2016年までの3年間が自公政権の最後のチャンス

小黒 一正

もう直ぐ2013年7月に参院選が実施されるが、つぎの参院選は2016年7月である。他方、直近の衆院選は2012年12月で、衆議院議員の任期は4年である。一部では、2013年7月や2016年7月での衆参同時選挙に関する予測もあるが、最も遅いシナリオで、つぎの衆院選は2016年12月になる。今年7月の参院選で与党が過半数を制する場合、現在の自公政権には、「約3年」という期間、選挙無しの時間が与えられる可能性がある。

円安・株高で日本経済に明るいムードが漂い始め、安倍政権の支持率が高い今こそ、痛みを伴う社会保障改革という本丸に着手する絶好の機会である。だが、もし社会保障改革という本丸に着手しない場合、2016年の与党に対する選挙は厳しいものになる可能性がある。この主な理由は、3つある。


第1に、2016年の選挙前には、デフレ脱却のために進めている「異次元緩和」の結果が明らかになるためである。異次元緩和の目的は、2%インフレを実現することであるが、それは容易でない。

というのは、過去のインフレ率(CPIコア)の推移をみると、1989年は消費増税分が1.4%押し上げているものの、バブル期(1986-1989年)でも、その年平均インフレ率は1%弱に過ぎないためである。

現在の日銀は、消費増税の影響を除き、2%インフレを目指しているが、90年・91年は湾岸戦争、97年は消費増税、08年は原油価格高騰の影響があるため、これらの要因を除くと、平時にインフレ率が2%を超えたのは1985年が最後である。

図表: 消費者物価指数(除く生鮮食品)の対前年比の推移

アゴラ第63回(図表)

第2に、財政の圧迫要因はこれまで社会保障費であったが、今後は利払い費も急増するためである。2014年・15年に予定している今回の5%増税で調達できる財源は約12兆円(消費税率1%分を約2.5兆円で換算)である。これに対し、毎年1兆円超のスピードで膨張する社会保障費を抑制しないと、今後10年間で社会保障費は約10兆円以上増える。

さらに債務残高の急拡大により、現在約9兆円の利払い費は、金利水準が変わらなくても今後10年間で約8兆円増の約17兆円に膨らむ見込みである。この結果、今回の増収分を考慮しても、財政赤字は現在の約44兆円から今後10年間で50兆円以上に拡大する計算となる。

第3は、消費増税5%の延命効果は約4年に過ぎないためである。以前のコラムでも説明したように、Braun and Joines (2011)の試算では、今回の消費増税を実施しないシナリオでは2028年まで財政は持続可能であるものの、増税を実施するシナリオでも2032年までしか持続可能でない。

以上の理由から、もし社会保障改革という本丸に着手しない場合、2016年の選挙前における財政状況は、再び厳しい方向に歩み出している可能性が高い。2009年の総選挙で自民党が敗北し、民主党への政権交代が起こった背景には、戦後の政治の中心であった自民党に対する失望が原動力になった。

他方、野田政権が決定した社会保障・税一体改革の5%増税は歴史に残る偉業であったが、その政権交代で政治を担った民主党は、2009年の政権公約(マニフェスト)を破り、多くの国民の失望をかった。そして、2012年12月の総選挙を経て、いまの安倍政権がある。

その意味で、2016年までの「選挙無し」という「約3年」の期間は極めて貴重である。これは、国民が自公政権に与えた最後のチャンスとはいえないだろうか。現在、政府・与党は社会保障制度改革国民会議や経済財政諮問会議を中心に、社会保障改革を議論しているが、この約3年の期間を生かし、痛みを伴う社会保障改革という本丸に着手することが望まれる。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)