝日系)。現代のフレンチシェフが何故か戦国時代にタイムスリップし、偶然出会った織田信長に料理人として仕えるという珍妙なストーリー。金曜の深夜枠ながら全9話の平均視聴率が2ケタに達したそうで、健闘を見せたといえる。


コミカルな演出を絡めた“B級”路線で楽しめたが、ヒットの要因の一つに「信長」のネームバリューがあるのは間違いない。2007年にNHK放送文化研究所が行った「好きな歴史上の人物」の調査で1位。アサヒビールが2010年に発表した「お酒を一緒に飲みたい歴史上の人物」でも坂本龍馬に次ぐ2位だった。この手のアンケートでの信長は常に人気者だ。型破りなイメージが、ムラ社会的な日本人気質に訴えかけるものがあるのだろう。歴史小説の編集者、時代劇のプロデューサーなら「鉄板」のヒットコンテンツとして計算できる。

●「信長」で町興し
さて「信長のシェフ」は終わってしまったが、「信長」を町興しの切り札に4月7日、岐阜でユニークなイベントが行われる。その名も「『信長のバリスタ!?』信長100人集まれ!」=写真はイベントのロゴ=。
130322信長バリスタロゴ
地元のカフェ業者などが結成した「岐阜県珈琲文化研究会」がコーヒーを地域文化として盛り上げようと初めて開催する。岐阜城のふもとにある信長居館跡地を会場に、地域の“バリスタ”たちが腕を振るって「信長に飲ませたいコーヒー」をつくるという設定で来場者に振舞う。鎧兜や着物など信長のコスプレで参加したお客には無料で提供するというから面白い。

同研究会の廣瀬祥一事務局長が「岐阜をコーヒーで盛り上げたい」と意気込むのには、列記とした地域事情がある。今年1月、岐阜の地場産業の方々に広報をテーマに講演させていただいたのを機に知ったのだが、岐阜県は総務省の家計調査で世帯当たりの喫茶代支出が全国で最も多い「日本一の喫茶文化」地域だそうだ。ただ、近隣に名古屋という一大都市がある影響かそうしたことが全国的に知られていない。2007年に県が策定したブランド戦略でも「情報発信力が弱い」と指摘されたように、そうした地域の魅力や個性をどう伝えるかが課題になっている。珈琲文化研究会も同じように悩んでいたところ、目を付けたのが「信長」だった。

●史実ゼロから「逆転の発想」
信長は尾張が生んだ英雄だが、かの地では一大名に過ぎなかった。足掛け7年をかけて美濃を制圧し、岐阜城がその後の覇業の足掛かりになったのは周知の通り=写真は岐阜城、Wikipediaより=。
130322岐阜ウィキ
岐阜の「地域コンテンツ」としてゆかりの人気武将を生かさない手はない。しかし史実の壁が立ちはだかる。金平糖や地球儀など南蛮渡来の文物を好み、配下にはアフリカ出身の黒人もいたと伝わる信長であっても、さすがにコーヒーを飲んだ記録は無い(日本にコーヒーが伝わったのは江戸の天明期とされる)。そもそも16世紀後半、コーヒー自体が南蛮(欧州)に普及していなかった。史実を前に一度は断念したという廣瀬氏だが、講演時に私や当時のビジネスパートナーの勧めもあって再考。苦渋した末にひらめいたのが、歴史に「IF」を持ち込む“逆転の発想”だった。「もし信長の時代に珈琲がヨーロッパに伝わっていたら、ルイス=フロイスは金平糖と一緒に、珈琲を献上したに違いない」――。史実の有無にとらわれない柔軟な考え方でアイデアをひねり出した。

今回のイベントが企画される過程をみて私が思い浮かんだのが、栃木県宇都宮市の「宇都宮ギョーザ」の事例だった。今でこそ、宇都宮はギョーザの街として全国的に有名になったが、この20年ほどに過ぎない。そもそもギョーザ自体が日本発祥の食ではない。戦時中、地元出身の将兵が遠征先の満州から製法を持ち帰ったと伝わっているものの、地元を代表する名物として長く喧伝されることはなかった。転機は90年代。宇都宮も現在の岐阜と同様に観光PRに課題を抱えていた中で、市の職員が総務省の家計調査で宇都宮の餃子の消費量が全国屈指だったことに着目し、地元の餃子店主らを巻き込んで一大ブランドに育て上げた。地元の人たちがその飲食物を全国でも際立って好きというファクトが地域ブランディングの起点になった先例だ。

●コーヒーで“天下布武”なるか?
岐阜のコーヒーは、消費地としての実績に加え、「信長」という地域の歴史コンテンツを掛け合わせた妙味がある(ちょっと強引な掛け合わせ方だが・・・苦笑)。さらにコスプレという「娯楽性」も魅力になりそうだ。及川ミッチー張りにマントを翻す信長ファンが集結すれば“壮観”だ。わはは。岐阜と喫茶の関連性は、先日NHKのBIZプラスでも取り上げられるなどメディアの関心を集めつつあり、「岐阜を珈琲で全国に知らしめたい」と廣瀬氏。食文化による町興しの新たな成功例として、信長が天下布武を唱えた地から全国にその名を轟かせるか注目したい。

新田 哲史
Q branch
メディアストラテジスト/コラムニスト
個人ブログ

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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