品格を落としたのは橋下市長より「後見制度」悪用の弁護士仲間

北村 隆司

橋下大阪市長の従軍慰安婦を巡る発言は弁護士の品格をおとしめたとして、大阪弁護士会所属の弁護士グループが橋下氏の懲戒を同弁護士会に請求すると言う。

これは、橋下氏が前回懲戒処分を受けた山口県光市の母子殺害事件問題とは全く異なる性質の問題で、懲戒請求を準備していると言うグループの良識を疑いたい。


光市母子殺害事件の場合は、橋下氏が「事件の担当弁護士を懲戒にかけろ」とTV番組で視聴者をけしかけた事件で、弁護を引き受けたら例え極刑に値する様な犯罪人であっても、依頼人の利益のために許される全ての手段を使って弁護する義務がある当該弁護士の職務を真っ向から否定したもので、言動は弁護士の風上にも置けない暴挙であり、懲戒処分は当然であった。

更に付け加えるなら、私は「配慮に欠ける軽率な言動だったが、違法とまでは言えない」と言う最高裁判決は、橋下氏に甘すぎたと思っているくらいだ。

然し、今回の「従軍慰安婦を巡る」橋下発言は、弁護士活動とは無関係な政治家としての発言であり、その内容が気に食わないからと言って弁護士の品格を傷つけたと問題にするのであれば民主主義は成り立たない。

この弁護士グループは、戦前の帝国議会で卓越した弁舌・演説力を武器にたびたび議会の演壇に立ち、満州事変後の軍部の政治介入、軍部におもねる政治家を徹底批判した弁護士出身の立憲政治家として高名な斉藤隆夫氏の三大演説も、内容が気に食わなかったら弁護士の品格をおとしめたとして懲戒を請求するのであろうか?

私に言わせれば、この発言を「品格をおとしめた」とする弁護士グループこそ、弁護士としての「資格」を疑いたくなる行為で、品格どころの騒ぎではない。

懲戒請求の理由について「憲法が定める基本的人権や男女平等を無視し、基本的人権の擁護を定めた弁護士法にも反する。弁護士の品格をおとしめ、市長の弁護士としての資格に疑問が生じている」などの文言で調整しているそうだが、その理由の薄弱さにも呆れる。

繰り返すが、橋下市長の発言は政治家としての発言で、弁護士の業務とは無関係である。

憲法の前文には「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」とあり、政治家の発言は厳格にその自由を保障されている。 

更に、国民の権利の条項では第十四条で「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とあり、弁護士業務に関係ない政治家としての発言を、偶々当人が弁護士資格を持つと言う理由で差別扱いすることも禁じている。

一般国民から見れば、障害者や高齢者の財産処理に選任された弁護士らが、顧客の弱みに付け込んで預かった財産に手を付ける不祥事が全国で相次いでいる事こそ、弁護士の「品格をおとしめる」遙かに劣悪な行為である。

最高裁によると、判明した被害額は少なくとも5億円近くに上ると言うが、何故か弁護士会の動きは鈍い。

意見の異なる政治家が偶々弁護士だったと言う理由で騒ぐ暇があるなら、弁護士仲間の盗人退治を先にする事が、品格の回復の近道である。

2013年5月26日
北村 隆司