中国への隠された300億円援助 ODA白書の謎を解く

本山 勝寛

先日、2012年度版ODA白書が発表された。あわせて、産経新聞などでも簡単な報道があったが、その報道のされ方に違和感があったので、改めて白書の中身をウェブ上で読んでみた。その報道とは以下の通りだ。


MSN産経ニュース
中国にらみ戦略配分 平成24年版ODA白書
2013.3.26 16:41
岸田文雄外相は26日の閣議で、平成24年版「政府開発援助(ODA)白書」を報告した。国際社会で影響力を強める中国をにらみ、ODAの戦略的な配分により「自由や民主主義といった普遍的価値や戦略的利益を共有する国」に支援を拡充する方針を打ち出した。
(中略)23年実績では、ベトナムが最大の援助対象国となっており、約10億1300万ドル(約956億円)が供与された。インドの約7億9600万ドル、アフガニスタンの約7億5千万ドルが続いた。援助実績は計約108億3100万ドルで米国、ドイツ、英国、フランスに次ぐ5位だった。

問題は、「中国をにらんだ戦略的な配分」という位置づけと、国別援助額の順位。1位がベトナムで約10億ドル(1000億円)、2位がインドで約8億ドル、続いてアフガニスタンの約7億5千万ドルということだが、どうも違和感がある。実は、このブログ原稿は、ここ2年で7回目になるインド出張の移動機内で書いているのだが、インドにそれほどの援助が届いているという実感がない。大使館が行う草の根援助も細々としたものだし、青年海外協力隊や日本のNGOも他の国に比べて多いわけではない。日本の政治家の訪問も少ない。政治、経済、NGOなどあらゆる分野において日印の交流はまだまだ少ないという実感だ。

そこで、ODA白書のインドの実績額を見てみると、8億ドルのうち95%の7.6億ドルは政府貸付、すなわち、いずれお金を返してもらう融資だ(貸付実行額15.8億ドル、回収額8.2億ドル)。一般的に「援助」といわれてイメージする無償資金協力および技術協力の合計贈与額は3400万ドル、約34億円とかなり少ない。この額であれば、実感と一致する。

ベトナムをみると、貸付額が8.6億ドル(貸付実行額12億ドル、回収額3.4億ドル)、無償資金協力が2600万ドル、技術協力が1.2億ドルと無償の贈与は15%ほど。アフガニスタンは無償資金協力と技術協力が全てであり、事実上最大の被援助国と言える。これは、いわば対テロ戦争を展開してきた「アメリカのための援助」であり、軍事協力ができない以上、外交戦略上は「しかたのない援助」かもしれない。(それとてもっと良いやり方はあるだろうが、ここでは省略したい。)

では、「中国をにらんだ戦略配分」というところの中国はどうだろう。日本を抜いて世界第2位の経済大国になり、日本への挑発的、報復的行為がしばしば行われる大国に、もはや援助の必要などないという考えが、日本の一般的な世論だろう。これまで有償で約3兆3千億円、無償及び技術協力で約3300億円の支援をしてきたわけだが、既にストップされているか、もしくは少額であると考えている人が大半ではないだろうか。ODA白書の東アジア内の「順位」を見てみると第9位、「-4.8億ドル」となっている。このマイナスとは、無償、有償で提供した総額から貸付の回収額を引いたものだ。つまり、過去の融資から7.8億ドルだけ返済してもらった分だけ、マイナスとなっているわけだ。

しかし、貸付分を計算から外した無償援助と技術協力の贈与総額を合わせると、なんと3億ドル、約300億円にもなる。国民が本当に知りたいのはこの額ではないだろうか。特に、技術協力の2.86億ドル(約280億円)はベトナムの倍以上で、圧倒的なトップだ。この数字を見ると、中国は未だに「最大級の被援助国」ということになる。

国民がイメージしているような「純粋な援助」ではない融資額を入れて援助額を計算し、さらには融資の返還額までマイナス計算することで、中国への援助を隠しているとは言えないだろうか。さらに、「中国をにらんだ戦略配分」とまで言いのけるのは、もはや国民を騙しているとしか思えない。

では、この300億円にも及ぶ中国への技術協力とは一体何なのだろう。ODA白書には、日本にも影響のある環境や感染症対策の支援とあるが、個々の事業額が明確に記されておらず、釈然としない。それで、別の外務省資料「国別データブック」を詳しく読んでみると、中国から日本への研修員や留学生の受入の人数が目立つ。その数は実に毎年約7万人を超え、2010年はなんと16万人だ。一方、留学生支援を管轄する文部科学省の文書では、中国に限らず国費留学生約1万人、私費留学生約1万人、計2万人の受入に300億円が計上されている。この膨大な数の留学生が、一人当たり月15万円(大学院生)の生活費に加え、入学金・授業料免除の恩恵を受けているわけだ。現在、日本への留学生数は約14万人で、その約70%を中国人が占めるが、これらの情報から総合的に推察すると、その多くが日本のODAを受け取っていることになる。

中国はマクロ的には経済大国とはいえ、未だに一人当たりのGDPは低く、多くの貧困層がいるのでODAは必要だという論者は、この現状をどう説明するのだろう。日本に留学に来る中国人が果たしてどのくらい貧困層出身者なのだろうか。実状は、年間約300億円という税金の大半が、途上国の貧困層支援という名目のODA予算で、中国の富裕層の留学資金に使われているわけだ。

私は、中国を外交戦略上、重要なアクターとみなし、それなりの外交予算をかけることを否定はしない。実際に、中国から東大に留学に来ていた私の友人たちは皆優秀であったし、日本人よりもずっと熱心に勉強していた。今も各界で活躍しており、いずれ政治家や企業人として日本にとっても重要な人物になるだろう。そういった前途有望な人間をピックアップしてサポートすることは、貧困支援ではなく、長期的な外交戦略上は重要だ。しかし、それをODAとして年間300億円を費やし、見境もなく年間数万人という規模で行うのは甚だ疑問だ。

同じ額の予算があれば、日本人がもっと海外に出るのを後押しすべきではないか。日本人の海外留学奨学金(無償)は8億円だったのがようやく19億円に増額したが、それとて少ない。欧米だけでなく、中国、インド、ブラジル、ロシア、インドネシア、メキシコ、南アフリカ、エジプト、シンガポール、イスラエルと戦略的に留学先を選択し、奨学金を出してはどうだろう。それらの大学授業料はアメリカよりも安いので、年間1人100万円でも助かるし、300億円で実に3万人、現在の日本人海外留学生数約6万人の半数を送り出すことができる。あるいは、「中国をにらむ戦略」の通りに、インドなどに無償援助や留学支援を回した方がよいだろう。

いずれにせよ、中国にそれだけの援助をしているのなら、政府はその通りに分かりやすく説明すべきである。マスコミも、政府発表をそのまま垂れ流すのでなく、実際の白書を少しでも読んでもらいたい。今回の報道も、産経だけでなく他のマスコミも右向け習えだった。税金の使われ方にはいろんな謎が隠されている。

本山勝寛
学びのエバンジェリスト