ウォルマートの経営戦略に見るマルサス的世界観

2013年04月30日 06:00

ウォルマートは売上高で世界最大(2012年4120億ドル)の企業で、従業員数220万人を誇る、世界最大のスーパーマーケットチェーンで、その合言葉:Every Day Low Price(EDLP)は良く知られている。 

しかし、その評判は必ずしも良いものではない。 実際、ウォルマートを批判した映画:Walmart: The High Cost Of Low Prices も作られるなど批判も数多い(この映画は一見の価値のある映画だと思う)。 

ここでは、ウォルマートの経営戦略を紹介し、労働者からの搾取以外に成長機会を見出せなくなっている先進国の状況について考えたい。


ウォルマートの戦略

ウォルマートの戦略は、一言で言えば、規模の力で、徹底的なコストカット、特に人件費のカットを行うことにある。

冒頭で紹介した映画を見ればよく分かるが、あらゆる品物を扱うウォルマートが、小都市に進出すると、その都市の商店街は、ウォルマートの低価格攻勢の前に、瞬く間にシャッター街に変貌する。そして、働き先のない、それら破綻した商店の従業員は、ウォルマートで働くことになる。 

しかし、彼らの給料といえば、貧困レベルなのだ。実際、2005年のウォルマートの従業員(フルタイムの正社員)の平均年収は14000ドル未満。 他に働き口がなくなってしまうので、ウォルマートは自由に賃金を決められるのだ。 

こうした状態だから、従業員の家族は、食事に事欠いたり、病気の治療を受けようにもお金がない。 そこでウォルマートはどうするかというと、給料を上げるのではなく、公的支援を使えというのである。具体的には、貧困者向けのフードスタンプや、貧困者向けのメディケアを利用せよというのである。ウォルマート独自の医療保険もあるにはあるが、その掛け金が給料の約1/8という高いものなので、ほとんどの従業員は入れない。 

Wal-mart To Explore The Final Frontier of Worker Abuseによると2012年にウォルマートの従業員が受けた公的支援の総額は26.6億ドル、一店舗当たり42万ドルに上る。従業員の実に80%がフードスタンプを利用しているという。 従業員の待遇が如何にひどいものか、そしてウォルマートが如何に巧妙に税金を搾取しているのかが、良くわかる(その上、出店に当って補助金まで受けている!)。 

こうした状況に置かれた労働者が不満を募らせるのは当然であり、彼らは団結して賃上げ交渉を行おうとする。 ところが、US: Wal-Mart Denies Workers Basic Rightsに書かれているように、ウォルマートは組合結成に動いた社員を解雇するなど組合活動を徹底的に取り締まっているのだ。 

さらに、アメリカでは、サービス残業は、厳しく禁止されているが、ウォルマートは、これについても、多数の訴訟を起こされている(但し、冒頭の映画を見る限り、週40時間の勤務時間を超え、41-2時間になったのを40時間で給与計算するといった、日本のサービス残業とはレベルが異なるマイナーなもののようだ)。

以上のようにウォルマートの品物が安いのは、正に、従業員の給料が極端に低いからであり、ウォルマートは貧困者向けの公的支援にフリーライドする形で、巨額の利益を上げ、創業者一族は長者番付に名を連ねているのだ。

利潤追求のためなら、政府による貧困者支援まで利用するいう徹底的に利己的なビジネスモデルには、疑問を感じざるを得ない。正に、「労働力ダンピングは社会を豊かにするのか?」で私が懸念した通りのことが起こっているわけで、正に、一部の企業が栄えて、格差拡大により社会が疲弊し、フリーライドされた政府の財政が疲弊するといったことが起きているわけである。

最近、ウォルマートは人員削減をし過ぎて、Wal-Mart Customers Complain Bare Shelves Are Widespreadで報じられているような問題も起こしているが、コストカットに突き進む姿勢は変わっていないようだ。
  

先進国内に出現する第三世界

ウォルマートの経営戦略が指し示すのは、先進国において企業が成長するためには、何らかの形で、労働者からの搾取を行う必要があり、そのために半ば意図的に貧困層が生み出されているということである。 

正にゼロサム社会の中の競争になっているのだ。 つまり、経済成長を支えるフロンティアは、もうどこにも残っておらず、エネルギー供給も限界に達しており、企業が成長するには、労働者からの搾取以外に道がなくなってしまった、ということなのだろう。  

皆が等しく豊かになれる時代は終わってしまい、先進国では格差がどんどん開いている。

実際、A Rise in Wealth for the Wealthy; Declines for the Lower 93%によると、アメリカでは2009-11に掛けて上位7%の資産が28%増加したのに対し、残りの93%の資産は4%減少している。 
SDT-2013-04-wealth-recovery-0-1

これは、金融緩和が、資産価格の上昇を通じて、富めるものを益々富ませる一方、貧困層には、その恩恵がないからだと考えられる。 上位1%が富み、残り99%が貧困に喘ぐ社会に着実に向かっているようだ。 

前記事でユニクロの柳井正会長の発言を取り上げたが、「年収100万円も仕方ない」という柳井会長の発言は、上で取り上げたウォルマートの戦略に相通じるものがあり、いよいよ、日本も本格的な格差社会になりそうな気配である。 結局、こういった戦略を推し進めれば、先進国内に搾取の対象となる第三世界が出現することになるだろう。

以前、私が、「失業と貧困はなぜ生み出されるのか」で描いたマルサス的な世界に遂に突入してしまったのかも知れない。 そしてこういった利己的な企業行動は、格差拡大による社会の疲弊とフリーライドにより膨れ上がった政府債務に押しつぶされる形での社会の崩壊を招くだろう。 

Grow or die といった、成長に駆り立てられる社会が、こういった殺伐とした社会であるとするなら、私は、経済成長のないことを前提とした社会システムを模索すべきではないかと思うが、如何なものだろうか。
 

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