今の円安トレンドは日本に何をもたらすか --- 岡本 裕明

アゴラ

円が対ドルで102円に迫るような急激な円安になることはいくら安倍首相でも年初には期待していなかったかもしれません。100円の心理的壁は思った以上に厚く、数日前には突破のきっかけがなくなるのではないかという懸念すら表れていたところにアメリカの経済指標が比較的強含み立ったことやアメリカの金融緩和脱出タイミング論などが出てドルの独歩高となり、結果として円も売られました。繰り返しますが、円が単独で安くなったのではなく、ドルが独歩高だったということであります。


ただし、北米の為替市場においても円の動きは圧倒的注目であり、流れに乗って大きく動いた、ということかと思います。ムードとしては更にドルを買って円を売る動きが出てくるような流れが強く、今週も注目することになりそうです。

この円安で日本を取り巻く経済ピクチャーは大きく変わりそうです。

輸出企業、特に中小の会社には大きなメリットが生じると共に韓国との輸出競争では圧倒的な強みで競合産業では復権できる可能性が出てきていると思います。韓国は兎にも角にも経済が悪化しており、サムスン以外は下方修正が相次いでいる状況です。現代自動車、起亜自動車も北米での伸びを欠いている上、韓国のカーオブザイヤーにトヨタカムリが選ばれるなど韓国国内でも日本の巻き返しは顕著であります。

また、企業が前向きになれば夢を追うプロジェクトも復活してくるものであり、2011年に世界最速となったもののいま三位まで転落したスパコンの世界最速の地位を奪取するプロジェクトが再び動き始めるというニュースもありました。

私がそれ以上に注目するのは経常収支の改善かと思います。2012年の貿易収支は8兆1700億円の赤字で2013年も輸出が伸びても更なる輸入コストの上昇が見込まれますのでこちらの改善は厳しいかもしれません。しかしながら、日本企業が海外企業の買収や海外での事業を通じた収益などをあらわす所得収支は為替の関係で相当の膨れあがる期待ができそうで海外で稼ぐ日本という姿がより明白になってくると思います。

また、円安による日本の不動産などへの投資にも注目しています。以前も書いたと思いますが、海外の大都市の不動産の利回りはかなり下がってきており、実質的には不動産価格の上昇を見込まなければ収益があまりあがってこない状況になっています。その中で日本、特に東京の場合、オフィスの空室率は下がり気味で大型のオフィス供給もひとまず終わっていることから利回りはより堅いものになってくると見られています。これは海外の資金が不動産に向かう可能性がより高まるということです。

東京地区の大型プロジェクトとしては田町再開発が近いうちにスタートすると思われます。これは現在工事中の東京と上野駅を結ぶ在来線(東海道線と東北/高崎線)の接続工事が進んでおり、完成後、神奈川と埼玉方面の間が直通運転になりますので田町の操車場が要らなくなり、操車場跡地に大規模開発が見込まれているものです。たしか、そのあたりに山手線の新駅も出来るのですが、このような目玉プロジェクトは海外からの投資も呼び込みやすく、不動産事業は更なる活況を呈する可能性はあります。

海外からの観光客にとっても日本の物価が相対的に安くなりますのでホテルや土産店、更にはデパートなども今後、国内需要のみならず外国人客の購入による売り上げの更なる上乗せが期待できると思います。確か、三越伊勢丹ホールディングスの決算発表の際にもそのようなことをコメントしていたと記憶しております。

これらをみてのとおり、消費を含む景気全般に大きなプラスのサイクルがかかってきますので今年は失われた20年を吹き飛ばすような好調さを見せる可能性はあると思います。その間に世界の中の日本のポジショニングを改めて確保し、安定的で成長できる国家作りと構造的変革を進めていくことが長くこの湧き上がる好景気の風を享受するポイントとなりそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年5月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。