シリアの内戦が示唆する世界経済の成長の限界

2013年05月15日 12:00

シリアの内戦が長期化しているが、北アフリカから中東に掛けて、アラブの春と呼ばれる政変が起きているのは、何故だろうか? 

これは、独裁政権の圧政もあるが、何より食い詰めた国民が政変を起こしたのだ。国民が貧しくとも平穏に暮らしていれば、政治指導者が多少、私腹を肥やしていても、政変など起きるはずがない。 多くの国民の生活が破綻寸前まで追い詰められてこそ、政変は起きるものだ。

ここではシリア内戦を通して、世界が直面する問題について考えたい。


シリアの内戦は何故起きたのか?

現在、シリアの内戦が激しさを増し7万人もの死者と近隣諸国へ100万人を超える難民を出しているが、この内戦が勃発した理由は何だろうか。

これを知るには、英ガーディアン紙の記事:Peak oil, climate change and pipeline geopolitics driving Syria conflictを見ればよい。

シリアは石油資源に恵まれた国だったが、シリアの原油生産は1996年にピークアウトし、内戦前にはピーク時の60%程度に落ち込んだ。原油の輸出利益の減少と財政赤字の拡大のため、政府の補助金で低く抑えられていた石油価格は2008年の政府補助金のカットにより一夜にして3倍になり、食糧価格の高騰を招いた。現在は、内戦で原油生産はさらに半分になっている。

一方、気候変動により、2002から2008年に掛けて、シリアの水資源は干ばつなどのために半減した。その結果、かつては自給していた小麦を2011-12には100万トン輸入しなければならず、2012-13には消費の30%近くの400万トンを輸入することになるという。干ばつはシリアの農地を疲弊させ、農民が難民化した。2010年から11年にかけて、小麦の値段が2倍に上がり、生活難は、反政府勢力の拡大をもたらした。

内戦勃発の理由は、アサド政権の失政によるというよりも、気候変動とエネルギークランチが引き起こしたものなのだ。シリア内戦の原因は、ガスパイプラインのルートという大国の利害がぶつかり合う地政学上の問題も大きく影響しているものの、根源的には、石油資源の減耗と気候変動という物理的なものなのだ

従って、アサド政権が存続しようと、新政府が樹立されようと、この問題は解決しない。

成長の物理的限界

このように、エネルギー資源の減耗、気候変動といった物理的要因がシリアに内戦をもたらしたわけだが、これは、そっくりそのまま、世界経済の直面する問題の縮図だ。  

現在、世界経済、特に先進国経済は深刻な不況に喘いでいるが、これは、かなりの部分エネルギー価格の高騰によるものだ。 エネルギー多消費型の先進国経済では、経済成長しても、エネルギーコストに持って行かれるため、実質賃金が下がるのだ。   

1バレル100ドルにもなる原油価格の高騰は、単に需要増によるものではない。 生産価格が上昇しているのだ(The cost of new oil supply参照)。 最近明らかにされたエクソンとスタットオイルのメキシコ湾の深海油田プロジェクトでは、油田は海面から何と5マイルの深さで、投資額は40億ドルだという。遂にこのような場所まで巨額の費用を掛けて採掘するようになったと考えるべきだろう。 

シェールガス・オイルについても、生産コストは高く、採掘は大変で、生産減退も急激で、とてもピークオイル問題を解決する力はないだろう。 

安いエネルギーが大量に供給されて急速な経済成長を実現した20世紀と現在では、エネルギーを巡る国際環境は一変している。 
 

他の鉱物資源に関しても、質のよいものから採掘されるため、鉱石の品質は劣化しており、精錬に必要なエネルギーは、増加している。

先進国では身近に感じないかも知れないが、食糧価格の高騰は、シリアだけでなく、北アフリカ、中東の人たちの生活を脅かしている。 元々、この地域は、深刻な失業問題を抱えており、乾燥地帯にあるため、気候変動の影響も受けやすい。昨年、アメリカの干ばつの影響で起きた穀物取引の契約不履行問題は大きな問題になった。

FAOが昆虫食を勧告し始めたのも、世界の食糧危機が深刻化することを見越してのことだろう。世界の耕地面積は60年前から、ほとんど変化しておらず、食糧の増産は、肥料の投入など外部からのエネルギー投入による、単収(単位面積当たりの収穫量)の増加によるものだ。

遺伝子組み換え作物に期待する人もいるだろうが、遺伝子組み換え作物であっても、外部からのエネルギー投入の増加なしに、単収を増加させることはできない。エネルギーの減耗が食糧価格の高騰に繋がる構造は変えられないのだ。

身近なところでは、シラスウナギの不漁が深刻化し、ウナギの養殖はピンチだが、水産資源の減耗も世界的なものだ。現在、世界の漁獲高の約半分以上は養殖したものだが、これは人類が、水産資源を食い潰しつつあることを示している。 

また、水産業もエネルギーの高騰に大きな影響を受ける。イカ釣り漁船が燃料費高騰で休漁したのも記憶に新しい。
 
現在、我々の食生活は、化石燃料エネルギーを何らかのプロセスで食物に変換することによって成り立っているのである。 従って、エネルギーの減耗は、食糧危機に直結する。 これは、正に今、シリアで起きていることなのだ。

ピークアウトする資源

Scientific Americanの記事:Forget Peak Oil, We’re At Peak Everythingを見れば分かるように、我々の直面する問題は、エネルギー。水、食糧といった様々な資源や食糧がピークアウトするということだ。 我々の生活を支えているものは、自然からの収奪だが、それがピークアウトしようとしている。

問題は、水準ではなくピークアウト時に大きなショックが掛かるということで、その瞬間に経済の拡大が止まり、経済の持続的拡大を前提とする経済システムが破壊される。

現在、先進国の金融緩和、中国の環境を犠牲にした経済成長路線など、成長を維持することで、現行の経済システムの維持の努力がなされているが、物理的な状況を逆転するわけではなく、単なる延命策に過ぎない。  

我々は経済成長を前提としない経済システムに移行すべきだし、否応なしにそうせざるを得ないだろう。

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