安倍晋三氏は日本の最大の問題に取り組むか? --- ノア・スミス(Noah Smith)

2013年04月30日 00:13

そもそも初めに私が驚かされたのは、安倍氏が通貨政策の公約を本当に実行したことだった。黒田東彦氏を日銀総裁に任命し、彼と共に中央銀行がかつて試みたことのない「リフレーション」という野心的な挑戦に着手している。これが実際にうまくいくかどうかは今後見極めねばならない。リフレ政策が発表されたが、その波及経路としての「期待チャンネル」の実効性はさらに疑問視されており、日本はいまだデフレという苦境にある。しかし、安倍氏は挑戦しているのであり、これが最も重要なことである。


今度は、私が思うに通貨政策よりもずっと重要な問題について、安倍氏は語っている。これについて私はあまり期待していなかったのだが、彼が言っている問題というのは日本経済における女性の地位のことである。

女性がいまだ経済的な下位クラスに置かれている、ということは日本経済と米国経済の本質的な違いの一つだ。日本の労働市場は悪名高い「二層構造」をなしていて、「正社員」と「契約社員」という二種類の労働者がいる。正社員には(理論的には)生涯雇用、年次昇給、ボーナスと完全な福利厚生が保証され、トップマネジメントに昇進する可能性もある。契約社員は、上昇する可能性の低い低賃金、福利厚生や保証もほとんどなく、昇進の可能性はもしあってもごくわずかでしかない。正社員の多くは男性で、契約社員の多くは女性である。

このことは、能力の膨大な浪費であるだけでなく、女性に労働力になる意欲をなくさせている。こうした理由で、多くの日本の母親は子供ができると仕事を辞め、また、働いている日本の女性はほどんど子供をつくらない。これらは日本のGDPが抑えられていることや日本の出生率が低いことの原因ともいわれている。

日本の独自性といわれるものの多くは、その実体を知ればそれほど変わったものではない。たとえば、日本の失業率の低さは有名だが、それは労働力参加率が米国より低いためである。大きく違いが現れるのが、女性(とティーンエイジャーと早期退職者)である。

いずれにせよ、日本の企業社会から女性が排除されていることが、日本の停滞の理由の一つであることは以前からよく知られている。米国では、女性の経済的平等が進んだことで、公式の労働人口が増加してGDPが上昇したことに加え、米国の生産性が大きく向上したと考えられている。日本は未だこうした牽引力を得られていないのだ。日本が女性の平等を実現する必要があることは誰もが知っている。アウン・サン・スー・チー氏も在日米国大使館IMF専務理事もみな同じことを指摘している。このトピックで何千という記事が書かれているが、事態は大して変わっていないのだ。

どうして大して変わらないのだろうか? 日本の保護経済、政府の助成金漬けの「ゾンビ」企業、脆弱なコーポレートガバナンスのおかげで、80年代90年代の米国で男女平等の推進を促したようなゲイリー・ベッカー流の自由市場の力から日本が守られてしまったからである。こうした市場からの圧力がない場合、男女平等を実現するために最も確実なのは、スウェーデンやフランスが行った、政府が企業に「女性を雇って昇進させなさい」と命じるという方策である。この方法は、規制が多く保護主義的なヨーロッパ諸国でも成功した実績がある。

しかし、日本の政治を支配してきたのは、スウェーデン/フランス型の社会民主主義ではなく、超保守主義である。超保守主義は、自由民主党の長期政権の中に根付き、55年にわたる連続政権のなかで社会変革の努力を抑圧してきた。自民党の創設者の一人であり、最も重要な指導者だった岸信介氏は、安倍晋三氏の祖父である。

第一次内閣の時、安倍氏は女性の同権などという問題に取り組む気はまったくなさそうだった。その内閣の外相で安倍氏の右腕だった、故中川昭一氏はこのような発言をした。

女性には女性の領域というものがある。女性は、女性らしくしていればよい。彼女たちには固有の能力があり、それらを十分に活用すればよいのだ。たとえば、生け花とか、裁縫とか、料理とか。これは良し悪しの問題ではなく、我々は男女が遺伝的に異なるという事実を受け入れねばならないということだ。

安倍氏の女性同権問題への姿勢に、どうして私が懐疑的だったか分かってもらえると思う。

しかし、安倍氏は再び私を驚かせた。どのニュースを見ても、安倍氏は企業の取締役会により多くの女性を参加させるための大規模な推進策を検討しているようなのだ。

安倍晋三首相は、金曜、日本の企業が経営により多くの女性を参画させるよう、財界リーダーらに各社最低一名の女性役員を置くように依頼した…
女性は、わが国で最も活用されていないリソースである、と安倍氏は語った…
経済の活性化を目指す規制緩和や他の構造改革を含む「国家成長戦略」を政府が発表する6月に、女性参画推進策の詳細が明らかになると期待されている。

このような発言だけで、安倍氏は十分に私を驚かせてくれる。だが、彼の党の根強い女性差別的な伝統からすると、革命が起きたと宣言するには早すぎる。彼が通貨政策で行ったように、劇的で、前例のない、大規模な行動をもって私を説得せねばならない。そしてさらに重要ことに、安倍氏は日本そのものを説得しなければならない。

でも、もし彼がやってくれたら? 安倍氏は、前首相で彼のパトロンである小泉純一郎氏を、さらには自身の祖父をも超えることになるだろう。


編集部より:この記事「Will Abe address Japan’s number one problem after all?」はノア・スミス氏のブログ「Noahpinion」2013年4月27日のエントリーより和訳して転載させていただきました。快く転載を許可してくださったノア・スミス氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は、同氏のブログをご覧ください。

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