壊れゆく資本主義

2013年05月09日 14:16

池田信夫氏の「グローバル資本主義は「ユニクロ化」する」と津上俊哉氏の「内田樹教授の寄稿「壊れゆく日本という国」について一言」を拝読して、グローバル化について考えさせられた。 ここでは自分の意見を述べておきたい。


グローバル化は世界を豊かにするか

我々の生活の豊かさは、エネルギーにより支えられている。我々の快適な生活には、エネルギーが必要で、電気、ガスを始め、移動、運輸、食糧生産など生活の隅々にまで、エネルギーの供給が必要である。

    物質的豊かさ = エネルギー供給 × エネルギー効率 

である。従ってエネルギー供給を増やすか、エネルギー効率を改善するかしない限り、世界全体の物質的豊かさは増加しない。 即ち、我々の豊かさは、自然からの収奪によって支えられている。

一方、グローバリゼーションは、エネルギー供給を増加させず、エネルギー効率を必ずしも上げない(むしろ、運輸を通じてエネルギーの浪費になる可能性もある)。従って、自然からの収奪を増加させない限り、グローバリゼーションは世界を豊かにすることはない。

しかし、企業の行動を考えると、人件費の安い新興国に生産を移管すれば、コストを下げることができ、グローバル化は収益の向上、競争力の強化に繋がる。これは一見、上記の考察に反するように見えるが、生産の海外移管によって、雇用が失われ、直接的には国内での付加価値創造が失われる。その一方で、新興国の人たちの所得は、次第に上昇する。

従って、先進国に於けるグローバリゼーションの作用は、それを上手く利用する人たちを富ませる一方で、全体としては、新興国への富の流出をもたらすことになる。 つまり、グローバリゼーションは世界的な富の平準化と先進国国内の格差の拡大をもたらすのである。  

さらにグローバル化は、企業の自由競争がある限り、不可避であり、不可逆の過程であることは、すぐに分かる。簡単に言えば、熱力学の第二法則と同じものだ。
 

グローバル化と雇用

よく聞かれる意見に「単純労働は新興国の人たちに任せて、先進国の人たちは、もっと創造的な仕事をすればよい」というものがある。この意見を考察しよう。

この意見は、次の2つの点で誤りである。

(1) 創造的な高スキルの仕事を出来る人材は、極一部しか存在しないし、必要性も薄い。
(2) 既存の需要の外側に、新たな需要がほとんど存在しない。

(1)については大学進学率(2-3年制の専門学校も含む)が80%にも達する韓国の状況を見れば分かる。 「就職難に苦しむ韓国の大卒者」を見れば分かるように、韓国の家庭は極めて教育熱心で、大学生も非常に勉強熱心である。しかし、ソウル、高麗、延世といったトップ大学を除くと、新卒者の中、正規雇用に就く割合は30%程度しかなく非常に低い。サムスンなどの財閥系企業に就職するには数百倍の倍率をくぐり抜けなくてはならず、TOEIC990点中800点以上でないと書類審査さえ通らないという著しい競争社会だ。韓国の場合、大学教育をしても意味のない層までが大学に行きミスマッチが起きている。過剰教育が問題なのだ。

教育をすれば、能力を向上させることができるというのは、非常に限定的な意味でしか成り立たない。 私は数学者だが、新しい(意味のある)数学の定理を発見できる人材となると、1万人に1人もいないだろうと思う。フランスの数学者に聞いた話だが、フランスでは、エコール・ノルマルからしか数学者が輩出しなくなり、留学生を中国など新興国から集めないといけない状態だという。創造的な高スキルの仕事の出来る人材も、そのニーズも限られているのである。

「グローバルな競争に打ち勝つために、他の人の持たないスキルを身に付けるようにしよう」というのは正しいが、必要な規模でこれを行うのは不可能だ。 

先進国では、製造業が衰退し、サービス業に雇用の中心が移っているが、実際に起きているのは、サービス業における過当競争と低賃金労働の蔓延だ。 たとえばウォルマートユニクロのように、低価格路線をとる小売業では、従業員を厳しい労働条件下に置き、取引先にコストカットを要求することが、競争に打ち勝ち、企業を拡大する原動力になっている。これは、労働者からの搾取に成長の源を求めざるを得ない状況だということだろう。新たなフロンティアの枯渇の末、たどり着いたのが、こういったビジネスモデルだということだ。 

次に(2)について考えよう。 地球の有限性が顕在化しエネルギー供給の拡大が望めなくなっている現在の状況では、先進国の製造業の衰退に伴って生み出される失業者が、何か新しい事業を起こすのが難しい。 これは、世界経済の規模が、エネルギー供給により規定されており、これを先進国と成長著しい新興国が分け合っているために、先進国の享受できる物質的な豊かさが、減少し続けるからである。 このような状況では、既成の需要の外側に新たな需要を見つけ出し、発展させるのは極めて難しい。

結局のところ、極一部の人を除いて、先進国の国民の生活水準はどんどん下がり続け、低賃金労働が益々蔓延することになる。  

それではどうなるのか

このまま、この状態を続けた場合、どのようなことが予測されるだろうか。エネルギー供給の見通しを考えると、現在は、供給量のほぼピークであり、2050年に掛けて、世界のエネルギー供給は現在の3分の2まで低下するだろう。IMFも2022年の原油価格をおよそ1バレル180ドルと予測しているように、今後もエネルギー価格は上昇を続けるだろう。

このような中で、世界経済、特に先進国は、経済成長が困難になることは間違いない。現在、ユーロ圏では2年連続のマイナス成長になりつつあるが、こういったマイナス成長は、先進国全体に拡大するだろう。  

現在、先進各国は、過激な金融緩和を続けているが、これは危険な賭けであり、実際のところ、どのように収拾するのか、見当もつかない。例えばFRBが出口戦略を取り始めた場合を考えても、円が暴落したり、中国のバブルが破裂する、といった副作用が考えられる。 かといって、このまま金融緩和を際限なく続けることも、全く無理な話である。 

従って、これから数年の中に、世界経済に不連続な変化が起きる可能性が高いだろう。

成長の鈍化、ないし、経済の縮小が続く中で、過剰債務を抱える、先進各国が財政破綻を回避するのは難しいだろう。経済の継続的な拡大を前提とする資本主義が続けられなくなる、といった事態さえ十分に考えられる。恐らく、何らかのカタストロフの後で、どのようなシステムで世界経済を運営するのか模索することになるのだろうが、混乱の中でどのように生き延びるかを今から考えておきたい。

内田樹氏は「壊れゆく日本」と言っているが、私は、「壊れゆく資本主義」と感じている。 

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