世界を旅する「ノマドワーカー」が作った生命のゲーム

2013年03月26日 15:46

ノマドって、結局なんなのだろう? よくわからないで議論が進んだ気がするが、これは「ノマド」開発って、言えるんじゃないかという、ゲーム開発者を紹介する。Colin Northway氏は奥さんと、ゲームを作りながら、世界中の旅を続けていた。数年間の旅の末、自分の納得するゲームシステムができあがってからアメリカに戻ってきた。ノートパソコンを持ち歩いていたが、インターネット回線さえつながれば、ゲームは世界中のどこにいても開発することができる。

■最後には「儲けなくてもいいんだ!」とか言い出す……開発者たち


世界最大のゲーム開発者向けのカンファレンス Game Developers Conference (GDC、ゲーム開発者会議)が、25~29日まで、サンフランシスコで開催中だ。現在は1日目が終了したところだ。

いくつもの講演が行われるのだが、一つの目玉が、インディペンデントゲーム開発者(独立系開発者)が集まる、Independent Game Summitだ。「ゲームの表現の可能性を追い求めるムーブメント」と言えば、かっこいいが、ある意味では正しく、ある意味ではネジが飛んでる。他の会場が、ビジネスライクな講演だったり、がっちりとした技術系の講演と大きく違うのは、何とも言えない参加者から発せられる異様な熱気だ。終日、オリジナリティのあふれるゲームを開発している人たちのプレゼンテーションが続く。

最後の講演では、「儲けなくてもいいんだ!」みたいな話まで飛び出し、スタンディングオベーションが起きるというのだから、ほとんど、収益を度外視したアーティストの領域にまで踏み込んでいる。

■インディゲームで儲かる場合は……開発スタッフの人数が極端に少ないとき

もちろん、ちゃんと収益を上げていると講演で述べる人もいる。現在のゲームで主流になりつつある、最初は、無料、もしくは低価格で遊べるが、途中からは、特定の価格がるアイテムを購入してゲームを進める「アイテム課金方式」のものだ。そうしたゲームでは、十分に収益を上げることができると、述べている開発者も少なくない。

ただし、儲かる理由は単純である。作っている開発チームの人数が極端に少ないのだ。「Shellarzer」という亀の上に要塞を作って、敵を倒していくというスマートフォン向けゲームを開発したShane Neville氏は、ヒットしていると述べていた。大手ゲーム会社に15年あまり勤めた後に独立しようと決心し、インディ開発者を3年やっている。開発チームは2名。自宅で開発しているので、オフィスコストもかからない。実力を持ったスタッフが、独立してチャンスを探っている。実際、ゲーム画面を見ているだけでおもしろそうだ(ちなみにGDC期間中はiOS版もアンドロイド版も無料で提供するとのこと)。こうしたゲームに、数十人から100人という体制で、ゲームを開発する家庭用ゲームの大規模スタジオが挑まれている。

■フルタイムの旅行者として旅をしながら作ったゲーム

さて、ノマドのゲーム開発者の話だ。Colin Northway氏は、数年前から「フルタイムの旅行者」として旅しながら、ゲーム開発をする夢のような暮らしを奥さんとしたいと考えるようになった。そのため、仕事も放りだし、手持ちの財産をすべて売り切ってしまって、実際に行動に出た。ギリシャ、トルコ、メキシコなど世界の10カ国を様々な人に会いながら、旅行を続けた。その間に様々なプロトタイプのゲームを開発して、実験を続けてきていた。ただ、ノマドとして世界を旅している間には、本当にヒットするゲームは作れなかった。

しかし、大きな転機が来た。「ホンジュラス島で生命そのものに出会った。水上生活をすると、すべてに生命があふれていることに、どの細かいところにいっても、生命がいる。そのすべての生命からインスピレーションを受けている」と、Northway氏が述べたのは、2011年9月の東京ゲームショウの場だ。私自身も運営に関係している「センス・オブ・ワンダーナイト」イベントでのプレゼンテーションだ。このイベントは、「すごい」と感じさせるゲームを作った人が、約10組が選考され、ゲームの内容を自由にプレゼンテーションすることができる。

そのときに、Northway氏が発表したプロトタイプのゲームは、これまで見たことのない奇妙なゲームだった。眼と棒があるだけのものに、適当に手足をくっつけると、それが生命として歩き出すというものだ。自由に手足を設計でき、筋肉を設定してやると、気持ち悪かろうがなんであろうが、生物のような動きを始める。このゲームは、会場の聴衆に与えた衝撃は大きく、「オーディエンスアワード」を取っている。

■プロトタイプから洗練化され商品化

Northway氏は、この後に本格的に、このプロトタイプの商品化の可能性を探り始める。彼は優秀なプログラマーであってもアーティストではない。そのため、アーティストのThomas Shahan氏に協力を仰ぎ、今までに見たことのない映像表現を求め始めた。生命体と一致するような新しいデザインはどのようなものなのかを考える中で、Shahan氏と、クモのような多関節動物からアイデアを広げていった(ゲームのサイトにはクモや多関節の生物の写真を集めたページまである)。そして、中世の気味の悪い生物が、普通に描かれていた銅版画のデザインを持ってくることで、不気味な生物との世界のイメージを一致させた。そして、グラフィックスとプログラムのイメージを統合しながらゲームを作り上げていった。

「洗練されたでしょう」と、講演の後に、彼は誇らしげに私に語った。プロトタイプから2年、「INCREDIPEDE」は完成。驚くほど、ゲームはプロトタイプを生かしながら、似たようなゲームを思いつけないすばらしさを維持している。映像的な美しさも魅力的だ。昨年末にゲームをリリースした。現在は9.99ドルで販売されている(無料のデモ版あり)目と体と足と筋肉しかない、奇妙な生き物を操って、パズルを解いていく。有料版では、キャラクターの形を変えて、挙動をいろいろ試すことができる。今後は、スマートフォンへの移植なども検討しているようだ。

それなりに儲かったら、彼はまた旅に出るのだろうか? それを聞き忘れた。明日、もし会場で姿を見かけることができたら聞いてみようと思う。

※3月26日注記
翌日に会えました。ライトニングトークセッション(10分ぐらいの講演が次々と続く)のなかで、彼のこの旅の話をしていました。今は自宅のあるカナダのモントリオール戻り、開発を続けているそうです。ただ、Webで販売したバージョンでは、なんと1ヶ月半しか暮らせるほどの利益しか出なかったそうです。今は、ネット流通のプラットフォームのSteamで販売を始めており、そちらは好調とのこと。また、モバイル版の移植も進んでいるそうで、まだまだ、これからということのようです。

新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT)、作家 @kiyoshi_shin
メルマガ週刊アゴラにて「ゲーム産業の興亡」を連載中

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