世界経済の資源利用制約とデカップリング

2013年03月31日 10:26

エジプトが原油・小麦などの支払いでクレジットクランチに陥っている。 シリアの内戦の深刻化が報じられているが、アラブの春と呼ばれる中東・北アフリカの民主化運動も、食糧価格の高騰を契機に起こっている。このように、コモディティの価格上昇が、新興国の生活を圧迫している。 


一方、EUに目を転じると、南欧諸国が経済危機に陥っており、その解決の行方は見えないが、これにも、原油価格の上昇が関係している。 実際、Oil’s tipping point has passedでは、イタリアの貿易収支の悪化は、原油価格の値上がりで説明される、としている。 

このように、世界経済を、エネルギー・食糧といったコモディティの価格上昇が、不安定にしている。 

経済成長と資源利用制約

経済成長の本質は生産の拡大であり、生産の拡大により、貧しい者にも恩恵が行き渡るシステムであり、現在、世界的に問題になっている貧困や失業を解決するのに、経済成長は重要である。

しかし、人類が利用できる天然資源の量に物理的限界があり、経済活動の環境負荷にも限度がある。 実際、資源利用の物理的限界の影響は、資源価格、食糧価格の上昇として、既に顕在化しており、今後、経済成長を続けるためには、経済成長と資源利用のデカップリングを行わなければならない。

さもなければ、有限の資源を巡って、奪い合いが起き、非人道的な状況が、地球上に蔓延することになるからである。これを放置すれば、テロリズムや国家間の対立を生むことになる。  

国連環境プログラムのレポート

こういった経済成長と資源利用の物理的限界のデカップリングの問題意識は、既に多くの科学者の共通認識になっており、国連環境プログラム(UNEP)のIRP(International Resource Panel)のレポート:Decoupling(2011)日本語要約はここ)では、この問題を分析している。

経済成長には、エネルギー資源、鉱物資源やバイオマス(木材など)など天然資源の採取が必要であるが、現在のペースで採取してゆくことは、持続可能ではなく、破滅的な結果を招く。そこで、IRPの報告書では次の3つのシナリオについて検討を加えている。

シナリオ1.現状維持:先進国は、2000年のレベルで物質代謝をフリーズ、新興国は、先進国にキャッチアップしてゆく:この場合、2050年には物質代謝は3倍以上になる。 

シナリオ2. 適度な収縮と収束: 先進国は2000年のレベルから物質代謝を半減、新興国はキャッチアップしてゆく: 2050年には物質代謝は40%増となる。

シナリオ3. 大規模な収束 2000年のレベルで物質代謝を固定する。 この場合、先進国の物質代謝は3分の1から5分の1に縮小する必要がある。 

しかし、いずれのシナリオの実現にも、資源生産性、エネルギー生産性の著しい改善が必要であると結論している。 実際、報告書にある、EUの例を見ても、資源生産性、エネルギー生産性の伸びは、労働生産性の伸びの、それぞれ1/2,1/3といったレベルに留まっている。 

具体的には、物質代謝が都市部では他の地域と比較して1/2に留まっていることに注目し、都市部への人口の集中を提言している。 

しかしながら、実は、上記の3つのシナリオの中、実現可能性があるのはシナリオ3のみであり、それすら、極めて難しい。 実際、エネルギー資源のみ考えても、エネルギー供給予測を見る限り、2050年には、エネルギーの供給量そのものが、低下すると考えられるからである。

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(World Energy to 2050から転載)

少なくとも現在のところ、2050年に現在の40%増のエネルギー供給が実現するという予測は見当たらない。 また、原油価格の見通しについては、IMFの論文:Oil and the World Economy:Some Possible Futures: Michael Kumhof and Dirk Muirでは、今後10年で、2倍程度になると予想しており、原油価格が今後下がるという見通しはない(IEAの2012年のアウトルックの基本シナリオでは2020年に120ドル前後と予測している)。

また資源利用大国である中国の動向も、今後の懸念材料である。 現在、中国のGDPは世界経済の11.7%ほどだが、これが今後、年率7%で伸びるとすると、10年で約2.1倍になる。 これには、10年後のエネルギー供給を中国は現在の2倍弱に増加させる必要がある。 このため、中国は、現在、世界最大の石炭産出国にも関わらず、世界最大の石炭輸入国になっており、現在、世界の石炭産出の約50%を使用している。 これが深刻な大気汚染を引き起こしている訳だ。 中国が南米やアフリカ、イラク、イランの石油資源の獲得に必死になっているのも同じ文脈であるし、ロシアとの緊密な関係には、ロシアからのエネルギー輸入も一つの要因だ。

こう書くと、中国が世界の資源を買い漁っていて、怪しからん、と思う人もいるだろうが、果たしてそうなのだろうか。私は、そうは思わない。 なぜなら、中国の経済発展を支えてきたのは、先進国のアウトソーシングであり、グローバル化の恩恵を先進国も新興国も受けてきたからである。 そのことを忘れて、中国を非難するのは、筋違いというものだ。

今後、BRICSの経済発展と共に、資源制約は益々深刻な問題になるだろう。 

資源利用に国際的規制が必要

以上のように、有限の資源を何の制約も付けずに、利用し続けることには、既に限界が生じていると思われるし、データを見る限り、我々の天然資源の利用状況は持続可能なものとは到底言えない。現在、我々のやっていることは、正に将来を現在のために食い潰すことに他ならないのである。 

経済学的には、価格上昇による需要の抑制により問題が自然に解決するように思われるかも知れないが、エジプトのクレジットクランチを見ても分かるように、エネルギー・食糧といった基礎的物資が手に入らなくなることは、生存権に関わる問題であり、先進国から新興国への援助が必要だろう。  

我々の直面している問題は、物理的なものであり、資源利用に何等かの国際的な規制を設けないと、紛争や政治的対立から、世界経済が破壊される可能性が高いように思われる。

将来に向けて、資源の公正な分配のルールを今の中から作っておく必要があるのではないか。 

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