農業に限らず「ものづくり」も6次産業化が求められているのではないか

2013年05月20日 13:19

アベノミクスの成長戦略として、農業の「6次産業化」市場を現在の1兆円規模から10年間で10兆円に拡大したいとしていることは、農業の構造転換が新たな成長を生み出す可能性を持っていることをよくあらわしています。「6次産業化」は農水産業や畜産業の生産を担う第1次産業、食品加工の第2次産業、流通や販売という第3次産業、それらを統合することによって農業の生産性と競争力を高めようということです。
安倍首相「強い農業をつくる」「クールジャパン発信」 成長戦略第2弾発表 : J-CASTニュース :


なぜ6次なのかですが、第1次産業の「1」、第2次産業の「2」、第3次産業の「3」で、ひとつはそれらの役割をすべて合わせ持っているという意味で「1+2+3=6」ですが、昨今では、その統合によって開発、マーケティング、ブランド化などの相乗効果がでてくるという意味で「1x2x3=6」の掛け算だということも言われ始めています。後者の掛け算効果に期待したいところです。

現実には、すでにその流れはまだ大きくはないにしても起こってきています。生産者による直接販売がブームを起こし、産地の直売所の店がコンビニ数を超えてきたことや、零細な生産者との協業で商品化をはかるコーディネーター企業が生まれてきたり、また流通企業が生産者と契約して買い取る、また一部では農業にも進出しているところもあります。あとはどうやってその流れを大きく育てていくかの問題でしょう。

すでに食料ですら、消費者は、価格だけでなく、食生活とマッチングする商品企画、安心、美味しさを感じさせてくれる物語を感じるかどうか、ブランドの品質など、求める価値は多様化しており、高い品質を生み出す生産だけやっていればいいという時代は終わっているので、当然起こってくる変化です。つまり「ものづくり」からの進化が時代のニーズだということになります。

さて、これは農業だけの問題でしょうか。村田製作所の村田社長が、アベノミクスの評価で、最終製品で冴えない日本の電機業界の現状では、どのような商品を開発すればいいかすら見えてこず、セットメーカーの復活が部品メーカーにとっても重要だとおっしゃっています。
「3本目の矢である成長戦略が重要だ。電機分野でセットメーカーが研究開発に力を入れるような政策が必要になる。部品会社が高機能化や超小型化で成果を上げても、それを使って製品をつくるメーカーが復活しない限り、最終的に売れる商品群が見えてこない」

そのとおりでしょう。いや日本にはまだまだ「ものづくり」で頑張っている企業があるといっても、それは日本がものづくりで世界を制覇していたころに築かれた開発力や技術力で支えわれたものです。当時に培われ、また蓄積していった技術の強さで健闘している企業がまだ日本には残っているということです。

しかし、元気な最終製品のユーザーが海外に移るにつれ、そういった企業が、生産だけでなく研究開発も海外に移っていく可能性は高く、というかすでにその流れも起こってきており、やがて国内は製造だけでなく技術開発の空洞化すら起こってきかねません。

さらに経済成長の主戦場が途上国に移っていきます。そうなると、価格が重要にならざるを得ず、品質の高い部品よりは、そこそこの品質をもった標準的な部品による価格競争も起こってくるでしょうから、品質の優位さがいまほどは効かなくなってきます。

たとえば、スマートフォンですが、博報堂DYグループ・スマートデバイス・ビジネスセンターが行った日本のスマートフォンやタブレットの保有率調査でわかったことは、日本よりは中国の都市部のほうがいずれの保有率で圧倒的に高いことだという記事がありました。
中国都市部でのスマホ保有率は日本の約2倍の93.1%、スマホユーザーのタブレット保有率は日本の約3倍の47.3.% (1/1):MarkeZine(マーケジン) :

そういえば、観光地で中国や台湾などの観光客の人がタブレットで写真を撮っているシーンをよく見かけます。携帯電話が普及しつくした日本は、スマートフォンは携帯からの買い替え需要が主になってきますが、中国の場合は、モバイルそのものの普及がスマートフォンを伸ばしてきているのです。つまりはじめて持つのがスマートフォンだという人たちで市場の成長を支えています。

当然勢いが違います。しかも、需要のあるところ、市場の大きいところで産業は発展してくるのです。この記事のなかで重要だと思うのは、「無料アプリのダウンロード経験は、日中ともに8割を超えている」けれど「有料アプリのダウンロード経験は、日本は3割以上に対し、中国は1割以下にとどまっている」というところです。つまりモノでは途上国の市場は大きな市場ですが、活用、サービスの需要は途上国よりはやはり先進国で起こるということを示唆しています。

さて、日本のものづくりを象徴する、また花形産業であったエレクトロニクス産業の敗退を振り返ってみると、日本の産業が「ものづくり」を極めれば、また「ものづくり」でイノベーションを重ね、高い品質や性能を生み出していけば市場を制覇できるという神話にとらわれすぎた結果ではないかと感じます。

しかし消費者が求める価値観や購買を決める要素が多様化してくるにしたがって、生産者とのギャップが生じてしまったのです。いくら性能や品質をあげても価格が下落するばかりというのは、価値のマッチングができなかったということです。違う努力を重ねてきてしまったのでしょう。

企業は「製品」そのものの価値をあげることに努力してきたけれど、消費者は「活用」が広がったり、深まったりしなければ価値が上がったと認めなくなってしまいました。しかもそれは欧米のほうが激しく起こってきました。

日本の「ものづくり」がぶつかってしまった壁は、生産者の価値観だけにこだわりすぎ、ものを「活用」するための「サービス」の開発やビジネス化に遅れてしまったからと一刀両断にするのは言い過ぎかもしれませんが、「モノのサービス化」の流れのなかでモノを生かすという視点が弱かったことは否めません。

その壁から抜け出すには、ひとつは「活用」の市場に焦点をあてること、そのためには、製造という2次産業、流通・販売やソフトなどのサービス業という第3次産業や第4次産業の組み合わせ効果で付加価値と競争力を追求していくことになってくるはずで、その意味でも農業だけでなく、日本の製造業も掛け算産業化していくことが必要だと感じます。
そういう意味では、製造業の「6次産業化」、またソフトウェアを4次産業とすると、「2✕3✕4=24」なので「24次産業化」なのかもしれません。

成長分野だといわれている医療分野を想像してみてください。検査や治療機器だけをつくって売れるというものではありません。そこには情報提供や医療現場への技術提供を含めたビジネスが求められてきます。

日本はマスコミや評論家が「ものづくり神話」をほんとうに根深いところまで浸透させてしまいましたが、「ものづくり」と「サービスづくり」のいい出会いがあってこそ、市場が生まれ、また育つという価値観への転換がなければ、日本の成長戦略も危うくなってきます。

日本の製造業が、モノの開発や製造だけでなく、消費者の隠された本音、価値が生まれてくるビジネスの仕組み全体に視点を向け、領域を広げたり、領域の異なる業界とのコラボレーションを追求するようになってくれば自ずと新しい道がひらけてくるのではないでしょうか。それは農業の成長戦略とも重なってくる問題だと感じます。

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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