ボーイング787運航再開のブラックユーモア

2013年05月31日 02:19

バッテリーが発火するという大きな障害を抱えて、運航停止になっていた全日空のボーイング787が、故障の根本原因の究明ができていないにも関わらず、来月の予定を前倒しして5月26日に運航を再開した。

友人のマウロ・Aはアリタリア航空のボーイング777型機の機長、つまり飛行機の専門家である。日本にも頻繁に飛ぶ。そのマウロにボーイング787の運航再開をどう思うかと聞いた。
「787はいい飛行機だよ。でも777はもっと素晴らしい。だって
20年近くも実際に飛んでいて、バッテリーには何の問題もないんだから」
彼は言って方目をつぶって見せ、仕上げにニャリと笑った。


マウロはボーイング777をこよなく愛し、誇りにし、全幅の信頼を寄せている。その事実を差し引いても、僕は787を否定的に見ている彼の意見に今のところは賛成だ。僕自身も777に乗って何度も日本とイタリアを往復し、先日はスペインからペルーまでの往復も777に世話になった。ボーイン グ747、つまり「ジャンボ」が空から消えつつある今は、飛行機での長旅をすることが多い僕にとっては、777が一番親しみのある航空機だ。777を始めとして他に多くの選択肢があるのに、どうしてわざわざナンカヘンな787に乗らなければならないのだろう?

今年1月の787のバッテリー事故のあと、ボーイング社は故障の原因究明を懸命に行なったが結局分からず、可能性のある80通りのケースを想定して、これに対応する形での改善策を米FAA・連邦航空局に提示して了承された。それを受けて運輸省は3月26日、日本航空と全日空に運行再開を正式に許可した。その後バッテリーのシステムの改修作業と試験飛行などが行なわれ、全日空と日本航空は安全が確保されたとして、6月1日からの運行再開を決定 していた。全日空はそれを前倒しして、今月26日に運航を再開したのである。

米FAA・連邦航空局はたとえば、「なぜバッテリーが発火するか」が不明でも、ボーイング社は「たとえバッテリーが発火しても大丈夫」と考えられる程に十分な策を施した、と判断したに違いない。同社はさらに「運航中の飛行機が墜落する確率」と同じ程度かそれよりも低い数字にまで、バッテリーの 発火の確率や故障の可能性を抑えているのだと考えられる。いや、そうでなければならない。故障原因が究明されていないのに、敢えて運航再開に踏み切るには、そうした考えられる限りの建設的な論点をクリアし、改良した上で結論を出したのだろう。その内容がFAAに支持された。FAAは厳しい 審査で知られる役所だから、ボーイング社が提示した不具合の解決策はきっと十分に安全なのだろう。FAAの判断を受けて、これまた厳しい審査で知られる欧州航空安全局(EASA)も787の運航再開を認めた。だから、やっぱりきっと787は安全だと考えたい。

一方、首を傾げたくなることもたくさんある。いや首を傾げたくなることばかりだ。だからこの記事を書いているわけだけれど。

先ずFAAは、ボーイング社の提出した80項目に渡る改良・修正案を受け入れて、バッテリーは何重にも安全装置を施されるから、大事故は起きないとしたが、根本の原因が分からないのになぜそう断言できるのだろうか。また一体どうやってそのことを保障するのだろうか。80項目とは、想定でき るあらゆる原因を挙げて、これに対処できるようにした。つまり80の改善策のうちのどれかが有効に働くだろうという、いわば「希望的観測」的対策である。それって「ヘタなテッポも数撃ちゃ当たる」と同じで、目くら滅法に策を施しただけ、というふうには考えられないのだろうか。

バッテリーの主な改善策というのも不思議だ。それは発火した補助動力装置(APU)用バッテリーやメーンバッテリーの電池(セル)を絶縁テープでぐるぐる巻きに囲み、監視装置で電圧の管理を強化した上で、全体を排煙機能つきの密閉容器に入れるというものである。バッテリーが再び発火して も、それは箱の中でがんがん燃えるだけで外には燃え移りません、というわけである。

燃える(発火した)ことが問題なのに、それを防止するのではなく、再び燃えるようなことがあったら火を箱の中に密閉しますとは、つまり「臭い物にフタ」をするということである。また煙は機外に吐き出され、炎も箱の中に閉じ込められて機体は無事ですと言われても、箱の中で燃えているバッテリー は死んでいるか少なくとも機能不全に陥っているはずで、そのバッテリーに頼っている、さらなる機体の機能の一部も、同じ状態になるに違いない。

それにも関わらずボーイング社もFAAも、
「故障しない保証はないが、大事故はない。だから心配するな」
と主張しているわけだ。が、心配しますよ、それは。なんにも頼るもののない空の上で、飛行機が火事になったら、あるいはバッテリーが発火して火事になりそうになったら、はたまたそういう可能性があるかもしれない、と考えたりしながら座席に座っていても少しも楽しくないわけで。

飛行機に乗るのならば100%の安全やゼロリスクというのはもちろんあり得ない。しかし、故障の原因は分からないが「故障は封じ込めたから安心しろ」というのは、たとえば新品のPCを買ったところ中にウイルスが潜んでいて、でもそのウイルスは今のところは眠ったままで、しかもこのまま永遠に目を覚まさない可能性があるから安心してPCを使え、とメーカーに言われているようなものだ。そんなもの、可能性やら確率やらつべこべ言っているひまがあったら、さっさとウイルスを取り除いてくれよ、というのが人情というものではないだろうか。

ボーイング787は昨年末の時点で、世界各国の航空会社から800機以上の受注を受けていて、日本の2社を筆頭に既に50機以上が納入されている。早く運航を再開して安全をアピールしないと、運航を停止されていた50機にまつわる損失だけじゃなくて、受注を受けている分にも納入の遅れや最悪 の場合注文取消しなども起きて、膨大な損失につながりかねない。そこでボーイング社は、なり振り構わずに運航再開へ向けてのロビー活動を激しく行なったのではないか。結局、まず運航再開ありき、だったのではないかと疑いたくもなる。

驚いたのは、日本での運航再開の第一便に218人もの乗客が搭乗したことだ。臆病な僕にはとても考えられない。全日空副社長も操縦室の予備席に乗ったそうだから、218人の乗客はもしかすると全員がサクラだったんじゃなかろうか。あるいは乗客の誰も787がトラブルを抱えている飛行機である ことを知らなかった。あるいは全員がスリル大好き人間だった・・

冗談はさておき、搭乗客はきっと、米FAAも日本の運輸省も航空会社も皆安全と言っているのだから安全だ、と考えたのだろう。あるいは不安はあるものの、ま、皆が乗るのだから自分も乗ろうと考えた。またきっと仕事や私事の都合でその便に乗らざるを得なかった、という人もいるのだろう。そして 騒がれたあとの飛行機に乗って安全を確かめたい、という勇気ある者もいたのだろう。人は皆それぞれだ。

多くの人間は-特に僕のように臆病でバカな人間は-理論や理屈では動かない。感情で動くものだ。その感情が「ボーイング787には気をつけろ」と言っている。そこで僕は、自分はもちろんだが、良く旅をする大学生の息子にも、今後は飛行機に乗るときは、それがボーイング787ではないことを必 ず確認してから利用するように、と強くアドバイスした。他の家族や友人知己にも。だって777を始めとして、幾らでも787の代替航空機があるのだから、故障の原因が究明されて事態が明確になるまでは、無理して787に乗る必要はないのではないか。

目的地には永遠に到着しないより、遅れて到着したほうがいい。遅れたことで、たとえば仕事なら信用をなくしたり、罵倒されたり、首になったりすることもあるだろう。でもそうしたことも全て「生きていればこそ」の物種だ。気にすることなんか何もない。

仲宗根雅則
テレビ屋
イタリア在住

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