川口委員長の解任は「決められない日本」の病理

池田 信夫

参議院の川口順子環境委員長が、参議院本会議で解任された。その理由は中国滞在を1日延長したということだが、川口氏の説明によれば、出席していた会議の日程の変更で楊国務委員との会談が25日に延期されたため、24日中に帰国する予定の延期を議院運営委員会に申請したという。


しかし議運がこの申請を認めなかったため、川口氏は無許可で中国に滞在する結果になり、委員会が開けなかったというのが野党の言い分だ。しかし参議院規則によれば、「委員長に事故ある場合」は理事が代理で開会できる。それをさせないで委員長を解任する野党の戦術は、15日に予算が自然成立するのを前に、与党をいじめて野党の力を誇示しようということだろう。

これは小さな問題に見えるが、野中尚人氏の指摘する国会至上主義による「決められない政治」の典型的な症状である。国会の会期中ずっと閣僚が国会に出席し、1年の半分近くは閣僚は国会で座っているだけで、内閣は機能しない。川口氏は閣僚ではないが、中国の首脳と会談するために出張したのだから、会談が延期されたのなら日程を変更するのは当たり前だろう。

日本の国会では、実質的な意思決定はほとんど行なわれない。開会の前に国対委員長会談で「通常法案」はほとんど審議しないで可決することが決まり、「対決法案」だけが審議される。衆議院は与党が絶対多数なので、主な審議の場は参議院だが、野党が修正しようとしても与党が反対するので、結果的には、野党が通したくない法案は、審議拒否で時間切れ廃案にする日程闘争が彼らの唯一の武器だ。その日程も内閣が決めることができないため、民主党政権では政府提出法案の50%しか成立しなかった。

こういう奇妙な慣例は、自民党単独政権の時代に、野党の顔を立てて審議を円滑に進めるためにできたらしい。野党が欠席のまま自民党が採決することを強行採決と呼ぶマスコミ用語は60年安保のころできたが、定足数を満たしていれば何の問題もない。しかしそれを繰り返すと、野党が審議拒否で抵抗するので「話し合い」を極端に重視し、ほとんどの法案は満場一致でしか決められない国会になってしまったのだ。

これは日本社会のメタファーである。企業でも、経営者が決めたことに労働者が従い、いやなら会社を辞めるのが資本主義のルールだが、高度成長期の人が足りないとき労働者を会社に囲い込むため、「労使協調」で経営方針を決めるようになった。これは労使の利害が基本的に一致している時代にはよかったが、今のように利害対立が先鋭化すると何も決まらず、経営方針が迷走する。これが日本経済が長期低迷している原因である。

今月下旬に出る予定の拙著『「空気」の構造: 日本人はなぜ決められないのか』では、このような意思決定の欠陥が伝統的な日本社会の構造に根ざす問題であることを明らかにし、それを是正する方法を考える。この「空気」を変えないで憲法改正なんかできないし、改正しても何も変わらない。