労働力ダンピングは社会を豊かにするのか? 

2013年04月18日 15:00

生島さんの記事:「ワタミからブラック企業を考える」と山口さんの記事:「「甘やかして世界で勝てるのか」が結局全てでは?」を拝見して非常に考えさせられた。 この2つの記事では、経営者から自らの限界に近い労働を押し付けられても、つべこべ言わずにとにかく働け、それが自らの成長になるのだ、 という精神論が語られている。  

私は、こうした意見は誤りだと思う。 ここでは、自分の意見を手短に書いて置きたい。


労働力ダンピング

所謂、ブラック企業の問題は、アゴラでも多くの人が論じている。 山口巌氏のようにブラック企業肯定派も居れば、中嶋よしふみ氏のように「ブラック企業は公表ではなく取締りすべきだ」という意見もある。 

今まで出た意見の主な論点は、

(1) 労働者保護の倫理的な面から取り締まるべきだ

(2) 競争力の面からは仕方ない。

の2つの論点に集約されているように思われる。 

しかし、ここで見落とされている論点がある。 それは、法令順守という点はさておき、ブラック企業は、社会を豊かにするのか?、という点である。

ブラック企業が存在することで、社会全体の労働生産性が上がり、社会が豊かになるのであれば、これは社会としてもブラック企業の存在を容認することは、あり得よう。 

そこでこの点を考えてみよう。  

サービス残業、過重労働の会社側にとっての意味は、労働力ダンピングである。即ち、実際に申告されているより、ずっと安い時給で、社員を使うということだ。 

ここで、企業が、グローバル企業(国際競争をしている企業)とドメスティック企業(国内競争のみをしている企業)に話を分けよう。

まず、グローバル企業の場合、日本人の時給は、新興国のそれに比べ格段に高いので、労働力ダンピングのメリットは大きくない。 日本人の時給を下げるより、日本人を使わず、海外で安い労働力を使った方が遥かにコストを下げられる。  

ところが、居酒屋などの飲食業や小売業といった国内競争のみをしている企業にとっては、労働力ダンピングは、国内競争を勝ち抜く強力な武器になり得る。 

東洋経済の「ユニクロ、疲弊する職場」を読む限り、ユニクロは、労働力ダンピングにより圧倒的な競争力を持っているように思われる。 なぜなら売上の約80%は国内で、ユニクロは現在のところ国内中心の企業だからだ。 ファーストリテイリング会長の柳井正氏の言葉:「(社員を)甘やかして世界に勝てるのか」は、正しくなく、「(社員を)甘やかさないから国内で独り勝ちできる」が正しいのだ。

柳井正氏は

「ブラック企業」という言葉は、旧来型の労働環境を守りたい人が作った言葉だと思っています。

と述べているが、私には、「労働力ダンピングこそが、成長の源なのです、邪魔して欲しくないですね」と言っているように聞こえる。 
 

労働力ダンピングは社会を豊かにするのか?

小売業や飲食業のように国内市場を相手にした企業で、労働基準法を順守することなく、労働力ダンピングを行えば、国内の競争では圧倒的に有利になる。 

しかし、その結果どうなるか、というと、競争に負けた企業が、市場から退出し、多くの職が失われる。その上、労働力ダンピングを行った企業からも、どんどん落伍者が出る。 その結果、労働力ダンピングを行った企業の疲弊した職場と、多くの失業者が生み出されるし、心身を病んだ人も沢山出ることになる。 
 
一方、既存の需要は、労働力ダンピングを行った企業が少ない人員を使って押さえてしまうから、労働力ダンピングによって、生み出された失業者がありつけるパイは生み出されない。  

つまりエネルギー制約、環境制約により、経済のパイの大きさには限界があるために、労働市場から弾き出された人たちが、新しい仕事をしようにも、彼らに残されたパイは、ほとんど存在しないのだ。 このことは、既に「生産性の上昇が人を幸せにするために」で書いた通りだ、 
 
その上、エリック・プリニョルソンMIT教授が、「機械との競争」に人は完敗しているで書いているように、機械化、情報化が大規模な雇用破壊を行っている。 

このように、生み出された失業者は、生産性の低い低賃金労働に就くか、生活保護などにより社会が面倒を見なくてはならないのである。 社会全体としてみると、労働生産性は上がらず、むしろ低下する可能性が高い。  

労働生産性を上げることが、雇用を奪う一方、エネルギー制約、環境制約によりパイの大きさが拡大しないために、新規雇用が生まれず、雇用破壊が進行する、生産性の上昇と雇用の拡大のデカップリングが起こっているのだ。 

結局のところ、労働力ダンピングを行った企業のオーナーは社会に負担を押し付けながら、利益を独占することになる。つまり、労働力ダンピングを行った企業のオーナー及びその株主だけが勝者なのである。 このことが、1%の勝者と99%の敗者といった、格差を生み出している根本原因ではないだろうか。

とは言え、労働力ダンピングに関係なく、機械との競争は止められない。 結局、雇用の問題は、究極的には、ベーシックインカムやワークシェアリングの問題にまで行き着くのだろう。 

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