「アソウノミクス」によるデフレの的確な分析

池田 信夫

麻生財務相がワシントンで行なったスピーチが、専門家に評判がいい。草稿は財務官僚が書いたのだろうが、「アベノミクスとは何か」と題して、それとはかなり違う「アソウノミクス」を披露している。

全ては1990 年代初頭に資産バブルが崩壊したときにはじまりました。[・・・]多くの銀行や企業の資本が毀損しました。銀行は自分たちの不良債権の圧縮にしか関心が無く、企業は負債の返済しか考えていませんでした。

日本企業は、将来の成長につながる新たなアイディアや製品に投資するよりも、賃金カットでコストをぎりぎりまで引き下げることを選びました。労働組合側も雇用を守るために、賃金カットを受け入れました。

これはデフレの原因についての簡潔で的確な分析である。ここには金融政策はまったく出てこない。原因が過剰債務の削減にともなう投資と賃金のカットなのだから、その是正に必要なのは量的緩和ではなく、「リスクテイクの精神を呼び覚ます」ことである。

そのために「3本の矢」を掲げたというのだが、金融政策については「最初のバズーカは大胆な金融政策です。これについてはこれ以上語りません」とそっけなく、「クロダノミクス」を重視してないことが読み取れる。財政政策についても「私たちは大きな政府を目指しているのではありません」と釘を刺し、財政健全化について延々と語っているのは事務方の作文だろう。

「バズーカ」と名づけたのは麻生氏らしいが、これは言いえて妙だ。マシンガンならいくらでも連射できるが、バズーカは最初に撃つときは大きな音で驚かす効果はあるが、「2年で270兆円」という弾を撃ってしまうと、連射はむずかしい。それで長期金利が下がればいいが逆に上がり、住宅ローンの金利まで上がり始めた。

麻生氏もいうように、「第1の矢」であるリフレの結果はほぼ出たとみていいだろう。バズーカの大きな音でマーケットは驚いたが、機関投資家は国債を売って外債に向かい、為替も株価もリーマンショックの前に戻ったレベルで一進一退だ。これがヴィクセル的な自然水準(潜在GDP)に近いとすれば、景気対策としてできることはもう余りない。必要なのは自然水準を上げる規制改革や税制改革である。