マイナンバー法の誤解(第9回)~いよいよ国会審議入り~

八木 晃二

3月22日通称:番号法案(民主党時代の通称はマイナンバー法案)がいよいよ国会審議入りした。私自身は、2005年米国赴任の帰国直後から、「これからのインターネット社会では、ID(=識別子)に紐づいた属性情報(名前、住所、クレジットカード番号、ポイント情報等々)がネット上で連携することにより、多くの新しいビジネスが続々生まれることになるであろう。(=ID社会)そして、そのID社会を実現する為には、個人にとって安心で安全なID連携システムを構築する必要がある。」という問題意識の下に、ID連携システムの標準化・啓蒙活動を積極的に実施してきた。民間企業間でのID連携システムの国際標準化の推進である。

そんな中、国が発行する「社会保障・税番号(通称:個人番号(自民党)、マイナンバー(民主党)」の制度設計が、約3年前の菅政権時代から急ピッチで進められ、その内容は基本的に自民党に引き継がれ、いよいよ国会審議入りとなった。民主党時代の検討過程を見るにつれ、「国が発行する個人番号を軸として、その番号を多くの分野と共通化し情報連携する仕組みを、国が国民の税金を使用して開発すること」に対して、非常に多くの問題点があることを意識するようになった。その内容は、アゴラサイトに投稿したマイナンバー法の真実(第2回)でまとめた通りであり、それは自民党政権となった今も、若干の改善はされたものの、その懸念は完全には解消されていない。

番号法案の最大の問題点は、目的がてんこ盛になりすぎていて、制度目的が不明確であることである。この点に関して自民党政権では問題意識を持ち、自民党議員の方々からも「当初は、社会保障・税の公平化・効率化に絞って、番号制度を導入する。その後の利用範囲の拡大は、国民のコンセンサスを得ながら進めて行く。」という発言を多く聞くようになった。これは民主党時代からすると一歩前進したと捉えて良いであろう。しかしながら、過去のダム建設や道路建設の歴史を振り返ると、一度開発が始まるとズルズルと継続され、気がつけば当初の開発予算の何倍・何十倍もの血税が投入されたいた、利用範囲も拡大していたということになりかねない。無駄なダム建設や道路建設と同じ道をたどらないようにしなければならない。税金の無駄遣いだけでなく、プライバシー保護の懸念という国民生活にとって非常に影響の大きいリスクに直結する法案であるからだ。

番号法案は、そもそも民主党が原案を作成したという経緯もあり、国会では賛成多数で成立してしまうことになるのだろう。法案成立後の経過を継続的に注意深く見守る必要があるが、まずは国会での審議をつぶさにチェックすることが重要だ。
「番号利用の将来の夢(いつかできたら便利になる)の議論は一旦止めて、今回の番号法案の目的を明確にし、番号の使い方を具体的に議論し、その使い方に番号法案適用を限定することを国会の中で決めていって欲しい。番号法案は社会保障・税の公平化・効率化に目的を限定すべきだ。」この視点でいうと、今日の国会演説の中で「みんなの党」が主張していた「歳入庁構想と、その中で番号をどう具体的に使うのかを検証してみること」は興味深いテーマである。今マスコミで報道されている番号の使い方は、私からみると「絵に描いた餅」もしくは「番号がなくても実現できるもの」が殆どであるからだ。

私なりの番号制度のあるべき姿は、アゴラの投稿や拙著の中で述べてきたつもりである。一人の国民として、番号法案を真に国民の役に立つ制度にして欲しいという思いが募り、投稿や書籍発刊ということにまでつながり、今週3月19日にはTV出演の機会までいただいた。19日のTV出演では、番号制度の課題、解決策までお伝えしようと意気込んでいったものの、事前に用意した内容の20%程度しか話すことができず、自分の未熟さを痛感するとともに、公共電波を使わせていただいた身として申し訳ない気持ちでいっぱである。ただ、今後もその思いと活動に変わることはなく、国会の審議内容についてしっかりチェックしていきたい。