「女性が輝く日本」(1)ノア・スミス記事に総論賛成、各論反対

2013年05月01日 10:49

ノア・スミス氏が「 安倍晋三氏は日本の最大の問題に取り組むか?」と言う記事で「女性の地位と言う通貨政策よりも重要な問題を取り上げた」と安倍首相を評価し「日本の企業社会から女性が排除されていることが、日本の停滞の理由の一つである」と指摘された事は誠に尤もである。

然し、同氏が結論を導く為に使った日米比較には賛成出来ない部分も多く、若干反論を加えたい。


先ず、「女性に圧倒的に多い『契約社員』を早く『正社員』に登用する」事が、日本の女性の社会進出に必要だと言う主張への疑問である。

何故なら、これ等の制度は基本的に既得権を保護する制度で、後発組に属する「女性」の社会進出を妨げる障害物であるからだ。

現に、女性の社会進出が進んだ諸国には、「正社員制度」も「生涯雇用制度」や「年功序列制度」なども存在しない。寧ろ、これらの制度が無かったから、女性の社会進出が早かったのである。

従い、女性の社会進出の促進には、『正社員』と『契約社員』という身分制度の撤廃が先決である。

米国での「契約社員」は、一芸に秀でた運動選手や経営トップなどの特権階級に与えられた雇用形態で、日本の正社員に近い身分保証は、一部の公務員とテニュアーを受けた大学教授くらいに限られている。
米国の圧倒的多数の就業者は、At – Will –Employment と言う双方の自由意志に基づく雇用形態で雇用されており、従業員の離職も会社側による解雇も、どちらかの自由意志で成り立つ「結婚」に似た制度だが、自由にしておくと雇用者側に有利になるので、「不当解雇禁止法」「労働調停委員会」「労働組合」などのインフラも整備される必要がある。

スミス氏は又、「日本の独自性といわれるものの多くは、その実体を知ればそれほど変わったものではない」と言われるが、米国の独自性は「知れば知るほど、変わったもの」が多すぎ、統計だけで日米を比較する事には無理がある。

たとえば、日本に比べ高いと言われる米国の失業率もその実態は、誰にも判らない。

その理由の一つに、就業統計に載せられない1千万人を遥かに超える「不法移民労働者」の存在や、流動性や季節性の高い農業就労者を中心とする膨大な数の「季節移民労働者」の取り扱いがある。

同じく「日本は労働力参加率が米国より低い」と言われても、先に述べた事情もあり、米国の就労希望人口は勿論、正確な就労数の把握すら困難な現状で、簡単に納得する訳にはいかない。

日本の労働市場を悪名高い「二層構造」と言う指摘も、「不法移民」「新規移民」「黒人やヒスパニックなどの弱者」の安価労働の上に「女性」を含む一般市民が乗る「五層構造」の米国労働市場では、「国民皆保険」の導入も不可能な程の、多層的差別労働市場で、労働市場の「悪名」を冠するなら寧ろ米国であろう。

問題は、この「差別的労働構造」が米国の強みであり、日本では弱点になっている事だ。

機会平等社会の米国と、結果平等社会の日本を比べると,機会平等社会の方が弱者や後発組にとっての将来への希望は圧倒的に大きい。

これが、アメリカンドリームを追求する後発組が、米国経済の活力となっている理由である。

もう一つ、日本経済のアキレス腱である少子化を女性の社会進出度に結びつけるには無理がある。

何故なら、女性の社会進出の進んだ国のほぼ全ての先進国で、少子化問題が起こっている事からも、この問題は価値観の変化の影響が圧倒的に大きいと考えられるからだ。

米国で少子化が余り問題にならないのは、大家族を好む移民世帯が多いからであり、先進国では異常に高い幼児死亡率や結核羅病率と同じく、移民国アメリカの特殊な事情である。

いずれにせよ「女性の平等の実現が日本の急務と言われて久しいが、一向に実現しない問題」に疑念を呈したスミス氏には私も同感である。 

解決法の一つに、安倍首相が考える、公権力に依る是正措置があるが、これは既に欧米での実施例も多いので勉強する価値はある。

日本の場合、公権力による是正は、憲法第十四条 の「法の下に平等」の原則に反すると言う論議もあるが、「既に差別されている国民」の差別を是正する事は当然であろう。

公権力の介入による米国流の「アファーマテイブ・アクション(差別是正措置法)」を実行する為には、厳しい「時限立法」にする事が肝要で、これが恒常化することは、新たな規制の誕生を生む事につながり、絶対に避けなければならない。

もう一つは、税制を加味した優遇策で、これは真剣に考える価値がある。

最後に指摘したいのは、この問題解決の大きな障害に、日本の恥ずべき特殊事情がある事だ。

それは、スミス氏が引用した「女性には女性の領域というものがある。女性は、女性らしくしていればよい。我々は男女が遺伝的に異なるという事実を受け入れねばならないということだ」と言う故中川昭一氏の発言に代表される、指導層の救いようの無いセンスのずれである。

安倍首相が公権力を使った「コータ制」導入をする前に、自民党の諸先生のセンス(価値観)の近代化から手をつけて欲しい。

マスコミや日本国民も「女性を含む全ての差別」が「クール」ではないと言う風潮を作り、女子社員を「女の子」と呼ぶ男子社員やお年寄りの夫人を「ババー」と呼ぶ政治指導者を、心から軽蔑する風土を作る事も女性の社会進出には大きな助けとなる筈だ。

2013年4月30日
北村 隆司

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