クアルコム創設者I. Jacobsの執念

山田 肇

クアルコムの共同創設者であるIrwin Jacobsが2013 IEEE Medal of Honorを受賞した。これを祝福する記事がIEEE Spectrum5月号に掲載されている。I. Jacobsの人となりがわかる面白い記事であり、一読をお薦めする。僕が印象に残ったのは……

Jacobsは数学と科学が優秀な生徒だったが、実家が小さなレストランを経営していたため、高校の先生の勧めでコーネル大学ホテル経営学部に進学したという。1年半在籍し、夏休みにはカントリークラブでコックのアルバイトもしていたが、ルームメイトに影響されて工学部に転入した。それがMITでの博士号に結び付き、カリフォルニア大学サンディエゴ校で教鞭をとるに至ったそうだ。


1968年には教員たちとコンサルティング会社を設立し、1985年にはクアルコムを設立した。クライアントであるヒューズとの打ち合わせからの帰路、車の中でCDMAを移動通信システムに利用する可能性に気づいた。1989年には業界関係者を集めてCDMAによる移動通信をデモすることになったが、当日はうまく動作せず、Jacobsが説明をしている間も必死に修理したそうだ。Jacobsは話を伸ばして時間を稼いだという。

1993年には工業団体Telecommunications Industry Associationで標準と認められ、1995年には香港で最初のCDMAサービスが始まった。その後のクアルコムの興隆はご存じのとおりである。

Jacobsは篤志家として、サンディエゴシンフォニーをはじめ、MIT、コーネルなど多くの組織に寄付を重ねている。今の関心事はハイテク教育に力を入れる高校を育てることだそうだ。

クアルコムの強い特許ポリシーは業界で警戒され、ビジネス手法が批判されることもある。その割に、一度訪問したクアルコム本社で学究的な匂いを感じたのは、創業者Jacobsの影響だろう。

山田肇 -東洋大学経済学部